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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第5章 Negotiations with half elves
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34.鬼の進軍

本日で投稿開始からちょうど1年です。これからもよろしくお願いします!

 ――リィーオル王国宮殿にて。国王とディアが青空を眺めて対話していた。ガーデンに、一つのテーブルを囲って二人は座っている。


「想定を、遥かに上回る速さだぞぉ。半鬼人がもう進軍し出した。それも、多方向に」


 ディアは風で波立つカップの紅茶のようなものを見つめながら言った。国王は険しい表情である。


「こんなところで研究を水の泡にされる訳にはいかない。チッ‥‥まさかデルハツを潰す前に動き出すとは。一体半鬼人に何があったというのか」


 国王は髪を掻き立て、それから立ち上がった。


「レブサーとウルーベに国を死守させる。まともに動ける合成人間はそいつらだけだ」


「それじゃあ、俺も行くしかないぞぉ‥‥」


 ディアはため息混じりに呟いた。





 ――えっと、どうしよう‥‥。僕らは武器を没収され、それぞれ別の独房に入れられた。イメージを具現した様で、錆び付いた壁や天井、鉄格子で廊下との区別がなされている。特別苦悩を与えられる訳でもなく、それは良いのだが。


「そう、私があの憎ーい人間を捕まえたのよ!そこの少年、悔やむことはないわ!私に成敗されるのだもの、この上ない光栄よ!」


 ハーフエルフの一体である少女が、ずっと僕の独房の前で語り続けている。アキを捕らえた方の少女はどこかへ行ったようだ。それにしても、語る勢いが強すぎて何も言えない‥‥。


「そもそも、私の努力は今から三年前のことで――」


 しばらく状況は変わりそうにないようだ‥‥。





 ――デルハツ南門。そこでは相変わらず、復興作業が進んでいた。そこにクレバも居る。


「マリ姉にファスタさん、そしてファラウェイの堅物ども‥‥。まぁ、ここは大丈夫そうだな。気がかりは交渉組だが、鑑定士君とアキが捕まってでもない限りは問題ねえ」


 そう呟きながらクレバは修復されつつある街を歩いていた。クレバは復興作業に携わっている訳ではない。別の要因でそこに居る。


「ここが一つの正念場だ」





「どうした、鬼野郎!てめぇの器はその程度か!?」


 半鬼人の数多の殴打を、それぞれ小さなシールドを当てて受け止めるタジーラは叫ぶように問う。というのも、クレバは先ほどから一歩として移動していないのだ。四方八方を半鬼人が攻めるが、それを全て読むタジーラ。


「何なんだ!!なんで当たらない!!?」


 次第に半鬼人の攻撃は雑に、乱暴になっていく。一見攻撃が鋭くなっているように見える。しかしタジーラは。


「動きが単調だな。所詮鬼は鬼、結局脳筋であることに変わりはねぇってことかぁ!?」


 半鬼人を挑発し続けた。半鬼人は怒りに任せて拳を振るう。タジーラは依然として無傷。その様子を、リンはただぼーっと眺めていた。


「‥‥強い。攻撃じゃない、対応力。あれだけ恐れられてた半鬼人が、私が手も足も出なかったあの鬼が‥‥、一人の人間に圧倒されている」


 リンは呟き、攻撃に必死だった自分を思い出す。魔力が豊富なのは自分も同じ。しかしその活用の仕方に、これだけの実力差がある、と痛感する。


「ちょっとタジさん!早く倒しちゃってくださいよ!!致命傷受けちゃったらどうするんすか!?」


 背後で見守る冒険者の内、レドソンが叫ぶ。するとタジーラは空いている左手で顎を抱え、言った。


「ああ、そろそろ頃合いだな」


 すると突然タジーラがシールドの展開を止めた。半鬼人はここぞとばかりに渾身の一撃を与えようと、膨張させた右の拳でタジーラの顔面を狙う。


 ――何かが起こった。半鬼人はタジーラを殴ったはずだった。しかし感触がない。半鬼人は目を見開き、振り返ってタジーラを見る。無傷で立っているタジーラ。どういうことか考えるより前に、半鬼人を謎の激痛が襲った。


「ああがぁぁあああっ‥‥!?」


 半鬼人は跪きながらも、激痛の根源である右腕を見た。半鬼人は、自分の右肩から下が存在していないことに気づく。半鬼人はタジーラに向かって言う。


「き‥‥貴様!!」


 半鬼人の右腕は、タジーラの(アート)物理鳥籠(リアルケージ)によって消滅させられていた。


 半鬼人はゆっくりと立ち上がる。うつむいて表情が分からない。半鬼人は呟いた。


「‥‥これ、自分以外に頼ることになるから嫌だったんだけど‥‥。ああ、クソッ」


 半鬼人がタジーラを見る。タジーラは目を見開く。半鬼人の表情は、虚無感に満ちていた。ただ鋭い眼差しで、タジーラを睨む。


「お前ら、半鬼人が鬼に知能足しただけだと思ってるだろう?俺は嫌いだけど、曰く半鬼人の真価を見せてあげるよ」


 半鬼人がそう言うと、何やら森が騒ぎ出した。ざわざわと、不気味な音が聞こえてくる。そして、それは徐々に大きくなっていく。何かが近づいているのだ。


 冒険者らは辺りを見渡し、警戒する。


「グガァァァァァッ!!」


 森の影から現れたのは、凶変した小鬼であった。一体ではない。無数に現れ続ける。


 あっという間に小鬼らは冒険者らを取り囲んだ。しかし音は止まない。


「あれはッ!」


 ラウの声で冒険者らの視線がそちらに集まる。そこに居たのは狂鬼であった。まだ鬼は増えていく。


 様々な種類の鬼が、森を覆った。半鬼人が心のない声で笑う。


「これが俺たち半鬼人の力だ。仕方ない、今回はこれでお前らを終わらせることにするよ」


 冒険者たちが絶望を感じ、脅える。そんな中。


「集合は終わったか、雑魚ども!」


 タジーラが叫ぶ。全員タジーラに視線を集めた。タジーラは笑んでいる。


「こりゃあ腹の虫を治めるのにはちょうどいい。悪いがサンドバッグになってもらうぞ!!」


 タジーラは股を開き、腰を落として構えた。力強く、拳が握られている。


数多鳥籠(メニーケージ)っ!!」


 タジーラが唱えた瞬間、森中をタジーラのエネルギーが稲妻のように駆け巡った。そして間もなく、鬼らをタジーラの鳥籠が覆い、次々と握り潰すように消滅させていく。


「何なんだ‥‥、お前は、一体何者なんだ!?」


 半鬼人が脅えた目でタジーラを見る。タジーラは攻撃の最中に言う。


「さっきの自己紹介が聞こえてなかったのか?」


 ついに、半鬼人がタジーラの鳥籠に覆われた。半鬼人は最期に、憎悪の声で叫ぶ。


「ニンゲンンンンンンンンンンンンン――――!!!!!!」





――――尖った耳を持つ、幼い少女が言った。


「ニンゲン‥‥?」


「ああ、そうさ」


少女にうなずくのは、すっかり背を丸めた老人。少女と同じく、ハーフエルフである。


「やつらはエルフの一族を絶滅させた、憎き、我々の敵なのだよ」


以来、少女は何度もそう言い聞かされた。


「憎き人間、憎き人間、憎き人間、憎き人間‥‥‥‥」





「――憎き‥‥ニン‥ゲン‥‥。――むにゃ‥‥」


鉄格子に丸くした背を寄せて座った形で眠るエルフの少女。格子の間は腕が通る程だったので、僕は近くにあったブランケットを格子の間に通して少女にかけた。


感覚では昼過ぎか夕方くらいだが、やはり点々と空間にある魔力の光に灯されるだけなので、外を覗いても時間は分からない。結局少女は自分の生い立ちを語り続け、その内に眠ってしまったのだ。


格子の向こうを見るに、この辺りは少女一人が見張っているようだ。そうは言っても、僕らが連れて来られた時には他に捕らえられている者は窺えなかったので、今も居るのは僕らだけだろう。


さっきは下手に動いて争いに持ち込む訳にはいかなかったので、鑑定を避けていたが、今なら問題ないだろう。僕は少女を鑑定してみる。


[ピテア·セイレーン:魔力塊Lv.26 atk.27 dfs.24 spd.30 mp.82 Uスキル:隠密行動 Nスキル:意思疎通、魔力具現]


少女の名はピテアというらしい。追加情報によれば十三歳だ。ユニークスキルは隠密行動。僕らを捕らえた時はこれを使ったのだろう。アキを捕らえた方の少女にも気づけなかったので、そちらもこのスキルを使える可能性が高い。双子か何かで同じユニークスキルを持っていたのだろうか。


ひとまず情報は少し得られた。ハーフエルフはやはり魔力がレベルに見合わず高い。しかしそれ以外の身体的能力は人間に劣るようだ。リンさんなら屈することはないだろう。しかし、半鬼人三体との戦闘は依然、いやむしろ守る対象もあるため、難を極めるはずだ。


ハーフエルフの"壁"は半鬼人によって破られた。予備隊と合流することは可能だ。それにかけるしかない。そして僕らは、交渉を確実に成功させる。


ピテアが話したことを振り返ろう。話は三年前から。つまりピテアは十歳だ。確か、国を抜け出して森にさ迷った時に、何者かに助けてもらったと言っていたな。





「――こ、ここはどこなのよー!?私はただ外で遊びたかっただけなのにー!」


ピテアはリクエ森林地帯で叫んだ。たった一人でそこに居る。これまでハーフエルフの壁の外に出たことがなく、今回、隠密行動を使って興味本位で抜け出してきたのである。


冷たい風がピテアの肌を撫でる。ピテアは腕を組んで寒さを誤魔化した。


「国の魔力も意思も感じない‥‥。ううん、泣いてない、泣いてない。怖いとか、全然思ってない‥‥!思って‥‥」


自ずとピテアの瞳は潤み出す。しかし間違いなく、感情に起因するものであった。


少し、草むらがざわめく。ピテアはそちらを振り向いた。そこに現れたのは鬼であった。凍結した爪を持つ、氷鬼である。


「――ひっ!?こ、こっちに来るなーー!!」


ピテアは闇雲に魔力の塊を放った。鬼は動かずとも、魔力塊は明後日の方へ飛んでいく。氷鬼はピテアに歩み寄っていった。ピテアは恐怖で尻餅をついてしまい、動けない。身体を小刻みに震わせ、縮める。氷鬼は爪を立てた拳を振り上げる。


「――っ!!」


肉体が刻まれる生々しい音が響いた。続けて、血液が地面に飛来する音。


「おいおい、大丈夫かよ、嬢ちゃん」


ピテアの前に、青黒い血を垂らした刀を持つ男が立っていた。氷鬼は胸から腹に渡って深く抉られ、倒れている。


「‥‥え?」


ピテアは状況を理解しきれない。男は血を振り払い、刀を鞘に納めた。


「ここは鬼がうようよ居るからよ、さっさとお家に帰れな」


男は言うが、ピテアはうつむいて答えない。


「おい、ちゃんと聞いてん――」


「うぅ、うわぁぁぁん‥‥!!」


ピテアは大声で泣き叫んだ。





――それで、その男性にハーフエルフの国を探すのを手伝ってもらって、以降ピテアは仲間を守りたいという意志が強くなった、だったかな。聞くからに、その後の努力も相当だったと窺える。


リンさんたちと居た時に遭遇したハーフエルフも、同胞を守ろうと必死だった。過去の人間の過ちは許されないが、でも、分かり合えないことはない気がする‥‥。僕たち人間の、思いをちゃんと伝えなくちゃ。





――タジーラらは、今後の方針を話し合う。


「半鬼人単体は大したことねぇ。上級が一人、中級なら三人でなんとかなりそうだ」


タジーラは言った。それにラウが続ける。


「それなら、半鬼人はもう怖くないということですねッ!」


「いや、そうは言えねぇ。さっきの爺さん半鬼人はどうも頭が切れそうだ。動きも計画性を感じる。大勢の半鬼人が攻めてくりゃ、たちまちピンチだ」


全員が感嘆する。


「だが、そうすぐに半鬼人を集めるのは無理だろう。俺が見た中でも二体は自分の情緒に身を委ねていたからな。精々小鬼とかを集めるくらいだ。クレバ一人でどうにでもなる。予定通り、交渉を進めるぞ!」


「「了解」」


冒険者らは、ハーフエルフを見る。ハーフエルフはなんとか無事だった。


「人間め‥‥。なぜここまでして我らを庇う?」


「交渉は戦争じゃねぇ。話し合いだからな」





――デルハツ南門の上にある監視台で、クレバが外を眺める。日は傾きかけている。そして景色の奥から、数多の点が見え始める。


「やっぱ来たか。も少しスケジュール早めときゃ良かったなー」


点はやがてくっきりとその姿を見せる。多種の鬼の群れであった。その中枢には、老半鬼人。クレバは監視台から飛び降り、復興作業を行っていた冒険者たちに告げる。


「半鬼人が攻めて来たぞー、各々臨戦態勢に移れー!」


鬼の数は、視認できるだけでも千は超えていた。


「国王さんは見えてるだろうから、冒険者はすぐに集まるだろ。半鬼人も見た感じ一体だけだったし。‥‥ひとまず、第一難関だ」

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