第三話 一期一会
まったく話進んでなくて草です。三年半ぶりに思い出した。有栖、三年半も教室の前に立たせてごめんな。
対戦、よろしくお願いします。
「そういえば、名前聞いてなかったね」
彼は自身のことを村田瑛斗と名乗った。村人Aというのは強ち間違ってはいなかった。私が有栖という名前を伝えると、それでその衣装なのかと感心された。『不思議の国のアリス』はどうやらここでも知られているらしい。ってか、こっちのセリフだわ。
目的地の”ばぁむ、食う?”という部屋は、一目見てわかるほどに様々な装飾が施されていた。
出入り口となるドアを除いた四方の壁に、画用紙で作られているであろう絵本に出てくるような木々があり、床には段ボールで作られたであろう丸太がいくつかある。椅子として用いる予定なのであろうその丸太は段ボールをぐるぐる巻きにして年輪を再現しているようで、焦げ茶色に塗られているのも相まってとってもリアルだ。そういえば、お本を読もうと背中をもたれたあの大きな木と色が似ている。
この部屋に入ってくるときにドアの上に掲げられていた”ばぁむ、食う?”という看板も段ボールや画用紙を用いて装飾したものなのだろう。段ボールに画用紙を貼り付け、鉛筆と消しゴムで何度も書き直しながら下書きをし、それを基に決して少なくない時間をかけて製作していく。そもそも、初めから文字を縁取るような形になっている段ボールはたぶん無い。この部屋に入る前に視界に入り、部屋の中からは見えず、部屋から出るときには背を向けているため視界に入らない。看板とはそういうものだと言ってしまえばおしまいだが、そういうものに対して手を抜いていない部分にこそ気合の程度が表れるものだ。
村田にここは何の部屋なのかを聞くと、”ばぁむ、食う?”はバウムクーヘンを販売する部屋だと答えた。正直、なんとなくそんな予感はしていた。だって、めっちゃそのままだし。段ボールでできた丸太の年輪も、年輪にしては輪が重なっていない。渦みたいにぐるぐる巻きになっていたから、バウムクーヘンみたいだなと感じていたのだ。サンドイッチは食べたはずなのに、ちょっと小腹がすいた。
装飾の完成度に感心して村田につたないながらも感動を伝えると、鼻高々といった顔をして笑った。聞けば、この装飾の原案がどうやら村田らしい。本人に直接伝えてしまったという恥ずかしさと嬉しさが同時に押し寄せてくる。
ふとできた会話の間のちょっとの静寂を利用して、人差し指で頬をかくしぐさをしながら村田が私の顔を申し訳なさそうに見ながら言った。
「有栖さん、さっきの人手が足りないっていう話なんだけど…」
村田の髪型はハーフアップショートです。この文化祭において生徒たちは基本的に制服のズボンにクラスTシャツを合わせた服装になっています。有栖が村人みたいだと感じたのは、そのクラスTシャツとは別に木こりの斧を模した小道具を自作して背負ってていたからです。さすが美術部。