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第二話 五里霧中

 有栖ちゃんは暇があまり好きではない子です。最初の優雅な(?)姿は、アリスを演じているから暇ではないのです。これから彼女に起こるいろいろなドタバタをうまく書けたらいいなと思っています。

対戦、よろしくお願いします。

 と、見栄を張ったはいいけど、どこだここ。まじで知らない。とりあえず、この部屋から出るか。虫眼鏡とベレー帽を装備して、いざ探索だ。気分はさながら、シャーロック。もっとも、ベレー帽を被っているとはいえ服装はアリスのコスp…ではなく服装だから、マッチしてはいない。これ、もしかして不審者じゃない?大丈夫か?


 横にスライドするタイプのドアを開けて、部屋を出る。開けてさっそく、こちらに走ってくる村人の見た目をした男子が一人。彼にポン酢とやらについて聞いてみようか。彼は私を認識したかと思うと、開口一番に


 「人手が足りないんだ!」


 あのー、私はポン酢というものを探して──


 「人手が足りないんだ!」


 えっと、その


 「人手が足りないんだ!」


 なるほど。これは何度話しかけても同じことしか言わない村の入り口に立っているタイプの人だな。村人Aとしておこう。服装もそれっぽいし。仕方ない。別の人を探して話しかけるべし──


 「ちょっと、無視かい!」


 村人Aは私を引き留めた。彼は黒髪で、黒縁の眼鏡をかけている。紺色に近い黒色のズボンを履いていて、独特なデザインのTシャツを着ている。私よりも頭一つ分くらい背が高い。

 いや、人手が足りないこと以外のことも話せたから村人Aというのは違うのかもしれない。まあ見た目は村人だし、そのままでいいだろう。彼の頼みを断る理由もないので手伝うことにする。情報収集は基本だ。人手の足りないところへ歩きつつ、彼との話が弾む。


 「いやぁ、悪いねえ。別のクラスの人に手伝ってもらうなんて」


 別のクラス?


 「そう。別の出し物があるだろうに、助かるよ。アリスと探偵のコスプレまでしちゃってー、松明祭に対する気合は十分だね。」


 これはコスプレじゃなくて、と言いかけて知らない単語が登場したことに気づく。ショウメイサイ?証明?照明?わからない。とりあえず、カタカナ表記のままにしておこう。彼の言い方からなんとなく、ここではショウメイサイなるものが行われているのだと分かった。まずは一歩前進だ。もう一つ知りたいことがある。


 その、ショウメイサイ…?にポン酢っていうものある?


 「ポン酢?松明祭のポン酢といえば文化祭の実行委員会だけど」


 ブンカサイのジッコウイインカイ。なるほど。知らない単語しかないな。外国かってくらい。もしかしたら本当にそうなのかもしれない。穴から落ちたし。

 というわけで無知な私に村人Aは懇切丁寧に説明してくれた。…少し不審な顔をしながら。

 彼の話によると、ポン酢はこのショウメイサイを裏で仕切る陰の少人数組織らしい。それと、パンフレットというお品書きみたいなものをもらった。ショウメイサイ、かなり大きな規模だ。この建物全体を仕切っているのに少人数なのか。もしかして、人手が足りていなかったりしているのだろうか。

 そういえば、彼も人手が足りないと言っていたような。だったら一気に近づくぞ。


 えっと、あなたもポン酢なの?


 「いや、俺は違うけど。部活の出し物もクラスの出し物もあるし。…ああ、さっき人手が足りないって言ったからか。それはウサギ騒ぎを見ようとうちのクラスの奴らがほとんどはけちゃったからなんだ。」


 ウサギ騒ぎ。もしかして、私を追い込んだあいつらか。想定していた回答ではなかったけど、思わぬ収穫かもしれない。

 パンフレットによると、この建物は大きく北館と中館と南館の三つで構成されている。私たちが今いるのが、北館3階の中館への通路と突き当たるところ。北館の廊下も中館の廊下も見通せる場所である。見回してみても、松明祭(パンフレットで確認した)はまだ始まっていないのか、建物内に人はあまりいない。そこをうさぎが走っているとは。しかも準備中。とんだアクシデントだろう。

 と、その時。


 「あっ。ほら、あっち走ってる」


 あっちと言いながら彼の指さす方を見るとそこには──

 確かにうさぎがいた。中館の階段から南館へとドタドタはしている。あの様子だと、この建物内を走り回っているみたいだ。ぱっと見、20匹くらいだろうか。でも見覚えあるやつがいる。間違いない。あいつらを捕まえればなにかわかるかもしれない。あれを追いかけるのはなかなかに大変そうだ。いや、まだ走れば追いつく。よし、足りない人手は申し訳ないけど、私的にはこっちの方が優先事項だ。ごめん村人A。行ってきます。


 「あ、ポン酢いるよ。こっちに」


 …なんだと?ポン酢?そっちの方がうさぎよりもゴールに近いじゃないか。ってか、ゴールじゃん。再び彼の指さす方を見る。

 その先は今いる北館の階段。この階の教室でやる出し物─あの教室ではお団子を売るらしい─を回っているのだろう。それが終わったのか、髪を簪でまとめた彼女は階段に向かった。ご苦労なことだが、今の私にとっては都合がいい。ポン酢に話を聞きに行く。


 階段に着いて気づく。上に行ったか下に行ったかがわからない。うまく煙に巻かれてしまった。もっとも、あちらはそんな気ないのだろうけど。気づけば、うさぎたちもいない。二兎を追うものはってやつか。やってしまった。


 とりあえず村人Aの元へ戻り、ポン酢を見失ったことを告げると彼は


 「まあ、今が一番大変だろうからね。バタバタしてるんでしょ。彼らが作ってきた集大成なんだから、俺たちもその一部として成功させないとね」


 と私に言った。参加してはいないけど、はぐらかしながら頷いておいた。

 そして、紆余曲折あったがようやく人手の足りないところに着く。部屋の外の壁に看板がある。


 ”ばぁむ、食う?”


 よし、まだ状況が飲み込めたわけじゃないけど、目先のことから一つ一つ解決していこう。

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