ヒーローの南 11
「……薫」
「何? 今集中したいからあまり話しかけないで――」
「その手首のテープ、どうしたの?」
「ここも痛めてるから貼ってる」
座席から投げ出された薫の足元に目をやる。昨日の処方箋どおり、右足首にも手首と同じテープが貼りつけられている。
「薫……服を脱いで」
「え?」
「いや、言い方が良くなかった。今、何枚テープを貼ってる?」
「……手首と、足首の二枚だよ」
――嘘だ。
薫の真顔を見て直感した。たとえ薫が役者でも、同じ屋根の下で長年ともに過ごした妹だ。不自然な態度を感じ取ることくらいはできる。
「中を見せろ!」
私はすぐさま薫の体を押し上げ、背中から服を強引に捲り上げた。
肋骨の下あたりまで服を剥いだところで見えたのは――両の肩甲骨に貼られた二枚のテープだった。
これで四枚。これは明らかに、
「――貼りすぎだ馬鹿!」
「ちょっと、いきなり馬鹿はないでしょ!」
「馬鹿だから馬鹿って言ってんのよ馬鹿!」
すぐさまその二枚と手首、足首のテープを全て引っぺがした。
「ちょ、何すんの、お姉!」
「これが原因だよ! ほぼ間違いなくね! 一日一枚で右の足首に貼れって昨日當真さんに言われたでしょ!」
「當真さんってあの薬剤師の女の人? うん、言われた」
「何で四枚も貼ってるのよ!」
「薬局で薬をもらった後に、そういえば肩も手首もなんか痛いなーって思って、それで……」
「胃腸の調子が悪くなるかもしれないってことも一緒に言われたでしょ!」
私はあの時「一日一枚」のくだりは一緒に聞いていたが、當真さんが胃腸への副作用の説明をしたかどうかについては記憶が曖昧だった。だが、経験豊富な當真さんがその説明を飛ばしてしまうことは考えにくい。
(……ああ、確かそのあたりで私、呉屋さんのダジャレを聞いてたんだった)
だからうろ覚えだったのか。
「うん、でも今までそんなことなかったから、別にいいかと思って……」
「今までなかった、だって? まさか同じことを何度もやってたの?」
「……うん。ドラッグストアの貼り薬を買って」
一気呵成にまくし立てる私に対し、薫の答えがどんどんトーンダウンしていく。
「まさか、まだどこかに貼ってるんじゃないでしょうね?」
「……あと、左膝の裏に一枚」
「すぐに取れ!」
慌てた薫はボトムスのガウチョパンツに下から手を入れ、最後の一枚を剥がした。