異世界の原型師 差し替え第1話
我は根源の魔王。
全能の力を持つ。
我は観測者でもある。この世の全てを見通せる。
我は超越者でもある。この世界を超えて別の異世界へと移動できる。
我は不滅のものである。天地の開闢から、その終末までを生き長らえる。
【だから暇つぶしが大変だ。娯楽に飢えている。】
戯れに世界を支配した。
飽きたので別の世界=異世界を支配した。
人間の異世界を支配した。
エルフの異世界を支配した。
蒸気機関が発達した異世界を支配した。
コンピューターが人間を駆逐した異世界を支配した。
支配した異世界は100を超えてから数えるのをやめてしまった。
異世界を支配するのにも飽きた。
だが、今日見つけた異世界には、久しぶりに興味が湧いた。
その異世界はとても面白い特性をもっていた。
形が大きな意味を持つ異世界だった。
兵士の像を彫れば、その像は兵士の力を宿す。
馬の像を彫れば、その像は馬の力を宿す。
ドラゴンの像を彫れば、その像はドラゴンの力を宿す。
住んでいる知的種族は、エルフ達が大多数と、獣人、ドワーフ、人間、……いくつかの種族の混成型か。
その異世界のエルフ達は、馬の像を彫り、背に乗って移動手段としていた。
馬の像に農具をくくりつけて畑を耕している者もいるな。
巨人の像を彫り、建物を作る建機代わりにしていた。
像をつかって、文明を発達させた異世界か。
この異世界で生物を模した動く彫像は、魔導彫像と呼ばれているのか。
俄然興味が湧いてきた。
久々に面白い異世界だ。
この異世界も支配して、コレクションに加えよう。
居城をその異世界に転移させる。
転移先は手ごろな大きさの島を選んだ。
配下の軍団を動かして、まずは、この島を支配するか。
この異世界の兵器。戦闘用ゴウレムは、どれほど強いのだろうか?
どの軍勢を出撃させるか。
軍事シミュレーションゲームのようだ。心が躍るのは何千年ぶりだろう。
その矢先、人間がやってきた。
ふむ。
こいつはこの世界の生命体ではないな。
我と同じ、次元を超える力を持つものか。
あるいはこの地に召喚されたものか。
後者であれば召喚勇者の類であろう。
ひとつ力比べをしてみるか。
勇者よ、お前の名前を聞こうか?
「カラスマだ」
変な名前だな。
まあいい。さあ、かかって来い人間!
人間は玩具をとりだした。
それは「プラモデル」だった。
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それで一体、何をする気だ?
面白い。許す。ではそれで我を滅ぼしてみせよ。
「いくぞ疾風!」
<はい、お父様!>
「疾風、四式戦装甲リンクアップ!」
<了解、マスター!>
「必殺! チェストバスター!」
驚いた。
その玩具が我の体を貫いたのだ。
我を構成する連結意識集合体、数億ある内の一柱、その一柱が確かに消滅させられた。
たかがプラモデルにだ。
たかがプラモデルにだぞ?
何故だ?
何故たかが玩具にそれほどの力が宿るのだ?
そうか……。
この世界は形が大きな意味を持つ。
兵士の像を彫れば、その像は兵士の力を宿す。
馬の像を彫れば、その像は馬の力を宿す。
ドラゴンの像を彫れば、その像はドラゴンの力を宿す。
神の像を彫れば、その像は神の力を宿す。
そういうことか。
男の作ったプラモデルは、男が女神をプラモデルにしたものだった。
だからプラモデルは女神の力を持っていた。
問題なのはその女神だ。その女神は【男が想像した架空の女神】であったことだ。
男が光速で飛ぶ女神を想像し、そのプラモデルを作れば、そのプラモデルの女神は光速で飛ぶ。
男が山を持ち上げる怪力の女神を想像し、そのプラモデルを作れば、そのプラモデルの女神は山を持ち上げる怪力を発揮するだろう。
竜を殺す女神を想像し、それを作れば、その女神は竜を殺せるだろう。
では、男が世界を滅ぼす女神を想像し、そのプラモデルを作ってしまったら?
この異世界が滅びてしまうではないか。
始末に悪い。
実に始末に悪い。
この異世界、想像したものを現実に出来る。
思考が現実化する異世界なのか。
(一度、模型を作るというひと手間、ワンクッションが必要ではあるが。)
思考が実現されてしまう世界。
想像力が実際の力になる世界だ。
この異世界、遊び場にするにはあまりにも危険すぎる。
男がうっかり世界を滅ぼす女神を作ったら……。
我は超越者とはいえ、その世界にいるあいだは、その世界のルールに縛られる。
世界の崩壊に巻き込まれれば、この根源の魔王の全能を持ってしても、消滅は免れないだろう。
「ここから出て行ってくれるなら、俺はなにもしない」
欲の無い男で助かった。
この異世界はあまりにも危険だ。
居城を別の異世界へ転移させ、早々に退散する。
久々に肝を冷やした。
何億年ぶりのことだろう。
この魔王が恐怖するとは……。
この異世界はブラックリストに入れよう。
そして、二度と近づかないと心に決めた。