AS-1.王国侵入
春たちの前から姿を消した寒崎君の物語を"AnotherStory"として描いていきます。こちらは毎話2000字程度です。
ひたすらに続く一本道をひたすらに進む冬里。彼は、クラスメイトとはぐれ、デルハツの外を歩いていた。ただ歩いているのではない。光属魔法によって加速して歩いていた。馬車よりも速く···。
(さっさとこの世界から抜ける方法を···)
冬里がそう考えるのには、理由があった。のらりくらりとゆくクラスメイトと一緒に居ては元の世界に戻れないと判断していた。疲れた表情をミリとも見せず歩き続ける冬里。しかし、彼は無謀だった。そこはデルハツの外。冒険者は居ない。そして鬼が溢れる。当然···
「グガガガガァァァッ······」
鬼と遭遇だってする。現れたのは、図体が二メートル以上ある大きい鬼が数体。冬里は、足を止め、ため息一つもらして、魔方陣から杖を取り出した。それを鬼へ向けると魔法を唱えた。
「地属魔法、大地破壊」
鬼らの足元に、巨大な橙色の魔方陣が出現し、その地面にひびが入った。そのひびはまもなく広がり、鬼らは地の底へと消えていった。何事もなかったかのように地のひびはなくなり、冬里は先へ進んだ。
そうして進んだ約五時間。日が落ちかけ、赤く色づけされた景色の向こうに、ようやく影が入った。
(王国か何かか···)
冬里はそこを目的地とし、進んだ。到着した頃、既に日は落ちていた。門前には、武装した兵が二人立っていた。会話が聞こえてきた。
「はぁ···あとどれだけだぁ?」
「あとちょいだな。まぁまぁ、終わったら一杯飲もうや」
「どうせこんなでけぇ国に侵入する馬鹿なんざ居ないっての···。サボらね?」
「馬鹿で悪かったな」
兵らの会話は止んだ。慌てて槍を構える兵ら。暗さで視界は良くないらしく、顔を前に突き出している。冬里は杖の先を顔に寄せ、光らせた。兵らは冬里の存在に気づいた。
「ところで、サボるんだよな。中に入ってもいいか?」
冬里は兵らに話しかけた。無断で中に入れろと。兵らは警戒する。かのような子供を。何故なら、その王国周辺には、国は勿論、村すら存在しないのだから。一体どこからと疑問符を浮かべつつ兵らは言った。
「おい侵入者。目的はなんだ?こんな夜分だ。盗みだろう。俺らは忙しいんだよ····。つー訳。死ね」
兵らは冬里に口を開かせずに攻撃を始めた。突っ込んできた。冬里は、杖を槍に向けた。
「俺はまだ何も言ってない。正当防衛で良いよな」
そう呟くと、魔方陣を出現させた。そこから現れたのは氷河。たちまち兵らは氷河に飲まれた。怯える兵ら。冬里は慈悲などない冷酷な目を兵らに向けた。
「でけぇ国だってことは分かったが···兵が少なすぎるんじゃないか」
「風属魔法、飛行」
氷河から解放された兵らは浮遊で身動きを取れず、そのまま冬里と門をくぐっていった。
もう夜ということもあり、外を出歩く者は少なく、家々の光が道を照らす。冬里も怪しまれる訳にはいかない。兵を地に落とし、言った。
「お前たちの親玉のところに案内してくれ」
「てめぇ···こんなことしてただで済むと思うなよぉ···!!!うちの兵長はその容赦ない殺戮で有名だ···。頭と身体が繋がってることを精々祈るんだな···」
嫌にニヤリと言う兵。しかし、冬里に表情を歪める様子は一切ない。真顔を通し進む道中。やがて、デルハツのギルドとは比べものにならない程立派な城が姿を現した。冬里は背後に兵らを連れて城へ入った。その瞬間―。
「侵入者だぁぁぁっ!!!!!こいつを捕まえろ、冒険者どもぉ!!!!!」
兵が叫んだ。夜でも冒険者が沢山居た。そして、奥の扉をギギギとゆっくり開き、兵と似た、しかしより素晴らしいそれをまとった兵が現れた。
「どういうことだ、説明せよ!」
「はい!こいつが門前に現れ、我々に攻撃を開始し!ここまで案内しろと脅しました!!!」
とんだでっち上げをされた。実際のところ、兵らが勝手に侵入者と勘違いし、向こうから冬里に攻撃を開始したのだ。それに対して冬里は正当防衛だと、対処したまで。
(あれが兵長か···?)
恐らく兵長と思われるその人は、冬里の前までやって来た。そして―
ズバッ·······!!!!!!!!
「·····へ?」
一瞬だった。兵長らしき者は、腰の鞘にあった剣を抜き、斬り、納めるまでを一秒足らずでやってのけた。そして、斬られたのは·············冬里の背後の兵らだった。ボトっと首が地にいく音。その場に広がる悲鳴。冬里は確信した。彼が、兵長だと。直後、死体を別の兵が運び、床まできれいに、一瞬で掃除された。
「お前たち、俺に嘘は通じねぇ。ったく···下らないことしやがって。一回死んどけ」
とても国を守る兵士のセリフとは思えない言葉を吐き捨て、彼の視線は冬里に移った。さっきの一撃は、冬里にも見えなかった。
(こいつ···やばいな)
内心を決して外に出さず、汗のみ額に流して真顔で言った。
「あなたが、兵長ですか」
「いかにも。俺がフォエンド王国兵長、ウィリウムだ。俺の兵が無礼をしてすまなかった」
冬里の想像とは裏腹で礼儀のなった人だった。ついさっき仲間を二人殺した人にはとても見えない。この人は、芯からまともだと、冬里は直感的に感じた。ウィリウムは、冬里に言った。
「さて、君はどんな要件でここに?」