ヒーローの南 12
ロキソプロフェン――NSAIDと呼ばれる分類のこの鎮痛・解熱成分はテープ剤だけでなく市販薬の錠剤としても非常に有名である。この成分の警戒すべき主な副作用の一つは胃の粘膜を保護する物質の生成を阻害することによって引き起こされる胃腸障害。これが進行すれば胃潰瘍や十二指腸潰瘍といった疾患へ発展してしまう。
だが、辛うじて幸運だったと言えるのは使用したのがテープ剤だったことだ。これ以上の副作用を防ぐには薬の投与中止――つまり、体に貼ったテープを剥がせばいいのだ。
五枚のテープ剤を剥がして三十分が経った。薫は自販機で買った水を飲みながらスマホで台本の確認を続けている。不調の原因が取り除かれたことで気の持ちようも変わったのか、今は座った状態を維持できている。
「少しは落ち着いた?」
私が訊ねる。
「なんとなくそんな気がする。それよりお姉こそ落ち着いたの? あんなにギャーギャー怒ってさ」
「あれだけ貼ってりゃ文句の一つや二つも言いたくなるよ」
「いやー、私もびっくりした。かっ飛んだ子だとは思ってたけど、ここまでとはねぇ……」
運転席から振り返ったシロにも言われ、冷静にさっきの言動を振り返って少し赤面した。
「いつからこんなあちこち痛めてるの? 事務所に入ってアクションの稽古を始めてから?」
「高校の新体操のころからずっとだよ。貼る数を増やしたのは何カ月か前からだけど」
「知らなかった……こんなにボロボロだったなんて」
思い返せば、私は今まで薫が語ることを真剣に耳を傾けていなかった。薫がいくら夢を語っても、どうせ役者なんてまともにできるわけがないと、半ば聞き流してばかりだった。昨日だってそうだった。
「それでも私には叶えたい夢がある。その最初の一歩を踏み出せるのが、今なんだよ」
――信じればピグマリオン。昨日の薫の言葉を思い出す。
ピグマリオン効果がどのくらい通じるのかなんてわからない。だとしても、薫を信じて見守る――それが家族であり、姉である私にできることではないのか。
「じゃあ、そろそろ行くね。タクシーと、今日泊まるホテルも事務所の経費で出してくれるっていうから。終わったらお姉の家に戻るから、荷物だけ簡単にまとめておいて」
駐車場の傍の道路にはまるで薫を待ち構えていたかのようにタクシーが何台か止まっていた。
「薫……今までやってきたこと、全部ぶつけてきな!」
「――うん!」




