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▷||の魔法少女  作者: オッコー勝森
第一部
6/151

「元魔法少女の純粋な好奇心は殺傷力高め」

 改稿。


 信じられないほど、彼女は綺麗な女の子だったんですの。


◇◇◇


 現場百遍という言葉があるけれど、現場訪問一回目においては、すでに木々は轟々と燃え盛っていた。

 炎上していた。

 延焼するととても危険ということで、思いやりの心を持った優しい少女であるところの私は、魔法を使って火を消し止めることにする。


「エンゼルレイン(強)〜」


 本来的には範囲型の回復魔法で、癒しの力を水に乗せてシトシト降らせるという、「レインセラピー」という造語が優しく当てはまるものなのだけれど、此度は水量をマシマシにして、雨風吹き荒ぶ嵐を再現する。

 際限なく降り注ぐ。

 たちまち消える炎。


「この景色それ自体が回復魔法への熱い風評被害みう。話題沸騰批判殺到みう。普通の水の魔法じゃダメなん?」

「多少植物も再生するから。あと、使い慣れてるの」

「え、使い慣れてる? 意外と心優しい……?」


 キュンとした仕草を見せるミウイ。エンゼルレインを使い慣れている=怪我人は放っておけないとでも考えているのか。

 ようやく気づいた私の無限の優しさに、心絆されているようだ。


「よく使う。だって、ちょっと絡んできた動物やガキをボコボコにしたあと、放っておいたら死んじゃうでしょ?」

「トキメキを返せみう。お前の優しさは夢幻みう。そしてちょっと絡んできたくらいの相手をボコボコにすんなみう」

「そういう時、このエンゼルレイン(強)が役に立つ」

「泣きっ面に蜂みうね……」


 どういうわけか、スズメバチレベルの危険物を見る目つき。あ? と無表情のまま睨み返す。

 亡きっ面に白ハンカチかけてやってもいいんだぞ?

 私には昔から、ちょっかいだったり誘拐だったり仕掛けてくる馬鹿な輩が多いのだ。すべてきっちり追い返してやってるが。その一環として、街の汚物を綺麗に洗濯していったい何が悪いというのか。

 一巻の終わりをもたらしてないだけマシだろう。


「で、敵はどっち? 分かるでしょ?」

「向こうの林みう。川北玲奈は無事。すでに別の魔法少女……橘和美が交戦中みう」

「そうなの? 焦らなくても良かった?」


 安心して、ホッと息を()く。心の奥底でグツグツ滾っていた緊張感も、すぐに失われていった。

 すでに対処されているならば、後は任せておけばいい。


「橘さんが、先生助けたって調子に乗らなきゃいいけれど」

「何を悠長なことを言ってるみう」

「悠長?」


 語気を強めるミウイ。こちらの姿勢に、気に入らないところでもあったのか?

 クライアントの意向に、沿えてませんでした?


「端末の数値からして、橘和美の立ち向かってる『遺禍』はかなり強敵みう。彼女一人では荷が重いみう。アヴァも行って、二人で協力して倒すみう!」

「魔法少女一人では倒せないの?」

「始めて二年、とかのベテランならいけるかもしれないみう。でもなりたてホヤホヤの新人が一人では到底無理みう! アヴァの魔法少女歴は?」

「一年半前になったけど、戦ってたのは半年」

「なら尚更二人で協力せにゃいかんみう! 橘和美がやられてないうちにお前も行くみう!」


 魔法少女って、二年でベテラン扱いなのか。

 研究だったり、あるいは将棋やチェスの世界だったりだとまだまだ若造のイメージがあるから、ちょっと早い気もするのだけれど、しかし魔法少女(・・)だしな。そりゃあ早めに熟してもらうことになるか。

 納得とともに、マスコットの催促に気を引き締めもする。

 半年間魔法少女をやった私ですら(・・・・)一人で無理となれば、それは街どころか世界の危機(・・・・・・・・・・)だ。

 緊張感が再び滾り、自然と魔力が迸る。

 ワクワクと湧く。


「うおおっ! き、気合い入ってるみうね……そんなに魔力を漏出させたら、後で困るみう。ほどほどに……」

「?」


 淀んだ上澄み魔力だけ外に出したら、忠告された。まさか、この使い勝手も質も悪い部分ですら、十全に利用しろと言っているのだろうか。

 志の高いところもあるんだなと、少し見直す。


「今のうちに変身しとくみう?」

「ええ、やってくれるならお願い。変身シーンは省略ね」

「二回目から? ノリ悪いみうねぇ」


 私にとっては二回目でもなんでもないし、あんな恥ずかしい変身シーンなんて、デフォルトで「無」に決まってるだろ。面倒くさいこと言ってくる奴だな、今度からは自力で変身するか。

 制服が粒子に分解され、戦闘衣装へと変化する。


「怪人の位置、ポイントで分かる?」

「? さすがにそこまで正確はないみうよ、まあ二十メートル四方のメッシュ単位なら……」

「何それ? 精度悪くない? じゃあ私が探す」

「……え?」


 少し集中し、ミウイによって示された、敵がいるという方角を信用して、扇型状にサーチ魔法を展開する。

 針の穴単位の細部まで知る必要はない、大雑把に、地形と温度分布を把握する省エネ運用。ミウイ曰く、私を上回る敵がいるのだから、魔力を無駄に消費するなどあり得ない。


「いた」


 見つけた。

 背中の小さな翼をパタパタとさせ、フヨフヨと浮くミウイの頭を引っ掴む。


「えっみう」


 林の中を走っていく気は毛頭ない。靴が汚れるし、柔らかな土に足を取られる分時間がかかる。

 というか、最初からこれ使っとけば良かったな。怪人出現の報を聞いた時から方角は判明しているのだから、そこでもうポイント把握しとけば良かった。

 さすればすぐに、ノータイムで、化け物の元に行けたのに。


「転移」


 景色がすべて入れ替わる。手元のマスコットは「こ、これはぁ〜……」と目をぐるぐるさせている。大方転移酔いだろう、私も最初はこうなったものだ。


「わ、やばい」


 足手まといは要らんとばかりに、ミウイを投げ捨て……木の裏からの覗き込み、目を丸くする(両親と、あとミンミンに茜以外には分からない、些細な()表情の違い)。なんと橘さんが、馬乗りにされて、首をきつく絞め上げられているではないか。

 首を絞められ、生を締められかかっている。

 諦めかかってもいるのか、彼女の全身からはすでに力が抜け落ち、眼光もほぼ消えている。

 橘さんには、勝てる相手じゃなかったのかもしれない。

 だからと言って。

 あの怪人が、私一人で倒せない?

 先ほどのミウイの推測を鼻で笑う。あんなの、今朝遭遇した両手ハサミの雑魚モンスターと大差はない。飽きるほど振るってきた、(こな)れた魔法少女パンチ一発で、凄惨なミンチ肉をお手軽生産出来るレベルだ。

 いやきっと、負けかかっている橘さんだって、油断しちゃったに決まってる。

 やれやれ。

 すぐに終わらせられるけれども、しかし、お子様一人の上で怪人ミンチをお手軽凄惨して平気でいられるほど、私はサイコパスではないので。


「えい」


 木の裏から飛び出して、気持ち弱目に殴る。擬音的には、自分では「ぽこり」というレベル感のつもりだ。

 アヴァぽこだ。

 けれども、咄嗟に気づき、橘さんから腕を離してクロスでガードする怪人さんは、頰に拳をぽこりと喰らい、頰肉を内側にめり込ませ、グルグルと回転しつつ飛んで行ってしまった。肉の潰れる嫌な音を上げながら、バスケットボールのように地面を跳ねる。

 せいぜいどかすつもりでしかやってないのに、なんと脆弱極まりない。

 「アヴァぽこ」の響きが持つ、可憐さと可愛さを台無しにしてしまうダイナミクスに、もう少し気張れやゴラと、憤怒の感情すら湧き上がってきそうなところなのだけれど、読者にエレガントなイメージを植え付けるためにも、ヒッヒッフー呼吸術でなんとか激情を抑える。


「…………あれ? ワタクシ、生きてますの?」

「まあね。新人は下がってて」


 手をペイペイと軽く振るって、先輩風を吹かせてみる。普段は強く出れないタイプの相手に、こういう態度を取るのはとても気分がいい。


「っ……なんであの怪人、ボロボロなんですのっ?」

「殴った」


 短く返す。会話がこう、すべて短答式なら良いのだけれど、どうにもならない愚痴は脇に置いといて、膝を突いて立ち上がろうとする爬虫類っぽい怪人に目を向ける。

 見下す。


「魔法少女、もう一度見る?」


 無防備に歩を進めて、怪人の目と鼻の先まで近づいてやってから、煽った。煽り耐性がついていないのか、頭に血が上ったのか、蛇顔の細長い口を開いて「シャアアア」と威嚇。

 のち、ようやっと飛びかかってくる。

 戦意があるならすぐに来いよ、屁っ放り腰のヘビー腰が、全然怖くないぞ。教師としての威厳を出している、川北先生の方が余程怖い。

 拳を不誠実に突き出して、肉体が形を保つ程度に殴る。飛んでいく。また襲いかかってきたので、今度は掬い上げるように蹴ってやる。吹っ飛んでいく。またまた立ち向かってきた。

 殴る。蹴る。殴る。蹴る。殴る、蹴る、殴る、蹴る殴る蹴る殴る蹴る……。


「み、みう? これはいったいどういう状況……?」


 転移魔法の酔いから回復したらしい、ミウイが疑問の声を上げているけれど、攻撃の最中だ、対応するのは後でいいだろ。

 怪人はボロボロになり、立てなくなっても、弱いなりに根性はあるのか、這いつくばって、弱々しく足首を握ってきた。ツルツルして気持ち悪いなと、足を軽く振るってやれば、うつ伏せだった怪人の巨体が翻り、仰向けに寝そべる。


「軽い。何もかも」


 蛇顔の前でしゃがみ込み、敗因を端的に述べてやる。何も充実していない、何もかも足りてない。

 荒い息のまま、最後の力を振り絞り、こちらを睨み付けてくる。もう十分だろ、一想いに殺してくれとばかりに。自分の運命をよく理解している、物分かりも、往生際もいい奴だねぇ。

 グーパーグーパーと、手を握っては開く。怪人はどこも破裂・爆発していないことから、力加減は十分制御下にあると言える。久しぶりの化け物退治だったが、体は鈍っていない。動作テストは終了だ。

 もう殺してもいいな。


「あ、ちょっと待って。そういえば、お前オスだな」

「シャア……?」

「男性って股間を打たれると激痛が走ると耳にしたことがあるのだけれど、それって本当? ちょっと試してみてもいい?」

「………………………………シャ?」


 右足を、本日最も勢いよく、高く垂直に振り上げる。

 まさに今日のハイライト。

 あんぐりと口を開ける怪人。顔を蒼褪めさせるミウイ。「もうやめたげてですわぁっ!」と、一度追い込まれたにもかかわらず、お気遣いの叫びを上げる橘さん。


「そい」


 重力に従い、空気を切って、かかとを落とす。

 ブチュッと、潰れた音がした。

 声にならない叫び声。のち。

 怪人は、死んだ。


◇◇◇


「そのマナ、今朝の怪人のものと比べて元気ないね」

「むしろなぜ元気があると?」


 絶命した怪人の肉体はボロボロと崩れ、マナと呼ばれる、元の魔法生命体の形態へと変化する。例えば此度の怪人ならば、屈強なリザードマンと評すべき大きな巨体から、まるでミニチュア化またはデフォルメ化した小さな蛇に。

 大したビフォーアフターだ。

 籠に捕らえられたマナは、ぱっと見とても可愛らしいのだけれど、なぜか全然動いてくれない。顔を近づかせて覗き込めば、恐々とした様子で逃げるのだが。

 どうして元気がないのかと、疑問を呈した私へと、ミウイは真顔で問い返してくる。爆発寸前の核弾頭を眺めるかのような、戦慄した視線。

 橘さんは橘さんで、「なんてむごい人ですの」と、涙で溢れる目を伏せる。

 私、何かしちゃいました?


「えっと、まあやり方はともかくとして……パートナーを助けてくれて、どうもありがとうリン」

「なんでやり方がともかくとされるのか分からないけれど、どういたしまして」


 普通の女の子としての常識は持ち合わせているつもりなので、一言余計な礼に対しても、きちんとお辞儀返しする。

 まあひょっとすれば、最後の攻撃、かかとによる股間の突貫は、文化的に不味かったのかもしれないなと、お通夜みたいな空気の理由をぼんやり考察していると、「それで、その……」というしどろもどろな声が、頭上から聞こえてきた。

 訝しみ、姿勢を元に戻す。


「どうしたの」

「ひ、一つ尋ねたくて。その、どうしてそんなにお強いリン?」

「っ、こちらも聞きたいみう。魔法少女歴、実質たったの半年って言ってたみうよね? だとしたら、普通ありえない強さみうよ」


 質問に、横入りしてくるミウイ。

 橘さんの相棒マスコット、リーンはピクリと、「半年」という言葉に耳を反応させる。「リーンたちの派遣は三週間前から。おかしいですリン」「後で話すみう」などと、小声で問答する。


「うーん。天才だからかな」

「自分で言うみう? まあ認めざるを得ないけど。もうちょっと何かないみう?」

「ふむぅ」


 汚い路地裏で、復讐に燃える妖精ミンミンと出会い、そこからすべてが始まった……という私の魔法少女活劇を話し出せば、とてもとても長くなる。具体的には、連載なら五十万字、ダイジェスト版でも一万字は使うことが予想される。

 けれども私は、長い説明は苦手なのだ。

 どうすれば、簡潔に伝えられるか。


「……『カイワタリ』って知ってる?」

「えっ……まぁ。文字通り、世界を跨いで凶悪な犯罪を繰り返す、特級時空犯罪者。ここ一年は音沙汰を聞かないリンが」

「そいつ倒すために修行した。そして倒した」


 ヴイと、右手にピースサインを作った。

 まさにラヴアンドピースの申し子。

 固まる二匹のマスコット。


「えーと、もう一度だけお聞かせいただいてもよろしいでしょうか……?」

「急に丁寧で非常に気持ち悪いけれど、了解した。『カイワタリ』倒すために修行した。そして倒した」

「……はい?」


 リーンの手から、マナ入りの籠が滑り落ちる。偶然にも出入り口が開き、そこからマナが、もぞもぞと逃亡を試みていた。まるで私から離れたいかの如く。

 苛立ち、踏みつける。


「も、もう一度……」

「くどい」


 食い下がるミウイを切り捨てる。その大きな耳はなんのためについている、飾りか? 王子という身分だけでなく、身体器官もお飾りなのか?

 顎が外れるほどに口を開き、多量の汗を流しつつ、ミウイとリーンはお熱く見つめ合う。アイコンタクトで何か伝え合っているか……もしくはテレパスを使ってやりとりしているのだろう。

 ミンミンも使ってきたことがあった。

 表面上は黙っている二匹を胡乱げに眺めていると、「ワタクシからも、いいですの?」と、代わりに橘さんが会話を仕掛けてくる。戦闘中の脳が昂っていた時は平気だったものの、当初覚えた苦手意識はなおもしっかり働いていて、「な、なに」と、上擦り調子で返してしまった。

 苦手意識がなかったとしても、よく知らない人に話しかけられれば、大抵の場合キョドるのだけれど。


「先程は、ごめんなさい」

「え、えっと、いや……謝る必要はない。誰だって、最初のうちは失敗するもの、大敗喫して退廃しなければ、それだけで儲け物……」

「そっちじゃなくて。無様にやられているワタクシを助けるのに、お手を煩わせた方ではなくて。騒ぎになると、忠告していただいた時のこと」


 魔法少女とバラせば今まで通りではいられなくなると、示してくださった時のこと。

 橘和美は、思い知った、反省したとばかりに俯く。


「甘かったですわ。認識不足だったのです。要はまだまだ不勉強。魔法少女になれたなれたと、幼い子供のように浮かれて。功名心ばかりが先走って」


 自らの愚かさを悔いて、食いちぎって、声を絞り出す。

 間違いなく、心の奥底からの言葉であると、真剣に耳を傾ける。


「でも、魔法少女になったことを後悔するほど『死』というものに直面して、考えが変わりましたわ」


 スッと上げられた彼女の(おもて)は、表情は、憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。


「人々の憧れや、外面の華やかさだけではない。強烈な光の裏には、漆黒の闇がある。大怪我をするかもしれない。命を失うかもしれない。何より……自分を見失うかもしれない。敵との戦いが、自分との戦いが、果てしなく続く荊の道ですわ。正体をバラし、騒ぎを起こしていい気になっているようでは到底歩いていけないほどの。あなたはそれを、教えてくれようとしたのでしょう?」

「え、あ、うん」


 取り繕って、カクカクと首肯する。はい、そんな深いこと、まるで考えてませんでしたわ。

 自分の周囲が騒がしくなるのが嫌だったというのが九割、マスコットたちに迷惑がかかるだろうというのが一割でアドバイスを施しただけだ。橘さんの意識の持ち様的な問題など、何一つとして考えていなかった。

 心構えなどに、かまってはいなかった。

 というかさすがに、さっきの今で悟り過ぎじゃない?


「浅はかなワタクシは、そんなあなたを無表情でつまらないと罵り、意固地なのに臆病なメンタル弱者と断じていました。心より謝罪申し上げますわ。本当に、申し訳ありませんでした」

「いいってことよ、はは……」


 深々と下げられる彼女の赤茶けた頭を見ながら、乾いた笑いを上げざるを得ない。無表情、つまらない、臆病、メンタル弱者と、少し自覚のある悪口ラインナップが、グサリグサリと心に刺さる。

 ブチりと、足元から音がした。

 爪先で抑えていたマナを、しっかり潰してしまったらしい。こうなるともう完全に死んでしまうということで、悪いことをしたなと少し反省する。

 マナ状態は無害だし、可愛くないこともないので。


 さて、惚ける二匹の妖精マスコットを正気に戻し(リーンは体を揺さぶっただけだがミウイは叩いた)、土の布団で眠りこける川北先生を家まで送り届けた時(彼女の携帯電話にあった父親への通話履歴を辿り、聞けば快く住所を教えてくれた、防犯意識が薄くて心配だ)には、すでに暗くなってきていた。


「あ、あのっ」


 川北先生宅から途中まで一緒だった帰り道、続かない会話が散発的に終了、遂にコミュニケーションを諦めたのち、黙々と二人と二匹は進んでいき……その分かれ道、サヨナラというところで。

 橘さんが、ふと声をかけてきた。


「……どうしたの?」

「ワ、ワタクシと……」


 もじもじと遠慮がちに、彼女は何かを言わんとしているけれど。

 促してあげたいのに、ミンミンと茜がいなくなってから、全然人とお喋りしておらず、錆び付いた私の脳味噌からは、一切言葉が出てこない。

 しかし、ここで何かをしなければ、酷く後悔する気がして。

 言葉が出てこないなら、別の手段を使えばいい。

 ノンバーバルランゲージ。

 身体言語。

 表情。

 相手の目をしっかりと見て、ほんの少しだけ頬を引き絞る。

 不器用な微笑を、顔に貼り付ける。

 すると応えるように、橘さんも微笑みを返してきて、そして。


「ワタクシと、友達になってもらえませんかっ」


 勇気を振り絞った少女の大きな声が、耳に響く。

 驚く。驚愕する。

 まさか茜以外に、私と友達になってくれようとする人がいるだなんて。


 苦手意識なんて、どこかに飛んで行った。

 にっこり、笑う。

 笑うことが出来る。


「喜んで」


 同時に街灯がパッと点いて、真下にいる私たちを照らす。眩しくて思わず目を閉じてしまったから、残念ながら、橘さんがその時どんな顔をしていたのか、知ることはもう、出来ない。


「そ、それでは、明日また学校で、ですわっ!」


 慌てて顔を背けて、足早に、自分だけの帰路に着いてしまった。リーンも彼女についていく。

 拍子抜けするような幕引きだった。

 側で浮いてるマスコットに、「あれはどういう反応?」と尋ねる。


「照れてんだよみう」

「ふーん。ああそう、ところでだけど」


 長く喋るのは苦手だ。だから一旦、タメを作る。


「私、魔法少女に戻った気はないよ。『元』のつもりで、『元』のよしみで、後輩を救ってあげただけ。今はもう、平和を生きる、ただの、普通の女の子」

「ええそんなー。後生だから続けてくれみう〜。そして普通の女の子では絶対にない」

「でも、ま」


 私の魔法少女物語の「停止」は、まだまだ終わらないのは確か。

 でも。

 拳をミウイに落としつつ、振り返ってみれば。

 ルンルンと楽しそうに歩く、橘さんの後ろ姿がとても印象的であり。

 無表情の範囲は超えずとも、口元がつい綻んでしまう。


「手伝うくらいならいいよ」


 あんな背中が、また守れるかもしれないし。

 あんな風な友達が、また出来るかもしれないし、ね。


ここまでが、作者的にはプロローグという感じです。

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