無情の世界
死んだ。たぶん。
なぜかと云うと先程まで病室で身体のあちらこちらにチューブがつながれ人工呼吸器も被せられていたはずの感覚がない。また様々な医療機器の電子音、医療器具の金属音、医者や家族の声、看護師のサンダルと床が擦れる音など何も聞こえて来ない。
それより何より息苦しくない。しんどくもない。どこも痛くない。爽快という程ではないにしろ気分も悪くない。ただ暗い。ひたすらに暗い。真っ黒だ。瞼を開けてみる。が然し開かない。いや。と云うか瞼がない。それどころではない。そもそも身体がない。どう表現出来ようか。漂っているとでも云ったところか。
どれほどの間か分からないが漂い続ける内に遥か彼方に点にも満たない小さな白い光が目もないはずが見えた。と思った瞬間、凄まじい勢いで一気に吸い込まれた。
そこはまるで地吹雪のように前も後ろも上も下も右も左も白い粒子の渦だ。その中を進む。やがて徐々に徐々にではあるが勢いが収まって来た。行く手に何やらもっと白い壁がある。真っ白だ。更に進んだ。そうしてその壁の前まで来た。すると正面の一画がゆっくりと開いた。
中に入ってみるとやはり真っ白だ。しかも奥行きも高さも幅もどれ程あるのか分からない。そして遠くから緑に光る文字らしきものが近づき浮かんでいる。
「→に従ってお進みください」その通りに行くとカウンターらしき所に着いた。
「このまま文字表記を続けますか?それとも案内人を呼びますか?」と聞いて来た。
「はぁ。ええまぁ。案内人を」と口がないので思ってみる。いやはや果たしてどうしたものかなどと考えているとワインレッドのネクタイに濃いグレーのスーツを着た白髪交じりの初老の男が立っていた。
「ようこそお出でいただきました。村屋明さんですね」
「はっはい、そうですが…」事態がまったく呑み込めない。
「驚かれるのも無理はございません。貴方だけではありません。誰だってそうですよ」
「ここは…えっと…」
「そうです。いわゆる黄泉の国です」
「ううんってことはやはり死んだってことですか?」
「その通りです。でもご心配には及びません。しっかりサポートさせていただきますので。申し遅れましたが、わたくし水面野鏡と申します。まあ立ち話も何ですので、こちらへどうぞ」云われるがままその人について行くと一度も入った事はないが、超一流企業の社長室か超一流ホテルのスイートルームのような部屋に通された。
「っん。あらっ」服を着ている。白いTシャツにジーンズそれにスニーカーだ。と云うか身体があるではないか。
「びっくりされましたか。やはり身体はあった方がいいでしょう。服はわたくしが選びました。ラフなスタイルの方が楽だと思いましてね。かと云ってジャージなどはわたくしの好みではございません。はい」身体が戻ったのはよかったが、少々面倒くさそうな人だ。だがまあいい。
「まあどうぞお掛けください」ふっかふかのソファーだ。
「早速ですが、村屋さんには先ず六日間の入院をしていただきます」
「何ですかぁ。私この間まで三か月入院してたんですよ。またですか。まだどこか悪いんですか?」
「いやいや。そう云うことではございません。生前の灰汁を取ると申しますか、まあ魂の浄化とでも申しましょうか」あちら、いやこちらの世界も色々とあるものなのだ。
「なる程。誰でも六日間入院するんですか?それとこちらでも一日と云う単位なんですね」何か代わり映えがしない。
「先ず一日と云う単位ですが聖書にも神は六日間で世界を創られたと書かれているでしょう。ご存知ありませんでしたか?」いちいち癇に障る男だ。先が思いやられる。
「それと入院期間ですが殆どの方は六日間です。先程生前の灰汁と申しましたが、灰汁とは悪です。罪の重さによって期間は変わって来ます。例えばジャック・ザ・リッパーなどは未だ入院中です」
「えぇっそんな奴は地獄に落ちるんじゃないんですか?」
「いやいや村屋さん。地獄なんてございません。もしもあったとすれば悪事を働いた人は仕方がないとしてもそこの番人は嫌ですよ。いくら罪人と云えども苦しめたり痛めつける役なんて真っ平御免ですからね」それはそうかもしれない。閻魔大王だって舌抜きに飽きて来るに違いない。
「ううんって事は、ここは天国ですか?」
「いやいや村屋さん。貴方質問が多いですな。おいおい分かってくるでしょうから。とにかく入院の手続きをしましょう」
まあ地獄ではないことが分かっただけで今日のところは良しとしよう。然しあの如何にも病室らしい感じは嫌だ。例え六日間であっても。
「あのぉ、どんな部屋に入院するのでしょうか」
「この部屋です。いつでもわたくしをお呼びください。それとこのタブレットでお食事も好きに注文出来ますし、ギターも。お好きなんでしょ。他、映画観るなりゲームするなりご自由にお過ごしください。はい、ここにサインいただければ手続き終了となります。退院時にはまた迎えにまいりますので、それでは」
「いやちょっと」引き留める間もなく男はいなくなった。
「黄泉の手引」テーブルの上に置かれている。さっきはなかったはずだ。説明もなかったが、おそらくはこれを読めと云うことなのであろう。早速開いてみた。そこには手形があり「左手を当ててください」とある。その通り試してみるといきなり凄まじい勢いで一気に何処かに吸い込まれた。まただ。注意書きでもして於いてほしいものだ。心臓はないが心臓が止まるかと思った。
少し古い感じのする街並み。正に昭和の世界だ。
病院の前に出た。産婦人科か、なるほど。意図がありありだ。人生を振り返れと云うことなのだろう。死の直前だと思っていたが死んでからだったのだ。ただ「走馬灯のように」とはいかず多少時間が掛かりそうだ。今更とも思う。仕方がない。付き合うか。己に。
やはり母が若い。実写で見るのは無論初めてに決まっている。安産だったようだ。然し赤ん坊はどうも苦手である。例え自分であったにせよ。
一週間後自宅に帰って来た。
父も若い。兄はと云うと愛想も糞もないガキだ。ここからは大体想像がつく。曲がりなりにも二人の子を持つ親である。どうせ小学生くらいまでは誰も似たようなものであろう。
眠たくなるような日々を見せつけられるのだなと思った時、ストーブで右手に火傷を負った。しかもその瞬間だけ子供の自分と入れ替わった。それだけではない。家の近くの臭くて黒くて汚い小さな川と云うか溝にはまった時も、幼稚園で大便を漏らした時も、いわゆるガキ大将にいじめられた時も、父母に叱られる時も、近所のオジサンに怒鳴られる時も全部入れ替わった。そのくせ誕生日やクリスマス、正月といった子供が大好きなイベントでは入れ替わる事がない。何で嫌なことだけ二度も経験しなければならないのだ。
「水面野さぁーん」いつでも呼んでくださいと云っていたはずだ。
「はい、村屋さん。どうされましたか?」すぐに現れた。
「何ですか。この嫌な事人生二度目体験は。しかも楽しいことは全部スルーして」
「ははぁん。手引をちゃんと読まれていませんね。最初に書いていますよ。ほら」
「えぇうっそぉ。そんなページなかったですよ」
「手形のことは2ページ目です。慌ててめくってしまったのですね」何て事だ。
「しっかりしてください、村屋さん。そんなの早送りすればいいんですよ。このリモコンで」いつの間に。
「あら、それとモードが実体験。しかもマイナス設定です。そりゃあそうなりますよ。この状態でまともに付き合っていたら五十八年過かってしまいますよ」全くもって嫌味な男だ。わざとマイナス設定で手引きが2ページめくれるようにしてあったのではないのか。だがまあいい。早目に呼んで良かった。そこからは良い事も悪い事もどんどん早送りした。
つまらない人生であった。
「はい、村屋さん。六日経ちました。いかがでしたか?ご自分の人生を振り返ってみて。充実していましたか?」もう何をか云わんや。
「それでは、この国での暮しについてご説明いたします。先ずはお住まいです。何処でどのような家に住まわれるか。次にこちらの生活に必要な手続きについてです。そして最後に今後の身の振り方です」何か非常に面倒くさそうだ。この男が云うと殊更思う。それにしても。
「今後の身の振り方とはどう云うことですか?」
「村屋さんっ。順番にぃ説明しますから」この男こそ魂の浄化が必要だ。
「先ずお住まいですが基本的にはお一人での生活になります。場所は生前と同じに見える地域。以前お住まいだった場所と同じに見える地域。そして全く別の地域。の三つからお選びください。家は一戸建て、集合住宅或いはログハウス、茅葺き屋根、煉瓦造りなど和風、洋風、東洋風様々なお宅がお選びいただけます」流石にこう云った面は充実しているようだ。
「次にこの国の手続きについてご説明しましょう。これも基本的には生前の役所の手続きをイメージしていただければ結構かと存じます」
「と云いますと?」少し下手に聞いてみた。
「はい。お住まいが決まれば先ず住民登録をしていただきます。また今後お引越しの場合は事前審査が必要になります」
「事前審査ですか?」面倒くさいのは本当に嫌だと云うのに。
「そうです。もう一度申しますが、こちらではお一人でお暮しいただきます。最初はお住まいが決まれば自動登録となりますが、今後お引越しの際はその地域を様々な観点から審査させていただきます。また面会のご希望がございましたら相手方の暮し振りを審査と申しますか、少し調べてさせていただきます。其々のご事情、ご都合を確認し、相手方のご希望を尊重すると共に周りへの影響も考慮します。こう云った理由で事前申請、事前審査がございます」
「はあ」随分長ったらしい説明だったが昔からこう云う手続きとかは本当に苦手だ。
「それと一番お知りになりたいのではないでしょうか。この国にいらっしゃる方とのコンタクトの方法です」ああ面倒だ。
「村屋さん。ここ大事ですよ」この男、人の心を読んでいやがる。
「こちらでは逢いたい方と云うのは二種類と考えております。一つはご家族やご親族、お友人やお知り合いの方。つまり貴方のことを認識している方。もう一つは著名人など貴方はご存知ですが相手方にはその認識がない場合です」ってことはもしかしたら申請すればジョン・レノンやブライアン・ジョーンズにも逢えるってことか。これはしっかり聞いておかねばならないだろう。
「先ずご親族の方との面会に事前審査はありません。親族用の簡単な申請のみです」
「父や祖父、祖母に逢うのにも申請がいるってことですか?」
「はい。但し初回の面会後に相手の方の承諾があれば、次回以降は申請なしで面会出来るカードが発行出来ます」まあそれくらいは仕方ないか。
「でもこれはご親族三親等までです。それ以上は申請と審査が必要です」
「ってことは従兄弟姉妹なんかは事前審査の対象なんですか?」
「勿論それはそうなりますね。ただご友人の場合も同じですが、簡単な申請、審査で面会数の制限があるカードを発行出来ます。はい」こんな面倒くさいことが果たして自分に出来るのであろうか。生前はすべて伴侶に押しつけて来たのだ。
「先ずはお住まいから決めていきましょう。地域と家の種類です。お決まりになりましたらお呼びください。其々そのタブレットで擬似体験が出来ます。ではごゆっくりお選びください。時間はたっぷりございますから」こいつといつまで付き合わなければならないのか。
こちらに来てからと云うもの本当は目はないが目が回りそうな日々だ。あの男のペースにまんまと乗せられている。大体説明が一方的過ぎやしないか。タブレットやリモコンの操作は全く云わないし、こちらが失敗するを待っているとしか思えない。かと云って他に頼る人?もいない。そもそも奴はいったい何者なのだ。天使か。いやいやそれは有り得ない。あんなふざけた天使がいるはずはない。いやそうでもないか。ここまでは思っていた事と尽く違うのだから。だがまあいい。
そう云えばこちらではあの男以外には逢っていない。逢えていないと云った方が正確だ。住まいを決めるに親父に逢えないか。いやそれは無理だ。申請には住所が必要だと云われるに違いない。
いや疲れた。暫くは何も考えたくない。魂だけでも疲れるものなのだ。二、三日してから考える事としよう。時間はたっぷりあるはずだ。
忘れていたが現世はどうなっているのだろうか。とにかく今まで目まぐるしく、考える余裕はなかったのだ。世間は。家族は。タブレットで見る事が出来るのではなかろうか。あの男からは一切何も聞かされていないが検索してみるか。いや待て。全て見られているに決まっている。別に悪い事をする訳ではないが慎重になるべきだ。映画でも観ているのが今は賢明だ。
映画と云えば、そうスティーブ・マックイーンが好きだ。「荒野の七人」「大脱走」先ずどちらも主題曲が抜群に良い。最高だ。黒澤映画のリメイクと実話との違いはあるが見所も満載だ。DVDも持っていたがテレビで再放送する度に観ていた。特にマックイーンの登場シーンはいつも鳥肌ものだ。
五時間程だったが二本立て続けに観た。これで何度目だろうか。もしかしたら彼にも逢えるのかもしれない。いつの間にかこちらの方が年上になってしまったな。
舞台は「荒野の七人」にしてみるか。流石に「大脱走」と云う訳にはいかない。トム、ハリー、ディックを掘っている場合ではない。
西部劇の街並みだ。でかいサボテンと空っ風に転がる丸っこい枯草。水車がある。と来れば煉瓦か木の家と云うところか。うん、やはり木造だ。暖炉もいる。風呂は檜。こう云う部分は日本人が出てしまうものだ。キッチンは広め。ベッドは木製のセミダブルを2つ。だが牧場はいらない。トウモロコシでも育てるか。近くには髭親父のバーも必要だ。ギターを置いておく。
「随分と凝りましたねぇ」いつの間に。やはり見られていた。油断も隙もあったものではない。
「はい、好きなものですから。お願い出来ますか?」
「はいはい、大丈夫ですよ。先ずシミュレーションしてみましょう。そこのゴーグルを着けてみてください」またしてもいつの間に。
「こうですか?ああフィット感いいですねぇ。おおぉ、凄い。あれっ誰か来ますよ。ううん?これはユル・ブリンナーではないですか」そっちかぁい。でもこれは「荒野の七人」と云うよりは「ウエストワールド」の方だ。
「どうかされましたか?何かありましたか?もごもご云っておられますが」
「いやいや何でもありません。いいんじゃないですかね」これ以上希望を出すのは辞めにした。
「それではこちらにご入居と云うことでよろしいですか?」
「はい。そうしてください。ところで入居はいつ頃出来ますか?」
「今です。そちらの扉をお開けください」早っ。既に西部劇だ。
「そしてこれがお住まいとなります。それでは」
「いやちょっと」いつでもこうだ。何で最後まで説明しない。だがまあいい。
「TSUINOSUMIKA2120」
やはり随分と埃っぽい。雨でも降ろうものなら地面はドロドロになるのだろう。人影はまだ見当たらないが、ロバが一頭水車の横に繋がれている。こちらに来て初めて見る生き物?だ。
そろそろ面会を申請するとしようか。住処も決まったし事だし問題はないであろう。
「水面野さん。お願い出来ますかぁ」声を使って呼んだ方がが良さそうだ。
「はいはい、村屋さん。また今度はどうされましたか?」すぐに現れてくれるのは便利だが、云い方が気に入らない。
「そろそろ面会の手続きをお願いしようと思いまして」
「はい。面会の手続きは『がばなの里』と云う役所で行います」随分ふざけたネーミングだ。
「それは何処にあるのでしょうか?」
「その扉を開けたところです」
「ええっこの扉はまた元に戻るのでは?入院していたあの部屋ではないんですか?」
「いえいえ。村屋さんもこちらに来られて何日か経ったのですからもうそろそろシステムに慣れていただかなければ。大体お分かりになりませんかね。何処に行くのも扉を開かなくてはならない。それこそ現世でも同じでしょう」死んでいなければブチ殺してやりたい。
「まあそう怖いお顔をなさらずに」非常に悔しいが完敗だ。
「『がばなの里』に『逢いたい課』と云う所がございますのでそちらに行ってみてください。詳しく説明してくれますから。それでは」ああもう耐えられない。
ああしんどい。死ぬ前もしんどかった。死んだ時はしんどくなかった。が今はしんどい。だがまあいい。
珈琲でも飲んでから出掛けるとするか。
流石に大きい立派な役所だ。東京都庁よりも大きいかもしれない。行った事はないが都庁に。そこそこは人が来ている。みんな死んだ人なのか。こんなに広くては『逢いたい課』は何処にあるのか全く分からない。通り掛かった爺さんに聞いてみた。
「あのう『逢いたい課』って何処でしょうか」
「あんた何云うとるん?此処やがな」此処やがなと云われても何処だ。窓口は何処なのだ。受付か総合案内的な所はないかと見渡してみた。ないなと思った瞬間に『逢いたい課窓口2120』と書かれた札の前の席に座っていた。そして目の前にはあの男がいた。
「水面野さん?これはいったい?」これまた事態が呑み込めない。
「はい、わたくしは村屋さんの担当ですから」
「だったら別にわざわざこの場所に来なくても良くはないですか?」ふざけるにも程がある。
「村屋さん、これはルールですから。面会の受付はこの『逢いたい課』なのです」なる程と納得するしかない。
「それでは早速承りましょう。面会のご希望はどなたですか?」
「はい、亡き父です」
「まあ此処は亡き方ばかりですよ。分かりましたお父様ですね」いちいち…もう。
「はい、お父様。土越弘平さんですね。今日はタブレットをお持ちですか?」これは必ず携帯していないといけないものなのであろうか。全く使いこなせてはいないが。
「はい、ありがとうございます。それでは一緒に申請登録して行きましょう」これって此処に来なくても良いのではないかと思いませんか?と思った。だがまあいい。
「はい、これで入力完了です。後は相手方であるお父様からの承諾があれば面会出来ます。何か質問はございますか?」
「面会は何処で出来るのでしょう?」
「皆さんお一人でお暮しですのでプライベート尊重の観点から、お互いのお住まいへ直接のご訪問は基本的には出来ません。それ以外でしたら過去にお暮しになった所と同じに見える所や面会専用のレストラン、ホテル、生前に行ってみたかった所と同じに見える所など様々な場所がご利用いただけます。もちろん日帰りでもご宿泊でも結構です」前にも感じていたが、「何々と同じに見える」この云い回し何とかならないものか。正確に云えばそうなのであろうけれども。いちいち癇に障る。
「以上でよろしいでしょうか?一日二名まで申請可能ですが」ならばちょっと著名人の事を聞いてみるか。
「あのぅ前の説明の時に著名人の事云ってましたけど、どうなんでしょうか?」
「お逢いになりたい著名人ですか?いらっしゃると」それは誰だっているに決まっている。
「その方にも依りますが、面会申請を受付されている方もいらっしゃいます」
「ジョン・レノンはどうでしょうか?」
「ジョンレノン?ええっとあのビートルズの?」もはやジョン・レノンに「ビートルズの」などと云う形容は必要がない。
「お調べいたします。じょん、じょ、じ、G?J?」
「Jです。J・O・H・N L・E・N・N・O・N」
「はい、はい。ありました。ありました。一般受付されていますね」
「やったあぁ。お願いします。直ぐお願いします」
「確かに受付されていますが、順番がぁ…六万四千名程お待ちです」うぅっそう。あちゃあ。そう、そりゃそうだ。ジョン・レノンだもの。そりゃそうだ。
「一般の方は年間二百名程お逢いになっておられますので、ざっと三百二十年待ちですね」
「さっ三百二十年⁈」
「はいっ」やけに嬉しそうではないか。でもショックが大き過ぎて腹も立たない。
「ああちょっと待ってください。丁度今ラッキーチャンスサービス中ですよ」
「なっ何ですか?そのラッキー何とかサービスって」
「ううんと。クイズに正解すると順番が繰り上がるようですね。一問正解で一千番、二問で二千番、三問で四千番、はあ一問ごとに倍々になっていますね。ですから七問正解すると、ぴたり六万四千ですよ」それは良い。
「はい。はいやります。やります」
「ただクイズを途中で辞める事は出来ますが、間違えると二問前のサービスに戻ってしまうようです」
「でもやります。やります。それで問題を聞いてから辞める事は出来ますか?」
「ううん。出・来・な・い…ようですね。はいっ出来ません」また嬉しそうだ。だがまあいい。
「いやあ、でもやりますよ。やりますとも」
「それでは早速始めましょう」絶対に七問正解するぞ。
「では第一問。ジョンレノンの、生年月日は?」こりゃあサービス問題だ。
「1940年10月9日」
「正解。では第二問。ジョンレノンの、命日は?」
「えぇ千九ひゃくぅ…はち…いやいや、12月8日」危ない、危ないところだ。命日は日にちだからな。
「はい正解。よく気が付きましたね。年月日でありませんからね」良し。2000ポイント、ゲット。
「次、三問目。挑戦されますか?」
「はい、もちろん」
「ではまいります。難易度が上がるようですよ」何でも来い。
「ザ、ビートルズの、映画『ヘルプ!』の、オープニング映像で、ジョンレノンが、弾いていた、ギターの、メーカーと、型番は、何?」これは知ってますよう。
「ギブソンJ160E」
「ううん正解。流石よくご存じですね。次もされますか?されますねえ。それでは第四問。ええ、ジョンレノンは、ローリング、ストーンズの、『ロックン、ロールサーカス』と、云う番組に、ゲスト、出演していますが、その時に、着ていたのは、ジーン」ジーンズの上下だ。これが答えか?
「ジーンズの上下ですが、その時に、ジョンレノンを紹介した、ミック、ジャガーが、着ていた、セーターの、色は?」よっしゃー。
「青っ」
「正解」何のこれしき。ローリング・ストーンズも詳しいぞい。然しもはやジョン・レノン問題ではない。
「村屋さん。現在四問終了、8000ポイント獲得です。次も挑戦、ですねえ」
「もちろん最後までやりますとも」
「では第五問。ジョンレノンが、オノ、ヨーコに、初めて出逢ったのは、ロンドンでの、ヨーコの、個展でしたが、其処に、展示されていた作品『天井の絵』には、何が、描かれていた、でしょうか?」これは有名な話だ。
「YES!」
「残ねーん。答えは、YES」何を云う???
「いやいや今云いましたよ。ちゃんと今」
「答えは、YとEとSです。!はございません」こんなのイチャモンだ。
「それは勢いですよ。と云うか!ビックリマークとは云ってませんよ」
「いやあ、わたくしには見えました。見えてしまったのですよ」
「そんなのないよ。そんなの納得出来ません。出来る訳ありません!」
「今も見えましたよ。村屋さん。!が。申し訳ございませんがクイズ終了となります」
消えた。ああ何て事だ。もう死んでしまいたい。
でもまた直ぐに現れた。もはやもう遊ばれている。喰われた。ああ喰われた。喰われてしまった。
「いやあ、残念でした。でしたが、ポイントは獲得されています。五問目不正解でしたから四問目から二つ戻って二問正解2000ポイントです。六万四千番から六万二千番に繰り上がりです。三百十年待ちになりました」三百二十年も三百十年も一緒ではないか。どうせ時間はたっぷりあると云うのであろうが。
「今、少し関連情報を見て来たのですが、面白い企画を見つけましたよ」
「何ですか?企画って」何を云っているか殆ど聞こえていない。完全に力が抜けてしまった。
「と申しますのが『レノン山中と行くジョンレノンゆかりの地』ツアーです」
「何々ですか。そのうさん臭いツアーは?」
「それがですね。レノン山中と云うそっくりさんとジョンレノンゆかりの場所を巡って最後にニューヨークのセントラル・パークと同じに見える場所で『イ、マ、ジ、ン』を大合唱する。と云うツアーのようです」しょうもない。つまらん。完全に馬鹿にしている。何がレノン山中だ。どうせ相当くだらない奴に違いない。
だがもういい。それよりも親父から連絡が来ない。ジョン・レノンに翻弄されて忘れていた。然し久し振りの我が子からの連絡に大喜びして直ぐさま返答してもよさそうなものであろうに。
「ところでお父様から承諾の連絡はまだございませんね」やはり心が読めるのだ。こいつは。
「村屋さん、お疲れだとは存じますが、本日は特別サービスとしてもうお一方申請受付出来ますが、如何いたしましょうか?」
「えっ本当ですか?」しまった。乗ってしまった。
「はい、結構です。ご希望がございましたらお聞きしましょう」
「じゃあ、ブライアン・ジョーンズでお願いします」どうせ罠に決まっているのに。
「プロゴルファーの?」それはブレンダン・ジョーンズだ。と云うかその人はまだ生きているだろ?知らんけど。この男、わざと云っているのだ。本当に人を喰っているとしか思えない。
「じゃなくてローリング・ストーンズのメンバー、元リーダーですよ」
「先程のクイズにもその名前が出て来ましたね」ローリング・ストーンズ知らんのかい。だがまあいい。
「確認してもらえますか?」ジョン・レノン程ではないだろう。「クマのプーさん」のプールで死んでから五十年以上経っているし順番もそう大したことはないはずだ。更にクイズがあれば今度こそ慎重にやる。
「はい、分かりました。ブライアン・ジョーンズ、BとJですね」学習出来ているではないか。そこはよろしい。
「ああはい、あ、ありまし…あらあら、あれまあ…」
「どうしました?」また何かあったのだ。
「いや、最近になって昔の恋人、アニタ…」
「アニタ・パレンバーグ」
「そう。そのアニタさんが、ブライアンさん宅を訪ねて来てそのまま同居始めたようなのです。無許可で」あちゃあ。ブライアン…どうよ。アニタって七十過ぎの婆さんだぞ。あんたまだ二十七だろ。やっぱり、ずっと好きだったんだ。五十年以上経っていると云うのに。
「で、どうなったんですか?」
「もちろん即入院です。お二人とも。無許可ですから。暫く退院出来ないでしょう」何て事だ。もう疲れた。こちらに来てから疲れる事ばかりだ。生きて行くのは大変だったが、死んでからも大変だったのだ。
とりあえず家へ帰ろう。そこで親父からの連絡を待つとしよう。
あれから数日経ったが未だに親父からの連絡はない。面会申請の入力完了で相手側に連絡が行くことになっているはずだ。あの男の云う通りであれば。だがメールと一緒で一方的に送りつけているだけなのであろう。LINEのように既読になるわけではないのだ。ひたすら待つだけだ。いつ帰るとも知らず主人を待ち続けた忠犬ハチ公のようだ。もう暫く様子を見てみるか。本当は催促してみても良いのだが、あの男の顔を見たくない。
それにしても人を見掛けることがない。先日、水車の横に繋がれていたロバもいつの間にかいなくなっている。役所では結構な数の人がいたようだが、会話と云う程ではないが老人の声を一言聞いただけだ。この街でも人を見掛けたことはない。近くのバーにも髭親父どころか誰もいない。
現世の事も気にはなるが、あの男に悟られていると思うと容易に検索するのもためらってしまうのだ。
もう一度役所に行ってみようか。何か分かるかもしれない。
やはり相当でかい所だ。あの男以外に受け付ける人はいないものか。人はまばらだ。またあの爺さんがいた。
「あんたまた来たんかいな。こんなとこ何回来ても一緒や」
「何故ですか?」と尋ねる前にいなくなった。おかしな爺さんだ。
「村屋さん。こちらです」あの男の声が聞こえた瞬間に『逢いたい課窓口2120』の前に座らされていた。
「今日はどうされましたか?」
「父から連絡がまだ来ないんです」
「そのようですね」知っているのなら何とかすべきではないか。
「何か他の方法とかはないものですかね」
「無くもないのですが、一先ずもう一度連絡してみましょう」
「お願いします。もう死んでいるから、もしもの事などないと思いますが大丈夫ですよね」
「そのようなご心配はありません。無断だと困りますが旅行とかの可能性もありますし大丈夫でしょう。まあ時間はたっぷりあるのですから気長に待ちましょう」このセリフはもう聞き飽きた。だがまあいい。
どうせ暇だからまたリクエストしてやろう。
「あのう、また著名人お願い出来ますか?」この男、疲れさせてやる。
「はい。どうぞ構いません」本当に構わないのだな。
「先ずは、ジョージ・ハリスン。あっ元ビートルズです」このような形容は嫌だが仕方がない。どうせ知るはずもない。
「知っていますよ。色々と勉強しました。村屋さんの事」何だ?何だ?気味が悪い。
「はい。それではぁ、ああ今受付中断中ですね」
「ど、どうしてですか?」
「暫くの間、瞑想されるようです」マジか。まあもっともらしい。
「忌野清志郎。本名、栗原清志はどうでしょうか?」ジョージ・ハリスンもこの人も死んだ年齢が自分と一緒だ。
「いまわの?随分と悪趣味な芸名をつけたものですね」この男にはこんなツッコミしか出来ない。そもそも発想にセンスがないのだ。
「お調べしましたところ、この方も受付中断中ですね。どうも自転車でこの国を一周されるようです」分かるけど。この国一周ってどのくらい掛かるのか。と云うかそもそも有限なのか、此処は。聞いてみたいと思ったが辞めた。
「松田優作はどうです?」
「俳優さんですね。はい、あっ駄目ですね。この方入院中です」
「何で、また女性と同居か何かですか?」
「いえ。先日映画関係者のパーティーがあったらしく、そこでかの有名な『世界のクロサワ』黒澤明監督を殴ったとかで連行されたようです」これも分かるけど。
「じゃあスティーブ・マックイーンはどうです?」
「ああ駄目ですねぇ。こちらは療養中です。ビール中毒のようです」好きだったらしいが本当か。こちらでも中毒になるってことがあるのか。じゃあフレディ・マーキュリーは?と云おうとしたが、彼は男にしか興味がない事を思い出したので辞めた。
「ならばブルース・リーは?ブルース・リー」もうやけくそである。
「これも中断中です。この方は、燃えよカンフー?と同じに見える所を旅すると云うことらしいのです」これも分かる。元々は彼のアイデアだもの。余程悔しかったのだ。
「キース・ムーンは?ミュージシャン。ドラマーです」やけくそ序でだ。
「それにしても村屋さん。よく次から次へと出て来ますね?死んでみて良かったのではありませんか?」何て云い草だ。死んでみて良かったとは何だ。死んでみて良かったとは。極めて失敬な奴だ。
「いやあ、はい。お調べいたします。また同じような感じですね。入院中です」
「何で?」
「こちらの場合も先日、左利きで黒人ギタリスの…」
「ジミヘン。ジミ・ヘンドリックス」
「はい。それと金髪ロン毛ボサボサ白人女性シンガーの…」
「ジャニス・ジョプリン」
「そうそう。あと骸骨の服を来たベーシストの…」
「ジョン・エントウイッスル」
「こちらの方々四人揃って何処で手に入れたのかドラッグパーティーのどんちゃん騒ぎして全員連行されました」これは至極納得出来る話だ。然しこのメンバーでセッションしたら凄い事になるに違いない。
疲れさせようとしたが、こちらが疲れた。家に帰ろう。
やはりおかしい。何かおかしい。
見られているのは分かっているが、タブレットを使って調べていく以外思いつかない。やってみるか。
とにかく先ずは親父だ。が然し、タブレットが先ず立ち上がらない。IDやパスワード以前の問題だ。こんなことなら自分でもこう云う機器の扱いに慣れておくべきだった。伴侶や子ども任せにせず。だがまあいい。今日はビールでも呑んで休もう。
夜中に目が覚めた。(こちらにも夜があるのか、と思われるであろうが)
「→→→明、おい」聞こえると云うより響いて来る。姿は見当たらない。
「俺だ。明」
「親父…?」
「やっぱりお前来ていたんだな。まあ来た感じはあったが」
「来てたって、何で返事寄こさないんだよ」
「返事?連絡寄こしたのか。だが来る訳がない」またまた事態が呑み込めない。
「来ないんだよ。連絡なんて。とにかく時間がない」何を云う。こちらはたっぷり時間があるそはずではないのか。
「それより親父。親父なのか。何処にいるんだ。何をしているんだ。何で聞こえるんだ。さっぱり分からん」
「俺の居場所なんてどうでもいい。こうしないとバレるんだよ。奴らに。テレパシーとでも思ってりゃいい」嘘みたいな話だ。呑み込めないが呑み込むしかなさそうだ。
「それよりもうすぐ来るんだよ。ジェームズが」
「ええっ?ズズが?」夫だ。父親は日本人、母親はイギリス人で東北育ちのハーフ。私はズズと呼んでいる。
「来たら直ぐに連れて逃げろ。チャンスは一度しかない」
「ええっ、ズズが死ぬのか?」
「ああ、もう直ぐだ」
「何で?こちらに来るときは元気だったはずだよ」
「癌だ。あちこちに転移している。既に昏睡状態だ。お前が来てから向こうでは既に五年経っているはずだ」
「ええっそんなにも?」ただ自分もこちらに来てからどれ程経過したのかよく分からない。
「まあそう感じるのも無理はない。向うとこちらとでは時間が違うんだ。とにかく奴と逃げろ」
「何で?何処に?何?」やはり呑み込めない。
「お前も感じているはずだ。此処はとんでもない所だって。いいか、ジェームズに身体が与えられる前、つまり入院する前に連れて行くんだ」
「いきなり何を云ってるんだよ。そんな所にのこのこ出掛けたら直ぐにバレるだろ?」
「身体を捨てて行け。捨て方はなあ。とにかく身体を置いて抜けるんだよ。考えずに飛ぶんだよ。イメージだ。イメージに従って飛ぶんだ」
「何だよ、それ。もっと分かるように説明してくれ。おかしくなりそうだ」
「お前のその生意気な喋り方、相変わらずだな。誰に似たんだか。だがまあいい。先ずはジェームズがこっちに来た時その場所をイメージして飛べ」
「こっちに来た時ってどうやったら分かるんだ?」
「それは俺が合図する。→→→を送る」
「何で親父にその時が分かるんだ?」
「まあ聞け。逢ったらジェームズを捕まえてそのまま飛べ」
「いったい何処に飛ぶんだよ」
「本当の場所さ。本来行くべき場所をイメージして、強くイメージして一気に飛ぶんだよ。ここは本当の場所ではない。分かるだろ?お前にも」
「分かるよ。何となく。分かるけど、何で親父は知っているんだよ」
「教えられたんだよ」
「教えられたって誰に?」
「爺さんさ。役所にいたんだよ。関西弁の爺さんが」あの爺さんに違いない。
「それで分かるようになったと云うのか?その時が?何者なんだ。その爺さんは?」
「分からん。だが本当だ。おそらく。爺さんの云ってたことは。俺は信じる。とにかくいつでも飛べるように準備しろ。イメージしろ」
「親父はどうするんだよ?」
「俺は母さんを待っているさ。もう相当ババアだからな」
「一つ教えてくれ。親父。何で死んだら『本当の場所』とやらに直接行けないんだ?」
「爺さん曰くは『人はみんな愚かやから周りに流されて遠回りするんや。此処はまやかしの世界や』って」愚かなのは全くその通りだが、ますます何が何だか分からない。
「それから最後に爺さん云ってたな」
「何て?」
「『でも希は捨てたらあかん』って」
それから数日後。
「→→→」が来た。親父からだ。練習はしてみたが、本当に身体から抜ける事が出来るのか?ジェームズの所まで飛べるのか?本当の場所とやらに行けるのか?
「ズズ!」イメージして飛んだ。
「誰?ここは何処?」
「私…」
「明…?」
「一緒に来るんだ」本当はないが、ジェームズの腕を掴んだその時、凄まじい勢いで一気に吸い込まれた。
一瞬の出来事だった。
本当はないが、瞼をゆっくりと開いた。
「村屋さん…」あの男がいた。
「困りますよ。勝手な事されては」失敗したのだ。この後どうなるのか?ズズはどうなったのか?
「ズズ。ジェームズは?」
「普通に入院されていますよ。何も気がついておられないでしょう。まだ理解出来ないでしょうから。ただ相当驚かれたとは思います」無事なら良かった。やはり親父の云った通り死んだのだ。
「父は?」今度逢ったら思いっ切りぶん殴ってやる。
「勿論入院中です。期間は分かりませんがね。村屋さん、貴方も。ですよ」まあそれはそうであろう。
「あっ身体」
「はい。お家に抜け殻がありましたから入っていただきました」またしても完敗だ。
「村屋さん、これからのためにも詳しくご説明させていただきます」最初こちらに来た時以来になるが素直に聞く気になった。
「お一人でお住まいいただく理由についてです」そう云えば詳しくは聞いていない。
「それは揉め事を避ける事が最優先だからです」
「揉め事?」
「そうです。例え親子や兄弟、夫婦や親族、親しい友人と云えども一緒に暮らせば必ず揉め事があります。そして揉め事は憎悪を生みます。そうしてやがて争いが起きるのです。結果最後に悲しみや苦しみ、憎しみが残るだけなのです。わたくしどもは遥か昔にその事を悟ったのです。お分かりいただけますか?」初めてこの男がまともな話をした。
分かる。分かる気がする。が然し人との距離を置いた平安を本当の平安と呼べるのだろうか。分からない。偽りではないのか。それは水面に映る平安だ。
「それではゆっくり静養してください。その時が来れば今後の身の振り方を相談いたしましょう。時間だけはたっぷりとあるのですから」その時?今後の身の振り方?それは、いつ?
「いやちょっと」既に男の姿はなかった。
最初こちらに来た時に入院した部屋の中にいる。違うのは扉がないことだけだ。
「希は捨てたらあかん」か。
此処はいったい。本当は目はないが目を伏せると床が目に入った。
「大脱走」のワンシーンを思い出す。
「ザ・トンネル・キング。次はハリーだ!」