ヒーローの南 8
食事の間、シロが薫に興味津々といった感じで様々な質問をぶつける。
「妹ちゃんは大学入る前はどんなことやってたの?」
「中学と高校は新体操のレッスンに行ってました。あと、高校からは演劇の指導をしてくれる先生の教室にも行ってて……」
「学校の部活じゃなくて?」
「大会に出るのが目標じゃなかったので、それを目指してる他の子に迷惑をかけられないですよ」
「……ん? そもそもヒーローものに出たいっていうなら、空手とかやったほうが近道だったんじゃない?」
「格闘技をやってると逆に型どおりの動きになっちゃって、格闘のお芝居の見栄えが悪くなっちゃうってことを小学生のときに色々調べて知ったので、だったら全身をうまく使えそうなことを早いうちにやっておこうってことです。実際、事務所に入るオーディションに役に立ったんですよ。特技を見せるときに、体幹がぶれないハイキックを連続して見せたら、それが合格の決め手になったみたいで」
だが受かったといえども今の薫の立場は研修生。つまり、拾ってもらったというレベルの合格だ。理由は私でも指摘できるようなこと――いわゆる役者としてのオーラがないことだ。東京の実家に住んでいるときに偶然一度だけドラマの撮影現場に出くわしたことがあるが、人の群れからちらりと見えた何人かの俳優はそこらの一般人には持ちあわせていない華やかな雰囲気を纏っているのが一目見ただけで伝わってくる。薫は元気こそいいものの、そういった見知らぬ誰かを引きつけるほどの魅力ははっきり言って、ない。体の柔軟性があって多少運動が得意だが、役者としての素材はとことん凡庸――そんな十八歳の女子にすぎないのだ。
食事を食べ進めていると、唐突に薫が箸を置いた。
「……何だか食べられない。少し気持ち悪くなっちゃった。私、もういいや。お姉達、残ったの食べる?」
沖縄そばはまだ半分くらい残っている。薫は大食いとまではいかないものの体育会系一筋で生きてきたこともあって、その辺にいる平均的な女子よりは食べる量は多い。
「妹ちゃん、暑さにやられちゃった?」
とシロ。
「そうかもしれないです。もしかして、昨日ニュースでやってた食中毒にやられたかも……」
「あれ弁当って言ってたし、ここがそうだったら今日は営業してないでしょ。お店に謝れ」
私は軽く毒づいた。
結局薫が残した沖縄そばはシロと私でつついて出来る限り残る量を減らそうということになった。
食べている途中にシロが、
「そういえばさぁ。訊こうと思ってたんだけど、依吹は銘里のどこの薬局にいるの? この前の研修で聞き忘れちゃってさぁ」
「スノーマリン薬局。恵ちゃんのドラッグコーラルがすぐ近くにあるところね」
「銘里記念病院の門前*1?」
「そうそう、そこ」
「……ふーん」
その話はそれきりで終わってしまった。
*1 門前=門前薬局の略。病院の近くに立地する調剤薬局のこと




