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▷||の魔法少女  作者: オッコー勝森
第一部
5/151

「新人魔法少女は素直じゃない」


 季節は春。全国津々浦々、草木萠ゆる頃合い。

 この町でも例に漏れず、植物の緑は、夏の絶頂期に向けての成長期だった。その若々しい輝きに、少しだけ自分を重ね合わせる……重ね合わせられるかどうかを悩む、その最中。

 運転中にもかかわらず、道路外で自生する、並々と立つ木々に優しくされた目を、思わずこする。


 ひび割れた道路の真ん中で、筋骨隆々の男がドカリと座り込んでいた。


 川北玲奈は「なんなの〜」と、文句を言いながら車を止める。

 多少イラつきつつ、障害物を睨みつけた。シルエットがおかしいな。

 もう一度目をこする。


「あれは……新手のファッションなのかな?」


 その禍々しさに、玲奈は若干気圧される。しかし、コスプレイヤーだろうがなんだろうが、道路に足を組んで座すなど迷惑行為以外の何物でもない。デモじゃああるまいし。

 デモであってもここまですれば、警察に補導され、一先ず歩道に連れ去られるだろう。

 注意せねばならない。常識的な判断で以って、彼女は車を降りる。


「ちょっとそこの人。ここは座禅を組む場所ではありませんよ。曹洞宗かどこかのお寺に……」


 かまされるのは、どこかズレた説教。

 彼女と三日以上かかわった人なら皆知っているが、その性格には天然と癒し成分が多分に含まれている。


「……鱗?」


 目を咎めた異物、通常の人間ならついているわけないものに、玲奈はキョトンとした声を出す。特殊メイクの類だろうか。

 ガサガサと、鱗が動いた。

 彼女はビクリと後退る。あまりに生物的な動きだった。

 震えて音を出す機能に特化している鱗。まるで楽器のように。

 背筋を這い伝う音。

 どこか嫌悪感を催す。


「っ……!?」


 鱗の持ち主はクルリと振り向いた。

 唇のない口。瞼のない目。縦に裂けた瞳孔。


「蛇」


 人間ではない。

 人間のように手足が生えているが、人間ではない。

 化け物。

 グッと腹筋に力を込め、立ち上がったと思えば、二メートル半はある。低身長な玲奈と比べても倍はない。が、彼女には自分三人分の背丈があるように感じられた。

 鎧を纏っているのかと、錯視するほどの強靭な足を一歩踏み出す。ズシンと地面がかすかに揺れた。


「い、いや……来ないで……」


 ガクガクと、生まれたての小鹿みたいに、小刻みに揺れる足。入学式仕様で慣れないハイヒールを履いてきたため、足元はひどく覚束ない。


「あっ」


 バランスを崩してコケる。それが幸運だった。

 頭の上を巨体が通り過ぎる。目で捉えきれないほどのスピードで。ブワリと髪の毛がかき乱された。

 後方で破壊音。

 振り返ると、玲奈を溺愛する父親が買ってくれた軽自動車が弾かれ。

 ガードレールに車体を掬われ、宙で回転しつつ道路から飛び出て。

 木々をへし折りながら地面に激突し、爆発した。


「なんなの」


 心臓がキュッと締まる。一歩間違えればミンチ確定。

 茫然自失となることなく、動きにくいハイヒールを脱ぎ捨て走り出す。携帯電話で助けを請う時間はなかった。大声を出しても、この人気のない場所で誰かに届くかは分の悪い賭けでしかない。彼女にとっての最善を選んだ。

 道路脇の、身を隠しやすい林に逃げ込む。

 足の裏に石や細かい木の枝が突き刺さるが、気にならない。


「シュー……」


 舌をチロチロ、また蛇独特の空気音を出して、怪人は玲奈を追いかけてくる。彼女の蛇に関する知識は拙いものではあったが、ピット器官というもので動物の体温を精確に察知する、ということは知っていた。

 身体能力もサーチ能力も優れた相手。逃げ場など、あるのか。


「近くに、沼があったはず……」


 彼女はこの町の出身で、幼い頃から「探検」と評しては、色々なところを練り歩いていた。町の地理のことなら、知らないものはないとでも言うかの土地勘があった。

 体温に反応するなら、冷たい泥を纏えば探せなくなるのでは。

 一筋の、薄く細い光明に縋り付き、彼女はひたすらに走る。

 ジグザグに、デタラメに。

 化け物に比べて遅過ぎる速さは、予測の困難さで補う。

 しかし悲しいかな。川北玲奈にスポーツの経験は乏しい。それこそ小学生の時にやっていた鬼ごっこ以来だ。

 どうしても走る経路に意図せぬ傾向が出てきてしまう。

 動物的本能の鋭い化け物にとって、彼女の癖を見抜くなどいとも容易いことであった。


「! 沼っ!」


 顔を綻ばせる玲奈。

 再び撹乱の進路変更のため、後ろを振り向き化け物を確認しようとして。


「いない」


 それでもと、フッと進路を、右に振れさせたのと同時に。


「シャアアアァァ!!」

「キャア!?」


 接近されていた。化け物の息遣いが肌を撫でる。

 自分でもどうやったか分からない。

 蛇の牙を躱しつつ、その股下をゴロゴロと潜る。

 たまたま出来た。もうこんな神業じみた回避は不可能だ。

 沼は目と鼻の先。

 手を伸ばして、自分なら跳べると信じて、足に力を込める。

 フッと体が浮いた時。


「ぎあっ」


 大量の土が、体に覆いかぶさった。後ろ目に映るのは、下投げ直後の姿勢でニヤつく化け物。土はなけなしの跳躍力を全て殺し、彼女を半分生き埋めにする。

 目にも入ったのか、凄まじく痛い。涙が止まらない。

 涙が止まらないのは、果たして痛みのせいだけだろうか。

 これからの壮絶な死を予感して、悲しみとやるせなさが決壊したのもあるのではないか。



「町の平和を守ってましたの!」



 不意に下校間際の、遅刻した生徒の言い訳を思い出す。自分が初めて受け持つ、可愛い生徒たちの一人。嘘と決めつけ、叱ろうとしたけれども。

 こんなのがいる町は、絶対に平和ではない。

 ひょっとして。

 あの子は本当に。


「橘、さん」

「呼びましたの?」


 女の子の声がした。

 激痛と涙で溢れる目を必死に開いて、声の主を探す。

 捉えたのはヒラヒラで紫色の衣装を着込む、少女の輪郭。


「嘘偽りなく、ワタクシが平和を守っていたことが理解出来たことでしょう!」


 勝ち気な喋り方で、少女は姦しく宣う。


「嘘つき呼ばわりしたこと、あとで泣いて感謝しつつ跪いて。もう這いつくばって謝りなさいな」


◇◇◇


 助けなくったって、別に良かったのだ。

 橘和美はそう思う。


「『遺禍』が現れたリン。襲われているのはあなたの新しい先生リン。どうするリン?」


 だけれど、気づけば体は走り出していた。

 おかしな言い訳と断じられた時、心の中で「怪人に襲われても助けてヤンないですわ」と息巻いていたのに。実際に助ける気なんてまるでなかったのに。

 橘和美は、目的地に向けて駆けていた。


「近かったから。きっと近かったからですわ」


 なんて一貫性のなさ。自分で無性に恥ずかしくなって、後付けの理由を考え始める和美。事実として、帰り道をスタスタ歩いていた彼女と襲撃現場は、五百メートルも離れていなかったけれど。

 自宅の近所を荒らされる。阻止せねばなるまい。心中で繰り広げられる、後付けの理由のオンパレード。

 地面を蹴る力が強まる。


「それに、あの女のムカつく無表情も忘れられますし」


 自分主催のショーを止めるにとどまらず、上から目線で忠告してきたあいつ。

 魔法少女としての技術はかなり高そうだった。教室でのあの動きを、変身もせずに。

 魔力なるものを相当以上に使いこなしている。

 自分以上に。

 でも臆病そうだった。精神的にはひどく脆そうだった。特に人間関係に対して。

 つまらない奴。


 イライラする奴ですの。


「戦えば、きっと忘れられますわ」


 自分にそう言い聞かせる、強く、強く。それによって、「あの女のムカつく無表情」とやらをもっと、もっと意識してしまっていることなど、気づきもせず。


「リーン、この辺りでしょうか……っ!?」


 ハッと、目を疑う。木々を無残に折らしめた軽自動車が、周囲を轟々と燃やしていた。

 ここまで届く炎の熱が生々しい。もしや先生はすでに、なんてことも考えてしまう。


「燃えている方とは逆の林に逃げ込んだんだリン! 今追いかけっこ中リンよ!」


 まだ生きてはいるようだ、と和美は心でホッとする。だが一刻を争う事態。一般人が化け物から逃げられる時間など、そう長くはない。

 タイムリミットは無慈悲に迫る。


「ちっ! ですの!」


 焦る。冷や汗が邪魔くさい。その気持ちを舌打ちで表して、怪人のいるという方角へ向かう。


「今のうちに変身しておいた方がいいリン!」

「走ってる間に変えといて、ですわ!」


 衣装を変えながらキラキラくるくるというのも嫌いではないが、今はとてもそんな気分になれない。彼女はマスコットに頼み込む。

 スゥッと制服が宙に溶け込んだ。一瞬だけほぼ半裸の状態になるが、気にせず足を動かす。ヒラヒラで彼女の綺麗な肢体が覆われるとともに、魔力が体に馴染む。

 魔力に体が馴染むとともに、力が湧いてくる。


「っ! 先生!」


 何本もの木々の隙間に、川北玲奈の小柄な体を見た。沼のほとりに彼女はいる。髪や衣服に落ち葉と土を絡ませて。恐怖に歪んだ表情で。

 すぐ側には、鎧のような筋肉をした、怪人。

 柔らかな土の上では、魔法少女の脚力を十全に生かした動きは出来ない。ごめんなさいですのと念じつつ、彼女は太めの木の幹に跳躍する。

 その姿が消えた途端、衝撃波に木は折れた。

 続けざまに五本の木が折れていく。沼の方に向かって折れていく。

 投げつけられた土に押し倒される川北先生。橘さんと、懺悔するように動く口。優れた動体視力でそれらを捉えた和美は、玲奈の心情と思考を全て察する。

 勢いのつき過ぎた体を、小さく丸めて十回転宙返りしいなしたのち、埋もれる先生の前に華麗に降り立つ。


「呼びましたの?」


 土壇場の瀬戸際になってやっと反省されたことに、かなり苛立つ橘和美。

 なぜ多くの人間は、もっと柔軟で、かつアグレッシブな考え方が出来ないのですわ?

 この先生然り。

 あの金髪ハーフの女然り。


「嘘偽りなく、ワタクシが平和を守っていたことが理解出来たことでしょう! 嘘つき呼ばわりしたこと、あとで泣いて感謝しつつ跪いて。もう這いつくばって謝りなさいな」


 長い口上を並べてはみたが、橘和美とてそこまで余裕があるわけではない。

 魔法少女になったばかりの彼女にとって、目の前の怪人は強敵だった。

 至近距離で対面して感じる、強烈なプレッシャー。

 無造作に振るわれる裏拳を辛うじて躱したのち、右手の甲に魔法でクロスボウを練り上げる。


「ミニシャイニングアロー!」


 ヒュッと発射された光の矢は、蛇の頭の眉間へ一直線。危険と重圧の中で慌てず騒がず、的確に急所を狙う胆力はさすがと言える。

 マニアックな父親から、幼い頃よりクロスボウの使い方を学び、反射的に扱えるほどに慣れ親しんだ武器というのもあった。

 が、肝心の魔力操作はまだまだ稚拙だった。眉間に当たるも、弾かれる。怪人の骨を貫き通すほどに、魔力を緻密に練り上げられなかった。

 ギョッと怯み奥歯を噛み締めつつ、バッと距離を取る。「想定内ですの」と強がって。

 怪我は負ってなくともそれなりに痛かったのだろうか、シュルルル……と憤怒の呼吸音を鳴らしつつ、怪人は注意を和美に向けた。

 ここで暴れたら先生が危ない。

 魔法の矢を心臓や肝臓部分に射かけつつ、和美はジリジリと下がる姿勢を見せる。


「シャアアアアッ!」


 思惑通り、怪人は巨体を和美に向けて、ズンズンと追いかけてくる。


「よしっですわ」


 後退のスピードを速める。相手も吊られる。それほど時間をかけずに、沼から距離を取ることに成功した。

 もう暴れても大丈夫、ですわ。

 土を蹴り、体を浮かせる。こうも立体的な動きにまだあまり慣れていないからか、下に置き去りになる木の根に、なんとなくの夢想感。

 枝に飛び乗り、怪人を見下ろして、魔法の矢を何本も射る。枝から枝へ飛び移り、撹乱も行う。重力のおかげか、多少のかすり傷を負わせられるようになった。

 だが致命傷とは、程遠い。

 それでもこうやって、安全地帯から攻撃を加え続けられるならまだいい。しかし世の中はそう上手くはいかない。

 フンッと怪人は力んで、屈みつつタメを作る。


「まさか」


 和美は目を見開く。轟音とともに、すり鉢状にめり込む地面。

 怪人の周囲の木々が、すり鉢の中心へと勢いよく倒れこむ。

 彼女は咄嗟に、自分のいる枝から飛び降りた。同時にタックルが今いた場所で炸裂する。枝どころでない、木が上下真っ二つに折れ、上半分は空に飛んだ。


 大技の後の隙。

 ここを見逃すわけにはいかない。


 落ちる途中、二本の矢を放つ。一つは筋肉で守られない、怪人の関節の裏目掛けて。見事に突き刺さる。苦悶の表情を浮かべる敵。

 もう一つは。

 怪人の落下地点に突き刺さり、未だ形を保つ矢。同一地点に、追加で矢を放つ。

 怪人が着地した瞬間。


「シャアアアアアアアァァァッッ!??」


 土に刺さる矢に込められた魔法が暴走し、爆発した。衝撃を受けつつ、なくなる足場に落下する怪人。

 グシャリという音がする。あの筋肉ダルマでも、自重は相当負荷となっているはず。


 大怪我はしたに違いないですけれど。

 でもこれで倒せるとは思ってませんの。


「トドメですのっっ!!!」


 切り札を発動させる。

 上空に、銀に煌めく巨大なクロスボウ。こめられた魔力による荘厳なプレッシャーが、大気を歪め、木々を大きくざわつかせる。

 番えられるのは、やはり巨大な、力強い矢。


「いっっけええええええぇぇぇええええっっっっ!!」


 お嬢様然とした喋り方も忘れ、上げた腕を振り下ろす。

 弦が緩み、大きく揺れ。

 矢がフッと、穴の底の怪人に放たれる。

 地震かと錯覚するほどの揺れが和美の足を襲い、立ってられずに尻餅をつく。


「やった、ですわ」


 確実に当てたはず。

 つい緊張が緩み、喜びの呟きを漏らす。

 もう魔力もほとんど残っていない。変身しているのが精一杯だ。

 あの魔法を、生き残れるわけがないと。

 揺れが収まり、心を鎮め、変身を解こうとした。

 が。


「シャオアアアアァァアアアァッ!!!!」

「なっ」


 耳を劈くような鳴き声が、林一帯に響き渡った。

 サラサラと崩れる大きな魔法の矢の根元から、右腕をなくした怪人が、凄まじい形相とともに這い出てくる。

 敵の高度なセンサーは、座り込む和美の姿を把捉して。火事場の馬鹿力を発揮する。

 和美に見えたのは、舞い上がる土だけだった。


「あぐっ!?」


 いつの間にか目の前にいた怪人が、無事な手で彼女の首を掴み、強烈な力で地面へと叩きつける。なんとか掴まれる前に、自らの掌を首元へと滑り込ませ、即死は免れたものの。


「ガッ、ヒュッ」


 気道の圧迫は免れない。顔色はどんどん悪くなる。口元が、泡でベタベタする。


「!?」


 唯一の戦果である、なくなった怪人の右腕が、付け根から再生していく。筋繊維が次から次へと生えて、右腕を構成していく。

 絶望に彩られそうになる心。こいつの右手は元通りになっていくけれど、それでも逆転の手はないかと、頻りに辺りを見回せば。相棒マスコットのリーンが、今にもこちらに飛んできそうで。

 来ちゃダメですわ、と睨みつける。


「カッ……」


 完全に再生した敵の右腕が、左腕に加勢した。

 それがトリガーになったのか。突然体に力が入らなくなり、ザリザリともがいていた足が動かなくなる。腕による反発が難しくなる。

 意識がだんだん薄くなっていく。

 死ぬのでしょうか。

 怖い。怖い。怖い。

 嫌だ。



「魔法少女には、危険が付き物リン。本当にやるリン?」



 二週間前。

 契約の直前に。ある事情で沈んでいた和美を再び元気付けたマスコット、リーンは、最後の最後で躊躇いがちに意思を確認してきた。

 「魔法少女」への憧れ。その言葉の持つ、輝き、キラキラ、特別感。

 そんな存在に、ワタクシがなれるなんて。

 幼い心がキュンキュン踊った。

 同世代で一番になれると思った。

 それを考えれば、危険なんて大したことなく感じた。


 結果が、これ。

 首絞め窒息死。


 後悔する。死ぬほど後悔する。今まさしく、死に迎えられようとしているわけだが。

 魔法少女になんて、ならなければ良かった。

 呼吸が出来なくなり、酸素が脳に回らなくなり、いよいよ思考は鈍化していく。

 彼女はぼんやり、父のことを思い出した。


 半年前に事故で死んだ、父のことを思い出した。


「一番を、目指しなさい」


 一番になれではなく、一番を目指せと優しく微笑む父のことが、和美は大好きだった。

 これでお父様に、会えるのかしら……。

 こんな状況でも、こんな状況だからこそ、彼の生気溢れる笑顔が、鮮明に浮かぶ上がる。

 もうこの苦しみから抜け出したいと。

 早く死にたいと。

 諦念に支配され、「もういいや」と、閉じ行く和美の両目。


「諦めちゃダメ」


 ふと、体が軽くなる。苦しみから解放される。

 自分は死んだのだろうか。

 思ったよりも楽に死ねたような心地。

 目を開けたら、天国が迎えてくれるだろうか。


「……木?」


 景色は何も、変わっていなかった。ただ、怪物がいなくなっていた。


「お目覚めでしょうか。お嬢様」


 淡々とした少女の声。ただしギョッとするほどの圧力を秘めた。

 上体を起き上がらせて、反射的に後ろへ下がる。

 強張る全身。ヒラヒラの衣装は、萎縮するように制服へと戻る。


「あ、あなたは……」

「新人は、下がってて」


 シッシと手を払われる。ムカつくが、魔力ももうほとんどない。そうした方がいいのは事実。


「シャ、シャア……」


 怪人の鳴き声がした。ビクリと和美はそちらを見る。グググと、頭を押さえつつ立ち上がろうとしていた。

 ファイティングポーズをとる。突然現れた、別の魔法少女に対して。

 だが本能的に恐れているのか、ほんの少し及び腰だ。


「何をしたのです?」

「殴った」


 拳を見せつける、自分に説教をかました少女。

 殴った? ただそれだけ?

 本当にそれだけで、ああもダメージを受けますの?

 ああもたかが中学生の少女を、恐れますの?

 おずおずと、もう一人の魔法少女に視線を向ける。

 何者、なのでしょう。

 そう言えば遅刻してしまって、そもそも名前すら聞いていませんわ。和美は回らない頭で考えた。

 魔法少女は、一歩踏み出す。

 気圧されたように半歩下がる怪人へ、「さて」と彼女は話しかけた。


「魔法少女、もう一度見る?」


 一発目の変身シーンを仮◯ラ◯ダーのごとく行ってしまう魔法少女。

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