第一話 青天霹靂
文化祭をテーマに、この世界に連れてこられる主人公・光崎有栖(自称)と文化祭を取り仕切る文化祭実行委員会のメンバーの間に起こるどたばたが書きたい!(書きたい!)という思いだけでとりあえずこの一話を打ち込みました。いい結末に迎えたらいいなーと淡い期待をしています。かなり短いお話になるとは思いますが、つたない文章に耐性のある方や何に対しても寛大なお心で許容してくださる方にお勧めです。
対戦、よろしくお願いします。
今日は日曜日。だから私は、あの綺麗な海を見渡せるお庭で朝食のサンドウィッチを食べて、その後はお庭の近くにある大きな木の下でご本を読むの。この本のタイトルは「不思議の国のアリス」。何百回と読んで擦り切れている箇所もあるけれど、私はこの本が好き。だからこうしてアリスみたいに演じt…いや、振舞っているの。あれ、言い直せてなくない?
……まあいいや。そういう日もある。今日がそういう日だっただけ。
よし、サンドウィッチができた。これは傑作の予感。なんてったって、イチゴのジャムとクリームを挟んだんだ。早く庭に行って朝ご飯を食べよう。今日は特別な日になる予感!
お庭についた。さっきは言葉が雑になっていたけど、もう今は私の内なるアリスをもう一度呼び戻した。だから、"お"庭だ。
お庭にあるベンチに腰掛け、サンドウィッチを入れたバスケットのふたを開ける。白いパンに挟まれた赤と白のそれはこちらの食欲を大いにかきたてるもので、口に運ぶのに時間はいらなかった。うん、おいしい。これは、前に作ったぶどうとクリームを挟んだサンドウィッチよりおいしいな。うーんでも、これにはちみつとか…はさすがに甘すぎるか。何なら合うかな…。ってあれ。もうない。10個も作ったのに。いつの間に私はあの高カロリーたちを体内に取り込んでしまったんだ。後で運動しないとやばいな。なんでおいしいものはいつだって高カロリーなのか。困ったものだ。
まあそれはそれとして、持ってきたご本を読むことにしよう。おとといは確かアリスが大きくなっちゃうところまで読んだのよね。だから今日はその続きから。
大きな木の下にできた木陰で涼しいそよ風を受けながらアリスを読む。展開はもうわかりきっているけれど、でも大好きなことに変わりはないの。アリスは、うさぎさんを追いかけて穴に落ちて…
──ドドドドッ。
それから、小さくなって…
──ドドドドドドドッ。
…なんなのこの音。私の「アリス語り」を遮るなんて。万死に値するわ!そんなことをするなんて、いったいどんなやつなn…って、なにあれ!?
うさぎの大群じゃん!ってか、ここにうさぎいたんだ。え?これまじでアリスみたいじゃん。私、もしかして主人公?にしては、うさぎ多いような。こんなうさぎって走れたっけ。急に違和感が襲う。
察した。うさぎたち、もしかして私めがけて突進してきてないか?この庭、この大きな木とベンチと絶景くらいしかないし、うさぎがこれらを求めているとは到底思えない。ってことは、やっぱり私か。
覚悟は決まった。いくらうさぎといえど、50匹くらいいると恐怖を覚えるものだ。私は大きな木の木陰から、木の幹をスターティングブロックにしてクラウチングスタートを華麗に決めた。荒らされたらいやなので、アリスの本は抱えたまま。
庭のふちをなぞるように走る。やはりうさぎたちは私目当てだったようで、絶景や大きな木はもちろん、さっきまでサンドウィッチが入っていたバスケットにも目もくれなかった。サンドウィッチの自信を少し無くした。
いつまで追いかけてくるのだろう。もしかして、私が疲れて動けなくなるまで続くのだろうか。うさぎたちスタミナありすぎじゃない?まだ追いかけてくるのかよ。というか、アリスと展開違くないか?こっち側が追いかけるんじゃなかったっけ。そう思いながら、追いかけてきているうさぎを見ようと振り返った一瞬。左足が地面を踏み外した。正確には、そこにあるはずの地面がなかった。それはまさに穴であった。
落ちる。壁に本がずらりと並ぶ穴なんて現実に起こったら変だけど、確かに私は今、そこを落ちている。間違いない。ほっぺをつねっても目が覚めなかった。無論、目が覚めているからである。
…落ちる時間が長い。そろそろ退屈してきた。暇すぎて空中で胡坐をかいている。することがない。いつの間にか抱えていたはずのアリスの本もどこかに落としてきたらしく、手元にない。
仕方ない。一人じゃんけんでも始めようか。せーの、最初はグー、じゃんけn…ったああああああああああああああああああ!!!!
落ち切った。地面にあたって思わず痛いと叫んでしまったが、不思議と痛みは感じなかった。でもまだからだはフワフワしている。ジャンプしたら飛べるんじゃないかと思えるくらい。飛べないけど。
ってか、私の大事な日曜日を邪魔しやがって。一体全体どんなやつだ。見つけたらとっちめてやる。
さて、まずは現状把握だ。ここはどこなんだろう。あたりを見回す。
茶色い木目なのに硬い床、それと端に寄せられている積みあがった机と椅子。テープでぐるぐる巻きにされている。壁には、窓と緑色の板。窓の外には太陽が昇っていて、遠くには頭は白い青色の山が見える。緑色の板には白い文字が書かれている。が、太陽の光がまぶしくて、うまく読めない。少し横に移動する。
「迷いつくして遊びつくして抜けだして(今年のテーマは探偵です)Byポン酢」
ポン酢。それが私をここに連れてきた主犯のようだ。わざわざ向こうから自白してくるとは。よほど自信があると見た。
迷いつくして遊びつくして抜けだして。テーマは探偵。…なるほど。なにかはわからないが、私が探偵を演じればいいんだな。ここにある一つだけテープで巻かれていない机に虫眼鏡とベレー帽が置いてあるから、間違いない。いいぞ。受けて立とうじゃないか。演じるのは得意だ。
絶対にポン酢とやらを見つけ出して、私の日曜日を邪魔した罪を償わせてやるからな。絶対だ!