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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第1章 Encounter and reunion
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4.他言厳禁

4000字程度で1話投稿しています。ご意見等はお気軽にください!作風が大きく変わってしまう助言等は本作には反映できないかもですが、今後の参考にさせていただきます。

 目を開けて、真っ先に見えたのは天井だった。木でできた天井に、古い照明。動こうとすると、少し抵抗があった。僕は、ある部屋の、布団で眠っていた。


 「(はる)ぅ!!やっと起きたぁ~!!!!」


 右から、夏希の声がした。僕は、少し(だる)く感じる肉体に力を込め、上体を起こした。窓から星が見えた。―瞬間、夏希の腕が僕を捕縛した。倒れそうになった上体を床についた左腕で耐え、反射的に右腕が夏希の背中に回った。


 「みんな心配してたんだよぉ!?」


 「あぁ、その···ごめん」


 しばらく、夏希の腕は離れなかった。





 ―後に、僕と夏希は部屋を出て、階段を降りた。夏希によると、ここは宿屋らしい。一階は、食堂になっていて、クラスのみんなが居た。


 「塑通無!目、覚めたのか!」


 一番に駆け寄ってくれたのは、型蔵君だった。学校に居た頃を思うとあり得ないような話だが、彼が仲間思いなことはこの世界でよく知っていた。僕と夏希は、空いた席についた。しかしどうも、さあ飯だ、という空気ではない。みんな、少し、暗い表情だ。


 「塑通無君。君は、巨大な鬼が現れた時のことを覚えているかい」


 相澤君は僕に訊いた。僕が覚えているのは···そう、景色がおかしくなったあの時までだ。


 「えっと、爆発が起きた後···」


 「爆発後に意識があったの!?」


 西本さんが驚いていた。この様子では、爆発後に意識があったのは僕だけなんだろう。僕は、覚えてる限りのことを話した。


 「うん···。そして、鬼が来たんだけど、急に景色が変になって···空から剣が落ちてきて―」


 やけに静かだった。いくら気になる話だからと言っても、これは不自然だ。まるでそこに僕しか居ないよう。呼吸や気配すら感じない程だ。僕は話を中断した。···みんなちゃんと、こちらを見ている。でも、妙だ。見すぎだ。誰の瞳も、全く動かず僕を見ている。


 「あの···そこまで注目する必要って···ある?」


 真面目な話だったが、僕は苦笑いを含めて言った。空気が堅すぎるからだ。








 「え···?」









 ···おかしい。











 「あの···みんな?」




 ···みんな―否、空間が停止していた。



 「っ!?」


 突如、霧が現れた。白い霧。同じだ、あの時と···。



 呑まれる―――――――――――――――。






 「―き君」


 「―っは···!?」


 意識が戻った。ここは·······食堂か。みんなも···無事だ。さっきのは一体―


 「君は、巨大な鬼が現れた時のことを覚えているかい」


 相澤君が、僕に訊いた。


 「··········は?」


 相澤君の質問に、思わず「は?」と口に出してしまった。その質問はさっきしたじゃないか、と。しかし、みんなは眉をひそめている。今、アウェイな言動を取ったのは、相澤君でもみんなでもない。···僕だったのだ。


 「小鬼を倒した後のことだ。覚えて···いないか?」


 そんなこと分かっている。


 「もしかして記憶が飛んだ?」


 ちゃんと記憶はある、覚えている。


 「少し疲れてるんじゃない?」


 ついさっきまで寝てたんだ、それは―




 「·······うん。ちょっと疲れてるかも」


 僕は頭を抱え込んで答えた。肉体的ではない、精神的にだ。


 「分かった。話は明日しよう」


 僕は再び、部屋に戻った。





 ―ガチャッ。部屋のドアを閉め、布団に寝転がった。···あぁ、疲れたのかな。本当に。


 「一体何だって言うんだ···」


 質問に答えていたら空間が停止して白い霧。気づけば、みんなは恰もこれから聞くみたいに同じ質問をした。


 僕は、これまでの妙な出来事を思い出した。鬼に殺されそうになったところ、白い霧に包まれた世界になって、剣が降ってきて、意識が飛んで。みんなの質問に答えていたら白い霧に包まれて···。多分、この二つは関係している。剣が現れた時、空間は停止していた。それを口に出しても停止した。つまり、このことは世に知られてはいけないってことで、だから··········································。





 ―チュンチュン、チュン···。僕は、小鳥の囀ずりで目を覚ました。昨日、あのまま寝てしまっていたらしい。




 朝食を摂り、僕らは宿屋を後にした。そこで気づいたのだが、初期状態でも幾分か金銭は所持していた。


 僕は道中、みんなに昨日のことを訊いた。その話によると、みんなが目覚めた時、鬼は居なくて、僕だけが倒れていたらしい。ギルドへ向かうと、救護班の人が処置をしてくれたけど、それでも僕は目覚めなかったんだと。それで、クエスト成功の報酬もあって、宿がとれたらしい。


 「―んで、昨日のイレギュラーな事態を詳しく説明しに、ギルドへ行こうって流れ」


 「ありがとう。大体把握できたよ」


 把握はできた。···でも、これからそれをどう説明すれば良いだろう。このままでは、"鬼が自爆、もしくは爆発して消失した"ということになろう。昨晩のことから、恐らく剣のことは話せない。爆発後、鬼は居た。しかし、僕の意識が飛んだ後、みんなは無事で、鬼は居なかった。···ならば、僕が無意識に鬼を倒したと考えるのが妥当だ。でもそれをみんなに理解してもらえない。


 「昨日消えた鬼だが、奴の足跡が塑通無君のすぐ前で途絶えていた」


 冴霧君が、一つの仮説を立てた。


 「足跡の間隔を測るに、奴は塑通無君に向かって"走っていた"ものだと思う。―あくまで僕個人の予想に過ぎないが······塑通無君、君が鬼を倒したんじゃないか?」


 全員が、歩みを止めた。冴霧君は、真っ直ぐに僕を見ている。冴霧君は、僕の説明も無しに僕と同じ答えを探り当てた。冴霧君の仮説はもっともだが、証拠がない。僕が、それを説明できれば···!!もう一度、言ってみるか···?昨日と同じなら、特に被害は出ない。···言おう。


 「あの爆発の後、鬼が僕を狙った。その時、空間に異変が―」


 



 ―そこまで言ったところで、再び白い霧が出現した。空間が固まった。自分も、動けない。広がる色のない世界。そして、視界がモヤに包まれていった。


 「ん、んがっ······!!!!!!!」


 息が·····切れ··························································。





 「―あくまで僕個人の予想に過ぎないが······塑通無君、君が鬼を倒したんじゃないか?」


 ―消え行くモヤの奥には、真っ直ぐに僕を見ている冴霧君と、それに注目するみんな。やっぱり、戻ってきた。これではっきりした。"あの"出来事にまつわることは他言できない。それでも、それが原因で必ず物事に隔たりが生じる。その存在が認識されるのも時間の問題だ。だから、今は―


 「爆発の後、僕には意識があった」


 みんながざわつく。そもそも僕に意識があったのは、僕がすごいのではなく、夏希がすごいんだ。唯一僕を守れた、夏希が···。


 「鬼は僕を見つけて、走ってきた。目の前まで来たところで、僕の記憶は途切れているんだ」


 今はそれが真実でないと理解しても、話すしかない。冴霧君は、顎に手を当て、視線を下に落とした。


 「そうか···。君が情報を得る面で優秀なのはよく知ってる。でも、攻撃に優れた面を僕らは知らない。あの時何かがあったのは違いなさそうだね」


 「ごめん···」


 はっきり覚えていないこと、それから、事実を伝えられないことを謝る。


 「なんでお前が謝るんだよ。むしろ俺らがありがとうだろうが」


 型蔵君が言った。みんなには、僕の思いの前者しか伝わらない。でも、そうするしかない。何だよ···このゲームシステムは···。それともこの"世界"と言うべきか?どちらにせよ、とんでもないイベントを用意してくれる。僕らは、歩みを進めた。


 「(はる)、そんな顔しないっ!笑って笑って~!」


 僕は、気づかない内にかつてない暗い表情を見せていたらしい。夏希が、人差し指を頬に当て、笑顔を僕に見せる。


 「夏希···」


 「スマイルイズベリーストロングっ!!ほ~らっ!」


 夏希は、いつも僕を励ましてくれる。助けられてばかりだな···本当に。もう何度同じセリフを言ったか。僕は、両手で自分の頬をバチんと二度叩き、無理やり笑顔を作った。


 「ありがとう、夏希!」


 夏希は微笑んだ。





 ―ギルド。


 「お待ちしていました。こちらへどうぞ」


 僕らは、黒スーツを着た、肩幅の広くがたいの良い男の人に別室へ案内をされた。そこには、ギルドマスターと幹部が居るらしい。



 そこは、カウンターとはまるで別の建物内の様に綺麗な部屋だった。巨大なシャンデリアが並び、所々に純金製の飾りが見られる。中学の体育館並みに広い部屋だ。中央に、テーブルがあった。そこには、ご立派に鬚を整えた人たちが座っていた。中央奥の一人は、目を瞑っている。その人がギルドマスターだろう。


 「諸君らが、先日指定外の鬼に対偶した者らか」


 幹部の一人が言った。かかるプレッシャーというか、重みというか、とてつもない。―ここで、学級委員相澤君が、僕らの一歩前へ出た。


 「はい。アドベータの全員です」


 「ふむ。それでは全容を」


 相澤君は、判明している範囲で全てを説明した。その中に、"僕が鬼を倒したかも知れない"ことや、"鬼の行方"についたことは一切無かった。僕は、改めて我らが学級委員を尊敬した。ここで、この威圧感の中で、僕らが可能性の問題を提起すれば、向こう方の許可なく個の意見を発言したことになる。




 「―つまり、何かも解らぬ相手に奇襲を受け、果ての行方も不明と?それではこちらも対処のしようがない」


 そう、僕らは知らない鬼に·················いや、待てよ?僕は···あいつの名前、知ってる?·······あっ。


 「名前を知っています!」


 僕は、挙手をして叫んだ。


 「奥の挙手した者よ。それはまことか」


 恐い···!!!


 「···はい、僕のジョブは鑑定士(アプレイサー)です。そこで名前を知りました」


 初めて、ギルドマスターがちらとこちらを見た。その視線は、物理的に肉体を貫く程の鋭さを見せた。


 「鑑定士(アプレイサー)···だと」

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