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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第5章 Negotiations with half elves
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35.剣鬼

 復興作業を行っていた冒険者たちが続々と集まる。その中で、マリレーナが前に立つ。


「随分と唐突じゃない。分かっていたんでしょう、クレバ?」


 その言葉にクレバは笑む。


「予め言ったって、混乱が早まるだけだろう。それに、おかげでスムーズに準備ができた」


 聞きながら、マリレーナはクレバを通り過ぎ、高く跳ぶ。そうして、防壁の上に立った。杖は浮遊している。それが輝き、マリレーナの両サイドに金色の魔方陣が出現する。


「まぁいいわ。私がある程度は消してあげる。どれくらい残してほしい?」


「一応国の中でも対策はしてあるが、外で済むならそれがベスト。賢者マリレーナ様に、全て譲るさ」


 クレバはただ、マリレーナを眺めるに留まった。マリレーナの魔方陣が高速で回転する。


 ――マリレーナ·シアラ。デルハツにおける、賢者と呼ばれる存在。高い魔力とセンスを持ち、高貴と美しさをモットーとする魔法士。その圧倒的な光属魔法で、デルハツの二番手にまで上り詰める。実績こそコシャクハンズに劣るが、実力ならばトップといっても他者に異論はない。


「全ては高貴に、美しく。光属魔法(ライトマジック)金色桜吹雪(ジュエリーストーム)!」


 魔方陣から光輝く花びらの如き粒子が現れ、渦を描きながら鬼の方へ向かう。無垢にデルハツへ駆け続ける鬼の軍勢は、マリレーナの魔法を前に散っていく。圧倒的火力である。激しい砂埃が一帯を覆い隠す。


 景色は金色の花びらで満たされている。


「これを耐えても、空間に残った花びらに触れるだけで肉は切れるわ。ここまでたどり着くのは不可能ね」


 マリレーナは呟く。鬼の断末魔は、防壁を挟んで他の冒険者らにも十分に聞こえていた。


「いやぁ、今時の若いもんってのは優秀だなぁ。おっさんの出番なくなっちゃうよ」


「油断しないでください、ファスタさん。俺達は狙撃地点を探して待機するぞ」


 ファラウェイのメンバーは移動を始めた。


 マリレーナは鬼の様子を眺める。すると、だんだん火花があちこちで散っているのを視認する。


「あれは‥‥私の魔法を金属か何かで受けているのかしら」


 ――次の瞬間、マリレーナの目の前に刀を持った鬼が現れた。老半鬼人である。マリレーナは、目を見開くだけで反応しきれない。


 マリレーナの耳を劈くような激しい金属音が響く。半鬼人の一太刀を受けたのは、クレバ。しかし、クレバは咄嗟の動きで半鬼人のそれを受けきれない。


「くっ‥‥」


 半鬼人は刀を振り切り、クレバは住宅街へ飛ばされた。すかさず、半鬼人はクレバを追う。マリレーナは半鬼人の方へ魔法を放とうとするが。


「門を守れ!」


 クレバが言った。マリレーナは僅かに戸惑ったが、すぐに他の鬼へと目を向けた。


 クレバは家に突っ込んでおり、瓦礫の中から出てきた。正面には刀を持った老半鬼人。クレバは尋ねる。


「おいおい‥‥。鬼に刀なんて聞いたことねえぞ。どこで手に入れた?」


 老半鬼人は笑んだ。


「一人の人間から頂戴しましたよ。とても珍しいものだとお見受けしましてね」


「そうかい」


 クレバは老半鬼人の背後に回り込んでいた。そして刀を振るう。しかし、それは老半鬼人の刀によって受け止められた。刀を背中に回したのだ。


「私の同胞が殺されていました。背中には、ちょうどあなたの刀で斬ったような深い傷。もしや、相当な手練れではありませんか?」


 クレバは、一旦距離を置く。


「そうかそうか、知り合いだったんだな。そしたらお前も、他の鬼とは比にならない手練れだろ。俺が斬ったやつは欲望丸出しだったが、あんたは隙がねえ」


 クレバと老半鬼人は互いに剣尖を相手の首元に向ける。そこにだけ、沈静な空気が流れる。


「貴殿にお会いするのが楽しみでした。私はファザと申しまして。一つ、お手合わせ願います」


 老半鬼人――ファザはそう言って微笑んだ。クレバも笑みで返す。


「断ってもここは潰すんだろ?」


 直後、二回の金属音が響く。クレバには耳鳴りのように音が残る。刹那の間に、クレバとファザの刀が二度交わっていた。


「まぁ、我々半鬼人も成長しなくてはいけませんから」


 ファザは呟くように言った。クレバは顎に手を添えて考える。


「人間と鬼で仲良くやろうってことはできないのか?」


 クレバの言葉にファザは笑う。


「幾度と殺し合いを続けてきて、それじゃあ仲直りしようというのは無理があるでしょう。ここは、この世界は、誰かが頂上に行くまで競争し続ける運命にある」


「そうか?いつかは仲直りするもんだと思うぞ。それに俺は――」


 クレバは言いかける。目の前にファザの刀身が残像を見せながら迫り来る。クレバを刀身が刻む。その瞬間、ファザは首を傾げた。


 肉を斬ったにしては、感触が軽い――否、全くない。ファザが推測する前に、クレバの影は消え、自分がクレバにかすり傷一つつけられていないことに気づく。その無傷のクレバは、ファザの背後で刀を構えていた。


「空斬り」


 クレバが斬る直前にファザは背後を視界の端に捉えていた。クレバの刀身が届かない程度に、小さく跳躍して距離を取る。クレバが刀を振る。当然、剣先は届いていない。しかし――。


「‥‥ほう」


 ファザの左肩に斬れ込みが入っていた。ファザは興味深そうに刻まれた自分の肩を見つめる。


「なるほど、(アート)を使ったのですか」


 クレバは察する。ファザは(アート)の存在――というよりは、概念を知っていた。そしてクレバは先の一撃で急所を狙えなかった。ファザは(アート)に警戒するだろう。手の内をポンポンと出せば詰むのは時間の問題である。


 クレバは駆けて距離を詰める。刀を振ろうとすると、ファザの姿が消えた。クレバは瞬時に移動したのだと判断するが、どの方向へ消えたのか見損なった。


「私からも見せ物をば」


 声を聞き、クレバは背後に振り返る。ファザの刀が迫っていたが、クレバはそれに己の刀をしっかり対応させていた。刀が交わってすぐに、ファザの刀を握る腕が少し膨張する。クレバは目を丸くした。


「私は"鬼"だから――」


 ファザはクレバを押しきり、刀を振り抜いた。クレバが宙に浮いて間もなく、ファザの刀身の軌跡の延長である地面が割れる。建築物が崩れる。暴風が吹く。


 ファザの剣撃は地中数メートルを抉り、周囲にあった全てを崩し、飛ばしてしまった。無論、直に受けたクレバは数十メートル先まで飛ばされた。


 クレバは空中で、身体を捻る。地に激しく衝突する前に、刀を握りしめ。


「――空斬り‥‥!」


 地面に向かって(アート)を放った。それで勢いが相殺され、クレバは地に落ちた。クレバは安堵混じりに、呼吸を整えるようにため息をついた――。


 ――上空から風が打ちつける。波紋のように砂埃が広がる。中央には、クレバがファザの刀を止めていた。


「受け止めましたか‥‥。ですが」


 だが、クレバは腰近くまで地中に埋もれている。ファザが刀を再び振り上げる。


「それでは避けられない」


 ファザは刀を強く振った。その刹那、クレバの影が揺らぐ。ファザは目を細めた。ファザの一振りは、空振りに終わった。


「パワーもスピードも、技までステータスがチートだ。さすがに虚空隠れ(そらがくれ)使わなきゃ対抗できねえよ」


 ファザの数メートル先にクレバは居た。

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