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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第5章 Negotiations with half elves
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37.快進撃

 デルハツ南門付近にて乱戦が繰り広げられる。老半鬼人ファザとクレバをはじめとする冒険者らの戦いである。


 クレバとファスタが剣を振るい、ファザは容易に対応する。剣擊の間隙から、リボンズが操る獣の見た目をした精霊の光線がファザを狙う。たまらず跳躍で回避したファザの足元には魔方陣――(トラップ)があった。一面が爆ぜる。


「便利な世の中になったよなぁ‥‥‥。設置型の魔法トラップとか、初見じゃ防げんよなぁ。便利で物騒な世の中だ」


 ゴウネスは爆発を眺めて呟く。――爆煙は一筋、どこかに流れている。ゴウネスがそれに気づく頃には、背後に、煙を帯びたファザが刀を構えていた。


 ファザの刀がゴウネスに触れる刹那に、ゴウネスとファザの紙一重に、魔方陣が輝いた。ファザは目を見開き、ゴウネスは間抜けそうな表情で、互いを見る。爆発で、ファザが後方に押し出された。


「やっぱりただ者じゃないよな。これでもピンピンしてるんだから。ああ、その若さが欲しい」


「‥‥‥これは素晴らしい。今回、何度かあなた方人間と手合わせをしてきたが、この国は一際に強い。‥‥‥良かった。もう対等である努力の必要がなくなった。時期に同胞が集まる。だからその前に鬼として、人間と競わせていただこう」


 ファザはそう言って笑んだ。その言葉の意図を理解した者はその場には居なかっただろう。


 剣を嗜んできたファザは一対一の戦況で本能を隠し、礼儀を心がけたが、多勢に無勢の現在、もはや剣士として戦う必要はもうない。本能のままに、鬼として人間と戦うことを決意した瞬間だったのだ。


「何言ってるか意味不明だけど、そっちの思い通りにはさせないよ!!」


 ティアラは精霊をファザに向かわせる。


「待て、ティアラ‥‥‥!」


 クレバが止めるが、ティアラは聞いていない。クレバらがファザの言葉から汲み取ったのは、ただなんとなく、危険であること。ティアラにはそこまで理解が及んでいなかった。


 ファザは口を三日月に歪めると、精霊が光線を発するより速く、刀を握っていない左手で精霊をかき裂いてしまった。あまりに速い。ティアラがその事実に気づく以前に、ファザはティアラを刻もうとしていた。


 即座にファスタが剣を振り、ティアラの目の前で盛り上がった土を硬化させる。しかしそれも容易く砕かれ、ファスタは己が身を差し出す。


(さすがに未来を担う若い子は死なせられないし‥‥‥仕方がないか)


 刹那に思案したファスタは目を瞑った。直後、衝撃が走る。体勢が崩れ、ファスタは倒れた。


 刀で肉を刻む音が響く。肉が、削ぎ落とされた。ファスタは痛みを感じないことを不審に思った。目を開けると‥‥‥


「ご、ゴウネス!?」


 右腕を失ったゴウネスがそこに居た。ティアラはすぐに離れる。


「リーダーさ、ここぞとばかりカッコつけるの()そうな。頼りある年配が居ないと、未来を担う若い子たちを育てられないだろう?」


 そう言って倒れるゴウネスを、再び刻もうとするファザに、一本の矢が刺さった。


「うぅっ‥‥‥?」


 エスニックの放った矢であった。ファザは矢を引き抜き、捨てる。青黒い血が散った。ファスタはゴウネスに駆け寄る。


「おい、しっかりしろ!ゴウネス!」


 ファザがゴウネスとファスタに斬りかかるが、クレバが刀を合わせて止める。


「感傷に浸ってる場合じゃない!リボンズ、精霊とかなんとかでゴウネスさんをギルドに連れていけ!」


「「り、了解!」」


 リボンズのメンバーは精霊を使い、ゴウネスを運んだ。クレバはなんとかファザの刀を弾く。


「こりゃまずい。思った以上に手練れだ。すぐに仕留めるぞファスタさん!」


「あ、ああ‥‥‥!」


 ファザは刀を握りしめて思う。


(似ている‥‥‥。かつて私を死の淵へ追いやった、あの人間に)


「ようやく全力でやってくれるんだよな。もう出し惜しみはなしで()ろうや」


 この状況でもクレバは笑っている。


「もとよりその意向。本能に基づき、鬼の使命を全うする」


 クレバとファザは互いに刀を構えた。その緊張した空気に、ファスタは冷や汗を垂らす。そして――――――――






「――――クレバ!!ヤバい!助けてぇぇぇ!!!!」


 それは、デルハツに迫る鬼を食い止めているはずのマリレーナの、助けを求める叫び声だった。クレバがそちらを向くと、そこには。


「オラオラぁ!人間絶滅記念日だー!!」


「ようやく暴れられるぞー!」


「殺して殺して殺しまくりてぇぇ!」


 すっかり破壊された防壁と、デルハツへ攻め入る幾体もの半鬼人の姿があった。マリレーナは崩れかかった防壁の上で三、四体の半鬼人に囲まれていた。


「ちっ‥‥‥。もう着いたか」


 ファザは不機嫌そうにそっぽを向く。クレバは苦笑した。


「おいおい、嘘だろ。同胞って‥‥‥ただの鬼じゃなくて半鬼人かよ‥‥‥」





 ラプラスが――聖剣が破られた!?あれだけ圧倒的な力があったのに、もうそれを超える敵が出てくるなんて‥‥‥!


 半鬼人はまた、無表情になった。何を考えているのか、思っているのか分からない。いずれにせよ、僕では太刀打ちできない。


 アキと別れて数分も経っていないんだぞ‥‥‥。今僕が負ければ、アキに任せた"後のこと"まで繋げないじゃないか。――駄目だ駄目だ‥‥‥!弱気になるな!言い訳ならこれまで、耳にタコができるほど言ってきたはずだ。僕がどうとか関係ない。何としてでも時間を稼げ。僕の役目を果たすんだ。


 考えろ。聖剣は使ったところで破られる。それに体力も消費するはずだ。他に武器はない。攻撃手段はないのだ。鑑定スキルのいずれかで時間を稼ぐことに集中しよう。だとすれば何が使える?自分のステータスを見る。


[塑通無春:鑑定士Lv.58 atk.0 dfs.0 spd.0 mp.0 Uスキル:森羅万象 Nスキル:高度鑑定、経験増幅、範囲強化、索敵鑑定、過憶耐性、詮索鑑定、先制鑑定、積極鑑定、全知全能]


 またいくつかスキルが増えているようだった。どれをどう組み合わせればいいんだ?‥‥‥まずい、焦って頭が回らない!


「ガガガ‥‥‥」


 半鬼人が動き出す。急げ急げ急げ!!どうすればいいんだ!?分からない!!誰か――!




 《――ユニークスキル"森羅万象"とノーマルスキル"積極鑑定"の併用を推奨します!》




 ――ガイドさん!?


 《はい!いつでもどこでもお助けのガイドです!》


 それは、真っ暗闇に差した一筋の光のような声だった。‥‥‥僕はまだ一人じゃなかったんだ。ガイドさんが居ることを、忘れていた。ありがとう、ありがとう!


 《あのっ!良い感じのところ悪いんですけど、毎回私のこと忘れないでくれます!?》


 ‥‥‥ご、ごめんなさい。それで、僕はどうすれば?


 《はい。まずは"森羅万象"で相手を混乱させましょう!》


 うん、分かった。


 僕は半鬼人が動き出す前に、唱えた。


「スキル発動、森羅万象!」


 近くの木々からの景色を半鬼人に共有させる。――案の定、半鬼人は辺りを確認し出した。僕にも共有される視界だが、慣れているので動じない。


 《それではご説明します!ノーマルスキル"積極鑑定"は、その名の通り攻撃的な鑑定を行うスキルです》


 攻撃的な鑑定?


 《はい!普通、鑑定とは対象の情報を得るものですが、"積極鑑定"はその逆。自身が設定した情報を対象に植え付けるのです!》


 なるほど。確かにこれなら時間を稼ぐことはできそうだ(これを鑑定と呼べるか否かはさておこう‥‥‥)。


 半鬼人は混乱しているが、そろそろ僕に焦点を合わせてきた。元々の視界は完全には消せない。半鬼人も慣れてきたのだ。


 《私もサポートします!いきましょう!》


「うん!」


 半鬼人はふらつきながらも、僕に向かって動き出した。速くはない。僕は半鬼人に植え付ける情報をイメージする。そして――


「スキル発動、積極鑑定!」


 僕の目前で、半鬼人は拳を振った。当然、当たっていない。僕が半鬼人に植え付けた情報は、僕の位置。"森羅万象"では消しきれない正常な情報をすり替えたのだ。


 《さすがです、塑通無さん!》


 この調子で時間を稼ごう!





 アキとピテアはハーフエルフの国の中央にそびえ立つ城を目指していた。


「この先を右よ!‥‥‥多分!!」


「ちゃんと案内しなさいよ!」


「人間の分際で私に命令するな!!」




 ――アキとピテアが、春と別れてすぐのこと。


「さぁ、私の剣があるところへ案内して」


 平然としたアキの言葉にピテアは頬を膨らます。


「どうして私が人間に指図されなきゃいけないのよ!」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?鬼が攻めてきてるのよ!それもただの鬼じゃない、半鬼人が!」


「だからって私が人間の下につく理由にはならないわ!」


「あなたが大切にしている仲間が、皆殺しにされるかもしれないのよ?」


 アキが問うと、ピテアの強気な表情が揺らいだ。彼女の脳裏には、かつて自分を助けた男の姿があった。あの日、自分は何を決意したのか、と己に問う。


「必ず私が鬼を倒す。だからあなたは、あなたの大切なものを守りなさい」


 アキはピテアを見つめてそう言った。これは口車などではない。真にそう思っているのだ。そしてまたピテアはその言葉に、少なからず心を動かされた。


「うぅ‥‥‥!!私はあなたに指図されて動くんじゃないからね!!ついてきなさい!」


 こうしてピテアは、アキに城までの道のりを案内することにした――。




 そして現在に。


「そうそう思い出したわ!こっちよ!」


 ピテアは左の手のひらに右の握り拳をポンと乗せると、強気な表情で言った。


「やっぱり忘れてたのね‥‥‥」


「う、うるさい!」


「――随分人間と打ち解けたのね、姉さん」


 一体のハーフエルフが、アキとピテアの行く手を阻んだ。アキは見覚えがあった。そしてピテアからは、先ほどまでの強気な表情が消えていた。そのハーフエルフとは、アキを捕らえたハーフエルフであり――


「リテア‥‥‥」


 ピテアの双子の妹であった。

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