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【第二部進行中】薬剤師の南 [沖縄×薬局薬剤師]  作者: 黒坂礁午
第10話 早雪 前編
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早雪 前編 1

 この年一番の威力を持つ台風が沖縄を直撃した。


 正午近くだというのに空は真っ暗。切りつけるような軌道を描く雨、地面から激しく跳ねる水しぶき、そして草木が暴風で絶え間なく横にしなる。そんな光景が目の前に広がっているせいか、東京の実家でかつて度々経験した強力な台風よりも数段は激しいもののように感じた。今日がオフの日で助かった。たとえ車の移動であろうと、この有り様では通勤も困難だ。


 母や妹の薫からは私の身を案じるLINEが来たが「大丈夫」とスタンプを返した。とりあえず私は家の中でおとなしくしていれば心配ないだろう。沖縄なのだから台風や大雨なんて想定済み。だから水はけが良く、水害に強いアパートを選んだのだ――ただ、海には近いので、地震と津波には十分に警戒しなければならないのだけれど。


 台風は一日で通り過ぎ、翌日の通勤路の道端には乾き切っていないコンクリートの上に木の葉や泥があちこち散乱していた。私が誰よりも先に薬局に着くと、天上にも目立つゴミや枝がいくつもひっかがっていた。

 その後には社長が出勤してきた。


「あのゴミ……こりゃあ、このままにしておけないねぇ。見た目があまりに汚い」


「私が掃除しましょうか?」


「いや、僕がやるから南さん達はいつも通り仕事してて。ついでに看板も磨いておかないとね。最近怠けていたから少し汚れててさ」


 と言い、薬局の中から脚立とモップを出してゴミを払い落として、看板を磨いていく。


 モップをかけられる看板を見て、ふと私は思い出す。


(そういえば、この薬局の名前の由来、まだ訊いてなかったな……)


 なぜこの薬局は沖縄なのに『スノー』などという名前を冠しているのか――春先に恵ちゃんと話したことだ。それを知っているのは十中八九、今、脚立の上で悪戦苦闘しながら懸命にモップを動かしている社長だ。

 だが、今それを考えていても仕方がない。私は薬局に入って朝の準備にとりかかった。


 そしてこの日の業務を終え薬局の外に出ると、社長が磨いた『スノーマリン薬局』の看板は、もともと少し汚れていたせいもあるのだろうが、台風の前よりも綺麗になっているように見えたのだった。

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