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▷||の魔法少女  作者: オッコー勝森
第一部
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「||」

 作者は「唐突に、中学生くらいの女の子のわちゃわちゃを書きたくなった」などと供述しており……。


 昔から、「面持ち」なるものの原理が理解出来ない。

 だからこんな時、困るのだ。


 どういう顔をすればいいんだろう。

 彼らに対して、どんな表情を向ければいいんだろう?

 目尻を歪めればいいの?

 口元を歪めればいいの?

 それとも眉を、歪めればいいの?

 よく分からなくて、とりあえずステッキをギュッと握った。

 黒煙を上げながら消えゆく、豪華だけど趣味の悪い装飾品が、どこか羨ましい。


『幸せを、愛せたんでしょう?』


 ゆらゆらと蜃気楼のように揺蕩う彼女は、私ににっこり微笑みかける。


『出会いがあれば、別れもあるの。それもまた幸せよ。だから今この時を、愛して欲しいな』

『いいこと言うね』


 周囲の雑多な物と同様、私の友達二人が薄くなっていく。空に消え去っていく。

 だけど汚らしい黒煙とは、決して交わらない。

 混ざるわけがない。

 そんな白く神々しい残滓として、舞い上がる。


「……ごめんね、ごめんね……」

『そんな、謝らなくても』

「でもっでも! 茜にはあの時何も言えなくて……ミンミンも………今を逃したら……絶対もう言えないから……」

『……』


 泣いて、瞳を涙でタプタプにしていた。感情を抑えきれそうにない。

 どこまでも嘆き悲しみたい気持ちは今にも溢れかえりそうで、行き場をなくせば永遠に暴れ続けるに違いない。


「後から『この瞬間』を好きになれるように……ちゃんと言わせてよ」


 黒煙はモウモウと、上がり続ける。我々だけを避けて。

 私の魔力を恐れているのだろう。

 この場所は、ついさっき倒した最大の敵の牙城だったから。


「茜、守ってあげられなくてごめんね……守ってあげられなかったのに……助けに来てくれて本当にありがとね……」


 茜の魂は、何も言わずに優しく私を見守っている。いつもこうやって冷静で、彼女が魔法少女をやった方がいいかもなんて、半年前には思っていた。

 時には劣等感を覚えたりもしたものだ。子供っぽくて嫌になる。

 でも見間違えだろうか。私が泣いているからなのかな。

 彼女の瞳が、涙で潤んでいるように見えた。


 色んな心で、泣いてくれたらいい。

 幸せがそこに少しでも含まれていたならば、もっといい。

 それがさいごに相応しい。

 鼻水をすする。


「ズビッ……ミンミン」

『僕は最高の選択をしただけなんだけどな。やっといける。やっと会えるんだぜ』


 マスコットみたいな見た目のくせに、ニヒルに笑う妖精。妙に似合っていて腹立たしい。

 最初に会った時には、違和感を覚えたものだけれど。

 彼とは涙のお別れというのも、少し違う気がした。袖で顔を拭い擦り、必死になって、いつもの無表情(すまし)顔を取り繕う。


「命懸けの決意を理解してあげられなくて、ごめんね」

『この復讐は、僕だけのものだから。そういうものさ』

「……そうだったね。そういうものだった」


 契約の時に交わした文言は、昨日のことのように覚えている。

 僕だけが、復讐者。

 私はその、共犯者(パトロン)ね。


「『私の』復讐も、生まれてたけどね」

『……境界が曖昧でなくなってきている。そろそろ、僕らはお別れだ』


 気づけばもう、二人の体は半分くらいになっている。奴の城はそれ以上に消えていたけれど。

 殺風景な地下世界が、剥き出しになりかかっている。

 どうしよう。


 ごめんねのみで別れるのなんて、湿っぽ過ぎる。

 だからといって、どんな言葉を送ればいいのか。

 また行き着く疑問。


 彼らに対して、どんな表情を向ければいいんだろう?

 目尻を歪めればいいの?

 口元を歪めればいいの?

 それとも眉を、歪めればいいの?


『簡単だよ』


 茜が私に一歩近づいた。足はもう見当たらないので、一「歩」という表現はおかしいかもしれない。

 近づいたというのも、また錯覚なのかもしれない。

 「抱きしめたい」という感情の生んだ。


『全部、すればいいんだよ』

「ぜん、ぶ」


 目尻を歪めてみる。

 口元を歪めてみる。

 眉を歪めてみる。

 これでいいのかという葛藤とともに。


『ほら、笑顔になった。ぎこちないけど』

『はは。最後に見れて良かったよ』


 笑顔。笑顔でいいのか。

 彼らの希望は笑顔で良かったのか。

 フッと心が軽くなって、同時に言いたいことも、自然と定まる。

 畏まらなくていい。飾らなくていい。

 素直じゃない自分らしくなくたっていい。

 本心を、ありのままに伝えればいいのだ。


「今までありがとう。とっても楽しかった! すっごく、大好きだったよ!!」


 本当の笑顔に、なれた気がした。

 二人は少しだけ驚いたような表情をした後、満面の笑みをこちらに向けて。


『じゃあね』

『いつかまた、どこかで』

「うん。じゃあ。二人とも」


 そのまま地下世界の暗闇に、白銀の輝きを瞬かせて消えた。

 幻想的で儚くて、まるで命の灯火のよう。

 否。まさしく命の灯火だったのだろう。

 それを黙って見送り、数秒物思いに耽る。

 耽ってから、「転移」でその場を後にする。


 目を開けると、ごちゃごちゃした自分の部屋。


 深夜だからか、外は真っ暗だ。

 電気を点ける。白い蛍光灯の光が、妙に新鮮に感じられる。

 本棚には、忙しくなってから全く目を通せていない、お気に入りの漫画がたくさん置かれていた。

 机の上には、流し読みしていた中学受験用の参考書が乗っかっている。その前の回転椅子に、キコーと音を鳴らして座り込み、机に突っ伏す。


「うぅ」


 声が漏れ出た。

 下で眠るパパやママは気にならない。

 隣の家なんて、もっと気にしてやるものか。

 かなり大きな音だったと思う。


「ううぅ……うっ……うぅ………」


 一晩中、そうやって私は咽び泣き続けた。

 朝日が昇り、パパとママが背中をさすりにくるまで、ずっとずっと、泣き続けた。


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