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▷||の魔法少女  作者: オッコー勝森
第一部
30/151

「元魔法少女のアドレス帳は寂しい」


 「芸術は爆発だ」なんて、どこかの誰かが格言を残すくらいなのだから、「爆発」という言葉には必ずしも悪い意味ばかり含まれているわけではないのだろうけれど、それでも余暇を楽しむ人たちがほんわか笑う、夕方のショッピングセンターを爆破していいわけがない。

 だから私はやってないし、クズでもない。

 夕方のショッピングセンターに爆発音を響かせるような、クズな真似をするはずがない。要は、謂れもない罪で疑われて、極めて遺憾とということだ。

 確かに、出来ることには出来るけれども。

 「出来る」と「やる」の間には天と地ほどの差があることなど、太古の昔から教訓として伝えられているくらいには、明らかである。もしそれらがイコールで結ばれるとするならば、私は今頃、世界を征服しその頂点に立っているはずだ。

 しかし、平和をこよなく愛する、普通の女の子の精神性しか持っていない私が、天下統一なんぞに乗り出すはずもなく。

 徳川家康ではないけれども、徳はイエス・キリストほどにあるので。

 後に世界的宗教となるアヴァ教の始まりである。お布施くれ。


「は? 徳? 自分の得しか考えてない、利己性を極めたアヴァさんがですか? 頭にダイナマイトでも湧いてるんですか? あ、なるほど、人間火薬庫」

「しばくぞ? 時速1000キロで」

「ミサイルですか?」


 ハーフ系美少女アヴァちゃん指して、ミサイルとはどういう了見なのだろうか。理解に苦しむ。ミサイルばりのツッコミ待ちなのか?

 物理の方で。

 堪忍袋の緒が切れそうだ。最近いつもキレそうになってる気がする。友人環境が極めて悪い。橘・ヒダカ両名の脳味噌を弄って、なんでも言うことを聞く可愛らしい人形にしてやろうかという気分になってきた。

 出来るので、やる。

 天と地の差を結び繋げる、ハートフルフレンドシップストーリー開幕のゴングがなる直前、妙に注意を掻き立てられる、「ジリリリリ」なる無機質な音が、フロア全体に響き渡った。

 カチャッと、放送機の電源が入るとともに、極限まで慌てたような、中有年男性の声が耳を刺す。


「皆さん! 三階のキッチングッズ売り場にて、原因不明の爆発が発生! 繰り返します、三階のキッチングッズ売り場にて、爆発が発生しました! 不審人物? の目撃情報もあり、テロの可能性もあります! 訓練ではありません! 職員の指示に従って、直ちに避難してください!」

「なっ」


 突然の緊急事態。

 まさに、青天の霹靂である。すでに夕方だが。

 可愛い服を前に悶々としに来ただけの論部先生は、驚愕しつつ立ち上がるが。少しも一人逃げ去ろうという挙動を見せず、担任として受け持っているわけではなけれども、それでも生徒たる私たちをぐるりと見回して、決意したように頷いた。

 数学の授業のクォリティといい、なかなかに、先生としての責任感が備わっている。素晴らしい大人だ。

 さっき私を木倉でなく木屑と呼んだのは、いただけないが。


「みんな。落ち着いて動こう。まずは、近くの職員と合流を……」


 そう言って、先生はキョロキョロと首を回し、スタッフを探し始めた。彼女の様子をおとなしく見守っていると、側で「バシン」という音がする。

 驚き、若干心臓をバクバクさせつつ音源を辿れば。橘さんが、ソファの肘掛を叩いたらしい。クイ研の早押しよろしく。

 なんのつもりだ?


「テロなんて、見過ごせませんわ!」


 ビシィッと。自分は一人の女子中学生で、相手はテロリストであるという厳しい現実など知ったこっちゃねえと、彼女は決める。

 あんた何言ってんの?


「右に同じく! 公安の端くれとして、テロ行為は断固として否定します! けちょんけちょんにしてやりましょう!」


 便乗する左の女子中学生。というか左派だ。過激な武闘派だ。

 いや、あんたら何言ってんの?

 常識がないの?

 普通の女子中学生は、テロリストに立ち向かったりしない。それは、特殊な訓練を受けた警察の仕事である。

 あれ? ヒダカはそうなのか? 少なくとも、彼女の任務は怪人騒ぎと魔法少女の監視であって、突発的なテロリスト襲来の相手ではないはずだけれど。


「ちょっと、落ち着いてよ! パニックになるならまだ分かるけれど、自ら危険な場所に飛び込んでいくなんて、先生は……」

「とう!」

「ですわ!」


 静止の言葉も聞かず。

 なんと、二人して、ショッピングセンターが吹き抜けに飛び込んでいったではないか。静止を無視するどころか、自らの生死も問うてないのかと問いたくなる位の蛮勇である。勇気の感情は万有の物に宿っているとしても、これはあまりにもあんまりだ。

 下を覗き込むと、二人とも三階に着地していた。

 ショートコント:ショートカット。


「ええぇええええええ」


 混沌とした状況に、困惑を隠せない論部先生。数学の問題なら鮮やかに解く彼女でも、奴らの行動について予測することは不可能だった。


「最近の女子中学生って、みんなああなの?」

「そんなわけないでしょう。安心してください。あの二人は精神異常者なんです。少なくとも、私は普通の女子中学生です」

「うーん?」


 ん? なして悩むんセンセ?


「君が普通かどうかはともかく、兎にも角にも、二人を危険な目に合わせるわけには、教師としてはいかないよ。彼女たちを連れ戻して、避難させなきゃ。携帯電話の番号とか知らない?」

「……!」


 ハッとなって気づく。私、友達なのに二人と連絡手段を持っていない。ふと一緒に遊びに行きたいとなったとき、その旨を伝える方法がない。

 というか、去年の夏に買ってもらったスマホには、パパママの電話番号にメールアドレスしか登録されていない。

 なんたること。


「無表情の微反応だからちょっと分からないけれど、多分知らないのかな? ……仕方ない。先生が連れ戻してくるから、木倉さんは先に避難をしておいて……」

「危険ですよ」


 言葉を遮る。橘さんはなんだかんだで魔法少女だし、ヒダカはプロの警察。奴らの方が、一般人たる先生よりかは荒事への対処に慣れているはず。

 論部先生が、先生としての義務感から助けに行く方が危ない。

 結局、死出の旅路に向かった生徒を救出に行った先生だけが、黄泉の闇へと消えかねない。


「ミイラ取りが、ミイラになりかねない」

「……ミイラだけにドライな意見だけど、確かにそうかも。忸怩たる思いだが、二人の無事を信じて、私も避難した方がいいか」


 コクリと頷き、スタッフを探そうと近くの店に足を運ぼうとした途端、新たな爆発音が鼓膜を震わせる。後ろ髪引かれる思いがあるのか、先生は吹き抜けを見下ろしていたが、首を振って私の背中を追ってきた。

 今は殊勝に、避難の時間だ。

 ん? 私は戦いに行かなくていいのかだって?

 怪人ならいざ知らず、テロリストなどお呼びではない。テロリストに対処すべきは、魔法少女という法外の存在ではなく、警察や自衛隊などの、日本の治安を守る職業の者たちであるべきだ。それが筋というものである。

 あと、端的に言ってメンドイ。

 橘ヒダカ両名が、助けにいかなかったことで仮に死亡しても、魂を口寄せして人形か何かに縛るので大丈夫。充実したアフターサービスだ。頼むから、魂自体をエネルギーとして消費して、使い切ることのないようにだけして欲しい。


 ミンミンや茜みたいなことは、絶対にしないでくれ。

 願いはこれだけ。


 ……悲しいことを思い出した。


「おいおい、どの店にも誰もいないじゃないか。先に逃げたのか?」

「ですね」

「気持ちは分かるけれど……」


 イライラしつつ、足を小刻みに揺らす論部先生。誰もいないため、普段は目に触れることのない、店の奥の方まで進んでみると、裏口が開きっぱなしになっていた。


「なるほど、ここから」

「先生、誰も見てません。可愛い服盗り放題ですよ」

「火事場泥棒!?」


 先生は、目を白黒させる。火事場泥棒よりも、「爆発現場泥棒」の方が正しいかもしれない。

 奮発どころか爆発して、はっちゃけちゃおうぜ。


「はっちゃけないよ!」


 否定されてしまった。妙手だと思ったのだが。「悪手だよ、というか悪だ!」と返される。悪いのは、どう考えても見張りを放棄した職員では?


「まあ冗談は置いといて、ここから逃げます?」

「そうだね……多分非常階段と繋がっているし、いいんじゃないかな」


 合意が取れた。いざ逃げん、と走り出す足を繰り出す。


 ふと頭痛。未来視の発動。

 三秒後の世界が、強制的に頭に流れ込んでくる。


「先生、伏せて!」

「えっ」


 咄嗟に対応出来ない彼女の肩を押さえつけ、しゃがませ、前方に魔力シールドを展開。

 同時に、通路の横手に、巨大な穴が開く。

 飛んでくる瓦礫を防ぎながら攻撃を考察するに、物理の打撃ではなく、エネルギー弾の類型による破壊と結論づける。

 テロリストによる攻撃か? 金属製の弾のような物は見当たらない。

 独自の兵器か何かだろうか。

 足音を消しつつ、開いた大穴へ向かい、ショッピングセンター7Fの様子を除いてみれば。


 怪人。

 怪人。


 怪人、怪人、怪人。

 怪人の群れが。

 吹き抜けから、ゴキブリかの如く湧き出てきているではないか。姿形も、なんとなく似ている。


「まじかよ」


 察してしまう。此度の事件。

 どうやら、警察や自衛隊の管轄ではなく。

 魔法少女の領分みたい。


「先生ちょっと、私やらなきゃいけないことが……」


 一応元魔法少女として、元魔法少女たちの先輩として、手伝いくらいはしてやるかと、変身しようとしたその時。


「ミラクルシニカル、シクリカル♡」


 謎の掛け声とともに、青のヒラヒラ衣装を身に纏った少女が吹き抜けの中心に現れ、群青色に輝く攻撃を放ち。

 怪人を十体ほど、(ほろぼ)した。


「みんな大好き、宇宙レベルのハイパーレア、マレマレノゾミン、トージョー♡」


 甘ったるく、バッとあざとく、ポーズを決める。

 橘さん以外の、魔法少女。ミウイによると、確か地域の公立に二人いて、その公立中学校はショッピングセンターから徒歩十五分だから、まあいてもおかしくないわけだが。

 なんだあいつ?

 妙に鼻につく。嫌に癇に障る。

 第一印象。

 かつ終生変わらなかった印象。


 うぜえ。


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