11(終)
「お帰り」
スノーマリン薬局の裏口から戻って調剤室に顔を出すと、當真さんが声をかけて出迎えてくれた。患者入口の扉のシャッターはもう閉まっていた。
「遅かったねぇ。大変だったみたいじゃない」
「ええ、本当に……赤嶺さんからの電話、取りましたか?」
「うん。どうぞ鍛えてやってくださいってね。あ、そうそう、あの人、市内の祭にベース持って現れるから、心の準備くらいはしておいてねー」
「ベース?」
「楽器のベース。あの人バンドでベース弾いてるのよ」
「へえー」
「おお、南さん、お疲れ様」
呉屋さんが私に気づき、パソコンの手を止めて立ち上がる。
「ただ今戻りました。色々とあちらの薬局で経験させてもらいました」
「薬局どうしの協力体制が強いのがこの地域のいいところだから、これからもこういう機会を大事にして頑張ってくださいね」
「それにしても、子供の体重から食事の状況を把握するっていうやり方は目から鱗でした。小児科に強いところにお勤めだったんですか? それともお子さん関係のことで?」
「まあそんなところですね。あと、子供はいないんです。色々あって妻と別居中でね」
「あ、そうなんですか……」
左手の薬指に指輪をしているから結婚しているのは予想できたが、気まずい話をしてしまった。
「すいません呉屋さん、いいですか?」
新垣さんが会話に入る。
「さっき日向君の相手をしている時に日向君に言われたんですが、待合室に置いてある男の子向けのヒーロー物の本の……名前は何だったっけ」
新垣さんはポケットからメモ帳を取り出した。
「……そうだ、グランドフィンジャーです。そのグランドフィンジャーですが、日向君に『今はもうこれじゃない』と言われたので、社長にも相談して新しいのに買い替えたほうがいいかと」
グランドフィンジャーは昨年ごろまで放送されていた、部隊演劇をヒーローのモチーフにした特撮番組だ。
「確かにそうだ。今テレビでやってるのは何というやつだったかな……」
「ライトセブンズ」
呉屋さんが思い出している最中に私が答えた。全員の視線が一斉に私に向けられたので、
「……そういう名前だったと……思います」
うっかり食いついてしまったことをすぐさま後悔し、言葉が尻すぼみになる。仕事中にこういう話題で悪目立ちしたくはなかったのに。
「ああ、それだ」
「依吹さん、詳しいね」
「ええ、まあ、少しは……」
ただ、私自身は特撮に大した興味があるわけではない。私がグランドフィンジャーもライトセブンズも知っている九割九分の原因を作ったのは、私の妹、南薫なのである。
――迷子 了――




