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【第二部進行中】薬剤師の南 [沖縄×薬局薬剤師]  作者: 黒坂礁午
第7話 ヒーローの南
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ヒーローの南 10

 シロは車の鍵を開けるとすぐさま冷房を最大の強さにした。後部座席に薫を座らせると、薫はすぐに横になってしまった。


「ちょっと薫、そんなに悪いの?」


「大した事ない。夕方までには治して行く」


 薫は素っ気なく応える。


「治すってどうするのよ! そんなんじゃ稽古なんてできないじゃない!」


「お姉。私には『できる』以外の答えなんてないんだよ」


 薫は睨むように私を見つめる。


「私みたいな芝居のセンスもないのが生き残ろうとするなら、このチャンスは絶対に逃せない。お姉も、お父さんもお母さんも、薫には役者なんてできないってずっと言ってたけど、そんなの私が一番わかってるんだよ。上を見ればうまい人がゴロゴロいてさ……でもさ、私にとって、テレビの中のヒーローは今でもずっと憧れで、新体操も演技の教室も忙しくて大変だったけど、私の中にはいつでもカッコいいヒーローがいて、そうしたら偶然だったかもしれないけど事務所にも受かって……ここまで来れたなら、簡単に諦めるなんてできないじゃない……」


 薫は喋るにつれて泣き出しそうになる。そうして今の表情を見せたくなかったのか、ぷいと私から顔を背けた。


「シロさん、申し訳ないんですが、水と、あと胃薬が欲しいのでドラッグストアに寄ってもらえませんか? 後で何かお礼はしますので」


「お礼なんて別にいいんだけど……本当に大丈夫?」


「あと一日くらいどうにかします――しなければいけないんです」


 薫は完全に腹をくくってしまった。この仕事がどんな顛末になろうと、もう私達が止めることはできないだろう。

 ――せめて薫の症状を少しでも和らげる方法は、何かないのか?


「薫、調子が悪いのは今朝から?」


「うん」


「お腹のどのあたりが、どんな風に調子が良くない?」


「胃のあたりかな。痛むような、そんな感じ」


 昨晩と今朝の食事は私と全く同じで、朝はシリアルと野菜ジュースの二品だった。同じものを食べた私の胃の具合は特に悪くなってはいない。ならば原因はもっと前の食べ物ということか?


「あ、メール来た」


 薫のスマホから短い着信音が鳴った。マネージャーから台本のデータと稽古の場所の地図が送られてきたのだ。


「台本読まなくちゃ……」


 薫は仰向けのままスマホを上にかざして画面を操作する。今日の薫は日焼け対策も兼ねているのか、薄手の長袖を一枚羽織り、ボトムスはガウチョパンツの装いで国際通りを歩いていた。その上着の袖口が下にずれて――そこに、予想だにしなかったものが見えた。


 昨日薬局で渡したものと同一と思われるロキソプロフェンのテープ剤が、左の手首に貼られていたのだ。


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