プロローグ
大学3年生の鈴木悠真はある日
女神様に「どうか魔王に支配されたこの世界をお救いください」と言われ、異世界に召喚される。
しかし召喚された先は...魔王軍の城であった。
「どうしよう」
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数時間前。
夜中に自室でゲームをしていた俺は、急に光にからだが包まれ気がついたら小さな部屋にいた。
見たところこの部屋には窓やドアがない。
目の前には、一人の女性がいた。
「私は女神エクシア。鈴木悠真よ、あなたは勇者に選ばれました。」
女神を名乗る女性は俺にこんな提案をしてきた。
「あなたには勇者として魔王を倒してもらいたいのです。しかしあなたは普通の大学生。ただそのまま異世界に召喚されただけではすぐに死んでしまうでしょう。
そこで、特典として以下のスキルから好きなものを選んでください」
俺はすぐさま理解した。こういうの小説で見たことある!最近流行りの異世界転生モノだ!
チート系のスキルで敵を一掃し、俺なんかやっちゃいました?とイキリながらも女の子にちやほやされる生活が俺を待っている!!
「分かりました女神様!必ずや魔王を倒して見せましょう」
どうせ家にいてもやることないし。
女神様は紙に書かれたいくつかのスキルを紹介してくれた。
スキルの内容は
・伝説級宴会芸スキル
・90%で占いが外れるスキル
・相手が思い込んだスキルが使えるスキル
・嘘が分かるスキル
・お酒に強くなるスキル
・物を擬人化させて会話できるスキル
・エントリーシートだけで必ず内定がもらえるスキル
・相手の好感度が見えるスキル
と書かれている。
…パッと見たところ、一癖も二癖もありそうなスキルばかりだ。というか到底魔王に立ち向かえるスキルではない感じだ。
「私が寝る間も惜しんで考えました。じっくり悩んで魔王軍討伐に役立ててください」
「女神様。戦闘向けのスキルが無いんですけど。もっとこう『最強の炎の魔法が操れるスキル』とかは無いんですか!?」
俺は女神様に抗議した。
女神様は申し訳なさそうに言う。
「実は私の権限で選べるスキルがこのリストのものしか無かったのです…」
女神様。寝る間も惜しんで考えたんじゃないのかよ。折れるのが早すぎる。
「うーん、これで魔王討伐は難しいと思うんですけど。帰りたくなってきた…帰ってゲームしたい」
「そんなこと言ってもこの部屋からあなたは出ることが出来ないわ。残念だったわね」
ついに本性表したぞこの女神。どうやら今まで猫をかぶっていたようだ。
「今の状況が理解出来たかしら?あなたは魔王を倒して世界を救う以外に道がないのよ」
そんなことを言われ、正直情報の整理が出来ていない。頭の中が混乱している。
「早くスキルを決めてちょうだい。私こう見えて結構忙しいのよ。観たい推理ドラマがあって、リアルタイムで見ないと女神SNSでネタバレされちゃうのよ。私の推測ではたぶん校長先生が犯人だと思うわ。」
「知らねぇよ。世界救うことよりドラマの方が大事なのかよ!せめてスキルの説明ぐらいしてくれ」
つい口調が荒くなってしまった。女神SNSってなんだよ。
仕方ない。帰れないのならせめて前向きに考えてスキルを選ぶことにした。
女神様は面倒くさそうに補足の説明をはじめた。
「だいたい書いてある通りよ。ちょっと複雑なのが『相手が思い込んだスキルが使えるスキル』かしら、これは【相手が悠真のスキルを『炎の魔法』と思い込むこと】によって悠真は『炎の魔法』が使えるようになるわ。相手に思い込ませることが出来れば、どんなスキルでも使えるけど、【相手が思い込んだスキルが使えるスキル】そのものの正体がばれるとその相手の認識できる範囲では思い込みのスキルが使えなくなるわ」
「なるほど…」
応用が効きそうなスキルではある。ゲーマーの俺にとっては興味深いスキルだ。
「女神様、過去にこの【相手が思い込んだスキルが使えるスキル】を持ったものがその異世界とやらに存在したことはあるんですか?」
女神様はうなずいた。
「あるわよ。というか良く気づいたわね。このスキルは認識させることを大前提としながら、認識されることで使えなくなるという欠点がある。過去に同じようなスキルが存在する場合見破られる可能性は高くなるし、そもそも能力鑑定系のスキルを使われるとネタが割れてしまうのよ」
「うわぁ。欠点だらけじゃないですか」
「だからスキルドラフトで私に回ってきたのよ」
女神様はキメ顔でそう言った。
この女神たぶん相当位が低く、ポンコツな感じがする。
一番使えそうなスキルがだめな感じだ。他のスキルも期待できない。
「もう時間が無いから私が決めるわね。あなたには不況でもエントリーシートが必ず通るスキルを授けるわ!あなた大学三年生で就活生なんだし丁度良いと思うわ。しかも魔王倒して現世に帰ったら履歴書に『魔王討伐経験あり』って書けるわよ!悠真。よく考えてみてほしいの。あなたと成績や容姿が同じ人がある会社の最終選考まで残っていたとしたら。面接官は必ず『魔王討伐経験あり』の方を採用するはずよ!」
「しねぇよ!やばい奴認定されて落とされる未来しか見えないわ!」
「それもまた経験の内よ!さあ悠真、いざ冒険の旅へ!!あなたの活躍を祈っています。」
「エントリーシートでどうやって世界を救うんだああああ!!」