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▷||の魔法少女  作者: オッコー勝森
第一部
27/151

「元魔法少女の華麗なる誘惑」


 ショッピングセンターというと、中高生や主婦に謎のおじさん、休日なら子ども連れの夫婦の憩いの場のような曖昧モコモコなイメージが、少なくとも私の中にある。

 フードコート、レストラン、服飾店、家具屋、文房具屋、玩具屋、雑貨屋、宝石店に果ては登山用具の専門店まで揃っているものもあるショッピングセンター、あるいはショッピングモールという場所は、ただブラブラ見て回るだけでも楽しい……寄せ集めという点では商店街に似ていても、やはりどこか違った魅力が(かも)し出されている。

 魅力を醸し出して、多くの人をカモにしている。

 無論、我々が最寄りとしているショッピングセンターも例外ではなく、いつ行っても来客が一定数以上いて、つまり顧客をよく握り、よく賑わっているのだから、商売のやり方としては大成功を収めていると言っていい。

 私の通う学校近くにある、閑古鳥が存在を主張し始め、閉まるシャッターもじわじわ増えてきている商店街とは大違いだ。あそこもあと五年は保つだろうけれど、五年以上経ったのちどうなるかは、かなり厳しい予想となる。

 さて、街の中心部にある、市場の競争に勝ちつつあるショッピングセンターまでは、普通電車で二駅というところである。

 我々中学一年生、電車賃すら心許ない身。学校からショッピングセンターまで歩いて十五分という、公立の奴らが非常に羨ましい。

 警視庁の公安部で働いているヒダカなら、電車賃くらいものの数にも入らないんじゃないかと言われると、彼女は働いてはいるものの、子どもということで基本お小遣い制らしく、金銭面では住居費や生活費等でカツカツなんだとか。成人すれば、それまでの頑張りを評価され、給料が同世代同職勤務者の倍額になるとのことで、不当な搾取というわけでもないようだが。

 私や橘さんは言うに及ばず、とにかく皆一様に金がない。

 というわけで。


「てんい〜!」


 放課後、学校の裏の林に集まり、ショッピングセンター近くまで、魔法で移動することにした。瞬時に変化する周囲の景色に、「すごいですわ〜!」と大はしゃぎの橘さん。ちょっと酔ったのか、足元が覚束ないが。

 その点、ヒダカはバランスを失っている様子もなく、「さすが公安」と思わざるを得ない。


「ひゃあ、札によらない、無料で出来る、本物の転移……」

「そう言えばヒダカ、転移札とか使ってたね。『予算超過オーバー』とか二重表現になるくらい、お金使うの?」

「え、ええ。まあ」


 受け答えしながら、ヒダカはササッと距離を取り始める。若干悲しいけれど、もう慣れてきた。というか小学校の高学年時代は茜以外に近づかれすらしなかったのだ。

 人に距離を取られるのは、もう慣れっこなのだ。

 慣れっこ、だもん。

 悲しい一人問答している間に、あの転移札とやらの裏事情を暴露するヒダカ。


「あれは、私みたいな一般人でも、上司みたいに魔法が使えるように……というコンセプトで開発されたもので、最先端どころか時代を振り切った技術の(すい)が尽くされています。量産は出来ません。一度使うと千万単位でマネーが飛びます。ふふ。フフフ」


 闇の深い笑顔。目が死んでいる。

 長い髪が顔にかかって、なんだか怖い。


「ヒダカさんの雰囲気がすごく暗くなってますけれど、それにしても、ここも薄暗い感じの場所ですわねー。本当にショッピングセンターの近くなんですの?」

「ん。歩いて十分くらいの路地裏だけど。ここに来たのは、ちょっと用事があって」

「用事ですの?」


 橘さんが首を傾げて、「用事」の中身を可愛らしく聞いてくる。私も首を傾げつつ、可愛らしく一言でまとめてみた。


「しゅーかく」

「しゅーかく?」

「少し待っててね……」


 ただでさえ狭い道で、視線の先には大通りへ出るための抜け道があるけれど。反対方向に足を伸ばして、ここよりさらに暗く細い道に入っていく、無防備で可憐な乙女こと私。


 ……。


「あっ可愛い制服のお嬢ちゃん、中学生? ダメだなぁこんなとこ入ってきちゃあ」

「そうそう、俺ちゃんたちみたいな悪い大人に捕まっちまうぜい」


 ……。


 ドガッ。バキッ。グシャッ。


 ……。


「ひぃっ!? お金ならいくらでも出しますから、これ以上痛めつけないで!」

「金髪に無表情……こいつ、『金色(こんじき)の悪魔』だぁっ!?」


 ……。


 ガシッ。チャリンチャリン。


 ……。


「ちっ。噂が広まってる。この狩場もそろそろダメか……」


 ……。


「はい。収穫終わり☆ じゃっ行こっか」


 準備は万端。用意は周到。さあショッピングに繰り出すぜい、ルンルン。

 とばかりに歩き始めた私の両の肩に、少女二人が片手を乗っける。

 手でも繋ぎたいのかい? 人気者は辛いねえと考えつつ振り向くと、本日お出かけ同伴の彼女らは、なぜかとってもいい笑顔で。

 ヒダカなんぞは空いた片手に、警察手帳を出していた。


◇◇◇


「初犯です」

「嘘つきなさいな。噂が広まってるだの狩場だの、どう考えても常習犯ですの。大体そういうのは、自分で申告するものではありませんわ」


 午後三時四十七分。

 人影も疎らな、スキマ時間のフードコートにて。

 私はなぜか、同級生二人から取り調べを受けていた。


「ちっ聞こえてたのか……。そうだよ。もう六回くらいあそこで『釣り』してたよ。見た目で舐めてかかってくる、バカな悪党相手にな。『釣り』の何が悪いというの? 自分を餌にして、ゴロツキから金を巻き上げる。でも命までは取ってない。これが悪いというのなら、餌を垂らして食いついてきた魚をシメて食らう、本物の釣りこそ悪逆非道、死刑に値する所業じゃない?」

「流暢な長台詞!? いつもの口下手はどこに行きましたのっ!?」


 「えええ」とばかりに、慄く橘さん。ゴンと、最近程よく肉のつき始めた彼女のお腹と机がぶつかった。机は振動し、水の入った紙コップが揺れる。


「えっ今の動きで当たりますの……?」

「カズミさんは運動しましょう。それよりアヴァさんのことです。どんなゴロツキ相手でも、脅して金を奪い取れば、それは犯罪です。悪いことなんです。もうやめましょう」

「フン。どうせあいつらの金も、悪いことして稼いだもの。私はそれを取り返してるだけ。汚れた金を浄化し、地下経済を縮小させ、地上経済を潤わせる小さな一歩。むしろ善ではなかろうか?」

「禅問答ですか?」


 ビキビキと、ヒダカが額に青筋を浮かべている。私への怒りが、恐怖心に優っているようだ。今だけは恐怖心に頑張って欲しかった。

 ちょっと怖いので、視線を取り調べ人:橘へと向ける。締まりのない(まなじり)と頰肉だ。腹もだらしないときた。

 頭もネジがゆるっゆるに決まっている。


「……五万ある」

「えっ一回でそんなに……ふ、ふんですわ! 有用性を説いて見逃してもらおうなんて、そうはいくもんですか……」

「三分の一」

「えっ……」

「二分の一」

「ゴクリ……」

「魔法でラクしてやせれるよ?」

「ヒダカさん。この話は終わりですわ。せっかくフードコートに来たのですし、アイスでも食べません? ダブルで」

「何買収されて羽振りよくなってるんですかっ!?」


 はっはっは。やはり橘さんは与し易いなあ。

 大好きだよマイスイートハニー。脳みそが蜂の巣みたいにスッカスカなところが。お花畑も広がっていて、ホントにスイートハニーが採れそうだ。

 ま、取ってあげるのは余分な脂肪なんだけど。

 動揺し、あたふたするヒダカの肩に、すかさず手を回す。「お早い動きですわあ」と褒めつつ、橘さんが私に寄りかかってきた。まっこと、軽い女である。

 「ヒッ」と慄くヒダカの耳元で、甘く囁いた。


「片恋慕の相手は、七歳も年上なんでしょ?」

「そっそれが何か?」

「公安の英才教育が施されていて、運動能力とか知識とかは高校生顔負けなのかもしれないけれど……」


 ススー……ッとボディラインをなぞれば、ヒダカは顔を真っ赤にして、くすぐったげに「ひゃ……ひゃ……」と可愛らしい声を上げた。


「男は肉感ある方が好きな傾向があるらしいけれど、こぉんなちんちくりんボディで振り向いてもらえるの?」

「っ!」

「ヒダカに好かれるくらいだから、結構モテるんじゃないの? その人」

「っ!!」

「競争、出来るの?」

「っ〜〜〜……」


 表情を絶望で彩り、恋する乙女は机に突っ伏す。イギリス人の血が功を奏したのか、同世代の中では大きめな私の胸を、親の仇かとでも言いたくなるほど恨めしげに睨みつけてきた。

 ここまで追い込めば、あとは簡単だ。


「レッツ☆マジック、ボン☆キュッ☆ボン」


 スレンダーが服を着ているような少女ヒダカへと、ふしぎなフシギな魔法をかける。

 すると、なんということでしょう。貧相だった体の、胸が出っ張り、おしりが盛り上がり。


「なっ、胸元がきつい、腰もきついですっ」

「チッチッチ」


 夢の時間は儚いもので、あっという間に、もう終わり。シューと煙が上がるや否や、ヒダカの体は元の木阿弥。「あああ……」と、名残惜しそうに、残念そうに声をあげる。


「一般の現代医療を5とすれば、私の能力は53万です。不自然のない範囲で、なるべく早く、先ほどの完成形へ。いやその先までも! あなたをお連れすることが出来ます」

「……ジーザス」


 惚けたように呟かれる神の名。隠れキリシタンなのかもしれない。立ち上がり、踏み絵の如き選択を迫る。


「さ? このユキチでアイス、買いに行こ?」

「…………『金色の悪魔』め」


 悪魔じゃないし。

 ちょっと他人との交渉材料が多いだけの、普通の女の子だよ?

 三十分後には、三人ともダブルアイスを食べ終えていて。

 「悪い女になっちゃいましたぁ」と泣きべそかいて項垂れるヒダカを、「こんなの普通だって」と慰めていると。

 ふとフードコートの外で、見知った影が遠目についた。

 あれは……と考えていると、橘さんが口を開く。


「あっ。あの人、論部先生じゃありません?」


※よいこはぜったいにアヴァのマネをしないでね!

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