えへへ。お礼です
「ははぁ、なるほどねぇ。いや、悪かったなユリーメ先生。アタシが説明を端折ってしまったせいで迷惑かけたね」
「いえいえ、こちらも他の話と勝手に混同してしまったので」
今日は特に暑いので、4人分の冷やしうどんをお昼にを届けてもらいがてら、先日のあらましを説明し、再度出前のお姉さんから話を聞くことになった。
ガーシャちゃんとバウェルさんそしてコモリンさんの3人は研究所内にあるゲストハウスで朝から何やら話し合いをしていたが、お昼ご飯のためにこちらの部屋に戻って来ていた。
次第にたまり場と化しているこの研究所だけど、まあそもそもこの研究所自体、大きさの割に私しか居なかったから、無駄なスペースも多かったし、最近の賑やかな状態は嫌いじゃない。
ただ、様子を見に行った際、ユリーメお姉様は入っちゃダメです、とガーシャちゃんに追い出される寸前にちらりと見えた、ユリーメお姉様と裸できゃっきゃうふふな撮影会を実行するには、という3人の欲望ダダ洩れな会議内容の紙があまりに不穏すぎて、正直それ以降仕事に身が入らない。
ただえさえコモリンさんを訪問したあの日は最後にあれやこれやととても口にできないことがあったのに、まださらに何かするのか……。
「しかし皆さん良い食べっぷりで気持ちが良いすね。特に新しく来たそっちのコモリンさんなんて、こっちが食べたくなるくらいなもんだ。おや、どうしたいユリーメ先生?今日のウドンはあまり進まないかい?オリジナルブレンドした粉を混ぜすぎたかな」
っと、ついお箸が止まってしまっていたようだ。みんなはツルツルと美味しそうに食べている。
「あ、いえいえ、相変わらず美味しいですよ。ちょっと別の考え事をしてまして。こほん、それはともかく、改めて話を聞かせてください」
元気よく走って帰る出前のお姉さんを見送りつつ、先程の話を反芻する。
それによると、声が聞こえてきたのは本当につい最近のことらしい。確かに四六時中きこえてくるから引き篭もっているのに間違いはないのだろうけど、昔からではなかった、という点において、コモリンさんとは違うと分かる。もっとしっかり話を聞いておけば良かったな。
でも、さらなる有力情報を得られた。
というのも、出前のお姉さんはお店がそのまま自宅だという。そしてその近所で最近引き篭もった悪魔。実は一人だけ心当たりがあったんだ。それも、結構初めの頃から。
でもそうなると、やっぱりあの3人にも手伝ってもらうことになるなぁ。何だかんだ上手く行ってるけど、このプロジェクトで関わった子は皆、女の子好きってどういうことなのよ。
もしかして今回もそういう子だったりして……。まあ、私も女の子好きだから特に気にはしないけど。
さて、じゃあゲストルームに戻った3人に声をかけに行くかな。
「あ、ユリーメお姉様、ちょうど良いところに。まず服を脱いでいただけますか?」
うん、せめてもう少しヒネろうよ。
「マウートさんですの?」
歩きながら説明する私に確認してくるガーシャちゃん。
そう、心当たりとは、ガーシャちゃんの家へ行った時に少しだけ話に挙がったマウートさんのことだ。
マウートさんのスキルは、他人への羨望を強く意識させるものだ。
人間界では既にマウートさんの名前を使い、マウントを取る、という言葉もあるとか。でも、せっかく人間界に多大な影響を及ぼし始めた頃に、突如として人前に出なくなってしまったという。
そう、以前ガーシャちゃんの家で思い返していたマウートさんの別件の問題とは、このことなのだ。
「確かにガーシャのお手伝いをしてくださった頃は元気でしたけど、そういえば最近はあまり遊びにこなくなりましたわね。てっきりマウートさんも名前が売れてお忙しくなったのだと勝手に思っていましたが」
「うーん、それは心配だね。なに、私のコレクションを見れば疲れた心も癒されるだろうさ」
どやぁ、と写真アルバムを取り出すバウェルさん。それってあーいう写真のやつですよね。
「引き篭もりならわたくしのほうが先輩ですからね。きっと力になれると思います」
両手をグッとするコモリンさん。身体はご立派な大人なのに、童顔と挙動によって子供に見える。可愛いな。
そうこうしていると、目的の家に着いた。
コンコン、と扉を叩くも、反応は無い。引き篭もっているうえに、人に会いたくない、という言葉も聞いていたので、そうやすやすと会えるとは思っていなかったけど、いざそうなると困ったなぁ。ついここまで来ちゃったけど、特に考えてなかったんだよね。
「ユリーネお姉様、ここはガーシャにお任せください」
自信満々にガーシャちゃんは言うと、持ち運び用のタブレットを取り出して何やら操作し始めた。数分もすると、空から荷物を持った飛行配送悪魔のお姉さんが私達の前に降り立った。
お姉さんはガーシャちゃんと二言三言話をすると、大きな声でこう言った。
「すいませーん、Akumazonの配送デーッス!ガーシャ様から超高給果実の詰め合わせセットのお届けデーッス!玄関前に置いときますが、果実なのでお早めに回収おねがいするデーッス!」
そう言うと飛行配送悪魔のお姉さんは飛び去って行った。さっきのガーシャちゃんはこれを手配していたんだ。そしてさすがはAkumazon。配送スピードが超早い。
「さ、罠は仕掛けましたから、少し離れて見ていましょう」
私の時もそうだけど、ガーシャちゃんて結構策士だよね。
すると、ガーシャちゃんの狙い通り、静かに扉が開いた。
出てきたのは、ガーシャちゃんと同じ位の背丈の女の子だった。急に届いた荷物を訝し気にしながらも、キョロキョロと周りを見渡している。と、私達と目が合った。
「あ、ど、どうも。私『新世代悪魔世代こ――」
「ぴゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ものすごく急に叫ばれた!どどどどうしよう?!怪しい悪魔じゃありませんって言えばいい?怪しくない悪魔って何だよ?!
と、テンパっている私の前にガーシャちゃんがフォローしてくれた。
「落ち着きなさいマウート。ガーシャよガーシャ。久し振りですわね」
「ぁぁぁぁ……。え、ガーシャちゃん?わざわざボクのために来てくれたの?」
「そうですわ。しばらく会えなくてどうしたのかと思いましたのよ」
良かった、友達のガーシャちゃんがいるのを見て落ち着いたようだ。
「ユリーメお姉様、紹介しますわ。こちらがマウート。私からすると妹のような子ですの」
マウートさんはガーシャちゃんの後ろに隠れながら少しペコリとしている。
「初めまして。私は『新世代悪魔プロジェクト』担当のユリーメです」
「私はバウェルだ。なるほど、ガーシャくんの妹的存在か」
聞こえた。今小さい声で、ガーシャくんとユリーメくんも良いがガーシャくんとマウートくんの疑似姉妹も…良い、という言葉が。
「あ、わたくしはコモリンです。わたくしも結構引き篭もりなんで、気が合うかも。よろしくね」
そう言いつつ、しゃがんで目線をマウートちゃんに合わせていた。良い人だ。
一通り自己紹介が済んだので、マウートさんの言葉を待つ私たち。
「え、えっと、初めまして、マウートです。こんな暑い中わざわざボクの為に来てくださって、あくせく働くのも大変ですね。ちなみにボクはクーラーの効いた部屋で冷たいアイスを食べてましたけど」
……。うん、初めまして、で良かった。今回も安心だ……。って、何か今可愛い顔から似つかわしくないめっちゃ上から目線の言葉が出てきませんでした?!ほら、さすがに他の3人も固まってるし!
と、かなり慌てた様子で、今度はコモリンさんを見ながら続ける。
「あ、あ、ち、違うんです。来て下さったことは本当に嬉しくて。で、でも目線を無理に合わせようとしなくていいですよ。そのお胸同様にお腹もぽよぽよしてたらしゃがむのがキツいでしょうし」
……。おかしいな。今日は結構暑いのに、冷たい風がここには吹いてるよ。
「ち、ちがうもん……確かに大きいシャツだと体型隠れるからってちょっとダラダラしすぎてたけど、まだお腹ぽよぽよじゃないもん……」
コモリンさん泣きそうだし!でもごめんなさい、正直コモリンさんはほんの少しだけぷにっとしてるなって思ってました!
マウートさんは目をぐるぐるさせながら、再度ガーシャちゃんに抱きついた。
「あ、ち、違くて、あうあう。た、助けてガーシャちゃん。あ、でもガーシャちゃん相変わらずお胸ペッタンだね。最近ボクのほうがお胸育ってきてるんじゃない?ガーシャちゃんの方がお姉ちゃんなのにね」
ピシィ!と、私は何かが崩れる音を聞いた。たぶん心の崩れる音だ。
「な、なかなかに手厳しい子だね、マウートくんは……」
我が道を行くバウェルさんをして、動揺させている。手ごわい。
「と、とにかく違うんです~!!!」
「スキルが不安定になっている?」
出だしからすったもんだあったものの、とりあえず家の中でお話することになった。
その間もアワアワしているマウートちゃん(ガーシャちゃんの提案で、私はちゃん付けにした)を見るに何か事情があるのではと思い、早々に訊ねてみたところ、帰ってきた答えがこうだ。
「はい、ユリーメさんの言う通り、ボクのスキルは元々、他人への羨望を強く意識させるものです。ですが、最近は人間界での影響が急激に広がった反動なのか、ボク自身にもそういう感情が強く芽生えることがあって。それでその、さっきみたいな上から目線の暴言とかがつらつらっと出ちゃうようになっちゃって……」
悪魔のスキルも一定ではない。特に急激に広まった概念は、時としてその根源たる悪魔自身のスキルにも影響を及ぼす。
「なるほど。確かにそういう事例は私の研究所の記録にもあります。つい最近だと、カヴェドンさんという悪魔がいらっしゃいました。その方は隣人どうしの険悪感情を増加させて混乱をもたらす……はずだったのですが、現代人間界で何故か恋愛の手段として間違って広められてしまい、悪魔としての自信をすっかり無くしてしまい、やがて果ての無い修行の旅に出てしまったとありました」
「そ、そんな子もいるんだね。そう考えると、私の写真も、目的は違えども美しいものを残そうとするという意味では正しく伝わっているのか」
バウェルさんもスキルとは少し異なる方向で人間界に伝播してしまった経緯があるので、うんうんと頷いている。
「それで最近はガーシャの所にも遊びにこなかったのですね。全く水臭いんですから。貴女はガーシャの妹同然なんですから、もっと頼りなさいな」
「あ、ありがとうガーシャちゃん。でもガーシャちゃんのあぶく銭屋敷ってちょっと品が無いから正直あまり行きたくない……」
キーッとマウートちゃんの頬っぺたを引っ張るガーシャちゃんだった。2人とも小さいからこれだとじゃれ合ってる様にも見えるね。あ、バウェルさんがこっそりカメラ構えてる。
「ひょ、ひょにかくこんな感じで、変に他人を刺激しちゃうのが嫌で、そのうち誰かと会うのも怖くなっちゃって、それでボク家に篭っちゃうようになったんです」
うぅ~っ、と泣いてしまうマウートちゃん。本人としては言いたくない暴言をつい吐いてしまうのだから、苦しいだろうな。
「それでは、悪魔ネットで話し相手を見付けるのはどうでしょう。そこでなら直接会って話すわけではありませんし、何でしたらわたくしがネット友達になりますよ」
引き篭もり先輩のコモリンさんがそう提案する。確かにネットでならリハビリになるかも。
「あぅ、いえ、それが、ネットだと相手の顔が見えない分、より一層遠慮なくマウントを取ってしまって……。どこの掲示板でも出禁を食らってしまいました」
ああ、マウートさんのスキルによって人間界でもマウント合戦などと揶揄される現象が勃発しているけど、今の状態じゃむしろネットのほうがより色濃く自分に反映されちゃうのか。
でも困ったな。新世代悪魔プロジェクトとしては、マウートさんのスキルはかなり有用だ。
ネットワークで世界が繋がった現代人間界では、他人への羨望を煽るという行為は相当需要がある。
実際、ガーシャちゃんのスキルと組み合わせたことによって、人間界のガチャマウント合戦は血みどろの醜い争いを生んでいるらしいし。何だっけ、札束で殴り合うとか何とか。
ともかく、このままだとマウートちゃんも悪魔として自信を無くしちゃうかもしれないし……。
「うぅ……。もう、ボ、ボク……」
また泣き出しそうなマウートちゃんを見て、示し合わせたわけでもなく、みんなが口々に言う。
「大丈夫ですわ、マウート。こちらのユリーメお姉様なら、マウートを立派な悪魔にしてくださいますわ」
「そうだとも!もちろん、私たちも協力するよ。マウートくんとガーシャくんを絡めた悪魔的芸術を、私のスキルでさらに強化してみせるさ」
「わたくしも悪魔としてはただ長く生きてるだけですが、何でもお手伝いしますよ」
「もちろん、この新世代悪魔プロジェクトの担当者である私も全力でサポートします。だから安心してくださいね」
そんな私たちの言葉に、マウートちゃんは嬉しそうに顔を上げるも、またすぐに俯いてしまった。
「み、みなさん……こんなボクの為に……最初は暇人の道楽かと思いましたけど、そこまで言っていただけて嬉しいです……。でも、ごめんなさい……ボク……ボク……ッ」
言葉が続かないみたいだ。何か言いたいけど、言えない。そんな感じだ。だから私は、
「大丈夫だよ、マウートちゃん。さっきも言った通り、ここにいる悪魔たちはみんなマウートちゃんを助けたいと思ってる。だから、思っている事があるなら言って。ちゃんと聞いてあげるから」
私がそう言うと、マウートちゃんの強張った方から少しだけ力が抜けた。そして、覚悟を込めた言葉を発そうと、唇を震わせている。
皆もその続きを待ち、ゴクリ、と息を飲む。この際、暴言は無視だ無視。何を言っても、ちゃんとこの子の言う事を受け止めてあげよう。
ややあって、ついに覚悟を決めたマウートちゃんは、こう言った。
「ボク、悪魔辞めたいんです!」
「ホワッツ?!」
思わず人間界のベタなホームコメディ風なリアクションしちゃったよ!え、聞き間違いかな?今、悪魔を辞めたいって言った?
他の3人も、マウートが何かジョークを言ってるぜHAHAHA、って感じでリアクションしてるよ!
「あ、えーっと、冗談……じゃないんだよね?」
「は、はい。実はボク、ずっとこのスキルの使い道が違うと思ってたんです。元々ボクはこのスキルで、人間たちの不屈の精神を底上げしたかったんです」
ふ、不屈の精神ときましたか。少年マンガみたいな単語を現実で聞くのは久し振りだ。
さらにマウートちゃんは続ける。
「他者を羨む以上に、自分自身で負けないでやってやるぞ、という気持ちにさせてあげたいんです。でも悪魔の糧はあくまで負のベクトルを向いたものです。そうやってジレンマになっちゃって……
」
なるほど。分かってきた。他者への羨望というのは、裏を返せばそうなりたいという当人の願望も含まれると聞いたことがある。マウートちゃんは、自分のスキルでその不屈の精神を扇動して、その当人が頑張れるお手伝いをしたいのか。
でもそうなると……。
「うーん、となると、もはや私ではどうにもならないなぁ」
「そうですわねぇ。マウートには前に手伝ってもらってますから、今度はガーシャの番……と思っていたのですけど……内容が内容だけに……」
「荒んだ心を私のコレクションで癒すことはできるかもしれないが、根本的な解決にはならないしな」
「わたくしも引き篭もるのとはむしろ逆のアクティブ精神なお話となると……」
皆で頭を抱えてしまう。私もお手上げだ。マウートちゃんには悪いけど、さすがに私のできる範疇を超えている。
やっぱり、現代人間界なんてマイナーな研究しか能の無い私がこんな一大プロジェクトを担うのが無理だったのかな。
そう思った時、目の端に泣きそうなマウートちゃんの顔が見えた。
……違う!
パァン!
私は自分の両頬を叩いた。
何をやっているんだ私は!この子にこんな顔をさせるためにノコノコと来た訳じゃない!
私は新世代悪魔世代交代プロジェクトの担当者なんだ!
だったら、この子の求めるものに近づけるよう、頭を捻るんだ!
現代人間学なんてマイナーな研究しか能の無い私だから思い付ける事だってあるはずだ!
考えろ……考えろ……。
自分の意図しない……近代人間学……悪魔を辞める……辞める?
……そもそも辞めたらどうする?
「……カヴェドンさんだ!!」
ガタッと私は勢いよく立ち上がった。
「な、なんですのユリーメお姉様?」
皆が目を白黒させているが、お構いなしに私は続ける。
「カヴェドンさんだよ!ほら、さっき話題に出た!」
「ああ、自分のスキルが間違って伝播してしまって悪魔としての自信を無くしてしまったと。でも行方知れずなのではないのかい?」
「いえ、確かに旅には行っちゃいましたが、どこに行ったかは分かっているんです!」
そして、困惑しているコモリンさんに向かってこう言った。
「コモリンさんの裸友達の女神さまに連絡できますか?」
「は、はい?」
コモリンさんは一層困惑していた。
「あっはっは、なるほどね!オレっちもよーく分かるぜ!お前も大変だったなぁ」
長い栗色の髪をワシャワシャさせながら、マウートちゃんの肩をバシバシ叩いているのは、何を隠そう件のカヴェドンさんだ。
「あわあわあわあわ……」
完全に戸惑っているマウートちゃんをよそに、カヴェドンさんが続ける。
「アンタが姐さんのダチのコモリンさんだね。で、そっちが噂の新世代悪魔プロジェクトの総長ユリーメさんか。改めて自己紹介だ。オレっちが元悪魔で現恋愛神見習いのカヴェドンだ。よろしくな!」
……そう、こういうことなのだ。
前にコモリンさんの家でも少し話があったが、悪魔と神々が敵対していたのはもう遥か昔の話。時と共に人間界における信仰心の薄れもあって、今ではお互い協力し合う仲良し種族になっている。
カヴェドンさんは、悪魔として自信を無くしてしまった後、修行の末にその答えに辿り着いたのだ。
『悪魔がダメならいっそ恋愛の神になればいい』と。
そして天界の門を叩き、今では恋愛神見習いとして修業に励んでいるそうだ。
なので、悪魔を辞めた新世代の代表として、マウートさんの友人である女神さんの部下になっていたカヴェドンさんをお呼びしたのだ。
まあ、言動がまだ悪魔時代から抜け切れていないのか、人間界で言うところの元ヤンみたいに見えるけど。っていうか私のこと総長って言った?
「あ、あの。ボク変わりたいんです!ボクの力で人間を健全な精神で競い合えるものにしたいんです!よろしくお願いします!あ、でもその髪色は似合ってないですね……あ、ち、違くてこれは……」
「はっはっはー!いいねー。オレっちも悪魔だった頃はいにしえの悪魔たちに大口叩いてはノされたもんさ。なーに、そういう気概のある奴の方が伸びるってもんさ!」
マウートちゃんの髪をワシャワシャしながらケラケラ笑うカヴェドンさん。やめてー、とあわあわしながら揺らされるマウートちゃん。ちょっと微笑ましい。
「なるほど、元ヤンギャルと毒舌ロリ、こういうのもあるのか」
何かバウェルさんが隣でシャッター切りながら、新しい素材を見付けた探求者の目をしている。
「オレっちもまだ見習いだから、あくまで今日は姐さんの名代ってことで来てますが、コイツのスキルを活かせそうな神は知ってるんで、そこに話してみますわ!」
なにわともあれ。どうやら無事に解決できそうだ。まあ世代交代の為に悪魔の悩みを解決したら天界に移籍されちゃいました。てへぺろ。
……って言ったら怒られそうだけど。
い、いや、逆に考えれば、個人的にも天界とパイプができたんだから、今後何かに活かせるかもしれないし、そう考えればむしろプラスだ。そうしよう。
そんなことを考えていると、カヴェドンさんから逃げてきたマウートちゃんが私の元へ来ていた。
「あ、あの。ありがとうございました。ホントはあの時、やっぱりボクは悪魔のままでいるしなかいのかなって、諦めてました。でも、ユリーメさんが必死に考えてくれたおかげで、光明が見えました。本当にありがとうございます。それで、あの……」
「ん?何ですか?」
声が小さくなったので、最初の時にコモリンさんがやってたように目線が合うようにしゃがんであげる。と、
チュッ。
頬っぺたに柔らかい感触がした。
「えへへ。お礼です」
そう言ってはにかむマウートちゃん。
「あー!あー!あー!!なんてことを!!私のユリーメお姉様になんてことをしてくれますのマウート!!ユ、ユリーメお姉様、今すぐ上書きしましょう!むしろ唇でしましょう!!」
「むぐぐぐぐ~」
慌てて抱きついてきたガーシャちゃんを止める暇も無く、吸い付かれた。
「くはぁ~!いいね!すごくイイ!急に来た恥じらいと欲望が合わさったそのトロンとした表情!あ、どうぞ続けて続けて」
ここぞとばかりにパシャパシャとカメラを撮るバウェルさん。
「あらあら。わたくしもあの女神に会いたくなってきましたわ」
うっとりするコモリンさん。
「あっはっは!いいぞ~恋愛神としてはもっとやれという感じだ!」
煽るカヴェドンさん。
ああ、やっぱりドタバタでしか終わらないのね。
まあでも今回は変な伏線みたいなものも無かったし、結果としても無事解決できて良かったかな。
「そういや健全なるってフレーズで思い出したけど、オレっちのダチのアイツは今どうしてんのかな~」