3.覚醒
基本的に行き当たりばったりで書いてます。一応大まかなストーリーは頭にあるんですけどね。その時その時のキャラたちに筆を委ねてます‥‥
全知全能···?何だろう、このスキルは。よく分からないが、僕は戦闘系の能力はからっきしで、鑑定スキルを二つ持ってるだけだった。寒崎君の一言は、あの状況で唯一行動できたという点でのことだろう。寒崎君は、何も変わらないと言った。この集団じゃ、何も解決できないと。彼の身勝手の行動に、本来は怒りを覚えるだろうが、そんなことできない。彼には伴うものがある。
「相澤様。お一人がチームから脱退しましたので、こちらにお願いします」
「はい···」
···学級委員。さぞ悔しいだろう。みんなをまとめあげるリーダーが、その役割を全うできなかったのだから。それが、彼のせいでなかったとしても、責任感に押し潰される。彼は、相澤仁志はそういう人間だから。
―こうして、十九人で結成したチーム。チーム名は、『アドベータ』。ゲームではパーティーを意味するそれだが、その理由は単純で、遊び心がある。亜駑辺中学の"アドベ"と、B組の"ベータ"から由来している。
「あのさ、こんな空気であれだけどさ、折角ならもっと明るくいかね?」
ムードメーカーと言われる背戸岱地は、言った。背戸君は、ポジティブシンキングだ。
「そう···だよな。寒崎だって、きっとすぐ戻ってくるだろ!今はパーティー結成ってことで、盛り上げようぜ?」
続いて背戸君と仲が良い長谷顎徒がそれに乗る。おかげで、クラスは少し賑やかになった。ポジティブシンキングとは、まさにこのこと。このクラスの良いところだと僕は思う。僕は、結構弄られるけど、実際みんな良い人なんだ。
《冒険者申告が完了しました。早速クエストに出発しましょう》
ガイドさんの声が聞こえた。ガイドさん···少しキャラ変わったかな···。
「よっしゃー!お待ちかね!」
「初モンスター討伐!」
―空気は入れ替わり、事はクエストへ。カウンターにて、相澤君が受付をしてくれた。クエスト内容は、「小鬼100体討伐」。小鬼というのは、最低レベルの鬼のことらしく、レベル1でも倒せるんだと。
「それでは、こちらの馬車にお乗りください」
六人で一台の馬車に乗り、僕らはクエスト対象区画へ向かった。
―リクエ森林。
「さぁ、始めましょう!」
「どっからでもかかってこい!」
みんな自信に溢れていた。何せ、誰でも倒せるモンスターだから。だからこそ···
「大丈夫かな···」
僕は心配だった。攻撃も防御も素早さも魔力もない。情報を得ることだけが取り柄の僕に、このクエストで生き残ることができるのか。
「大丈夫だよ!!春って鑑定できるんでしょ?さっきだって、春が言ってくれなきゃ、型蔵君が危なかったんだよ?」
「夏希···」
少しだけ、自信が出た気がした。確かなものではないかも知れないが、夏希に、大きく背中を押された。
「鬼が見えたぞ!!!」
一人の声が響いた。鬼が現れた。みんな、各々の武器を構える。向かって左、体長は一メートル程で、小さな牙をずっしり並べ、赤い目を輝かせる鬼。間違いない、聞いてた通り小鬼だ!
[小鬼:Lv.1 atk.1 dfs.1 spd.3 mp.1]
「俺の矢食らいやがれ!!!」
弓士の一人が矢を放った。―命中。鬼は仰向けに倒れた。続けて、同方向から無数の小鬼が現れた。クラスメイトたち―否、冒険者たちは鬼を掃討した。剣を振るい、矢を放ち、駆け抜け、魔法を撃ち出し、怪我人は回復し、精霊を操り···。僕は、全体を見渡して合図を送っていた。
「右から二体!左、木の上から一体くるよ!」
「了解した!塑通無君!!」
みんな、僕の言葉を素直に聞いてくれた。そして―
「最後の一体だなっ···!!!」
型蔵君の大剣が、最後の小鬼を両断した。クエストクリアだ。低レベルだったとは言え、初のクエストに喜びを隠せないようだ。僕も、普段声を出さないからか、結構疲れた···。
「塑通無。お前、役に立つじゃねーか。···その、さっきは···すまん」
型蔵君が、木の幹に体重を預けくつろぐ僕に言った。僕は咄嗟に木の幹から離れ、「気をつけ」の姿勢を取った。
「え!?そ、そんな良いよ!!」
あまりに急のことだったので、混乱状態だった。気がつくと、僕の周りをクラスメイト全員が囲っていた。みんなは、僕にはもったいない程の笑顔で、僕を見つめた。そして―
パチパチパチパチパチパチ······!!!!!!!
盛大な拍手が僕を包んだ。この時初めて、僕はクラスに認められた。歓喜の拍手と、満面の笑みの数々。僕は、浮かれていた。嬉しかった。だから、気づかなかった―。
[恐鬼:Lv.20 atk.20 dfs.25 spd.15 mp.30]
イレギュラーな事態に。
――――ズパァァァァン···············!!!!!!!!!!!!!!
拍手が絶たれ、笑顔は驚愕へと変わった。クエストは終わったはずだ。何故···。
「グガガガガッ········」
木が、倒れていた。十メートルはあり、幹も人が何人も入る程太い木だ。その横には、三メートルはあろう巨体を持つ"鬼"が居た。その存在を認識することで精一杯だった、みんな。鬼は、攻撃を開始していた。既に足が膨らんでおり、筋が立っていた。軽く人間を握り潰せる様な手には尖った長い爪。足の膨らみが縮むと同時に、鬼は姿を消した―否、走り出した。
「なっ···!?」
初撃を受けたのは、運動神経が抜群の速見悠斗。忍者である彼は、突然のことに動揺しながらも、なんとその一撃を苦無でかわした。そのお陰で、みんなの遅れた意識が、戻ってきた。
「雑魚鬼だけじゃなかったのかよ!?」
瞬時に型蔵君が鬼の前に来る。僕は、鬼のステータスを確認した。
[恐鬼:Lv.20 atk.20 dfs.25 spd.15 mp.30]
明らかに低レベルとは呼べない。ゲーム内のイベントか何かか!?とにかく―
「型蔵君!そいつ桁外れに強い!魔力が多いから魔法も使うかも!!」
「オーケー···頭使うのは苦手だ。冴霧!てめぇに任せる!」
冴霧多久。彼は、毎回の定期考査に於いて学年トップを取り続けている逸材だ。とにかく頭の回転と記憶力が異常だ。その反面、運動は大の不得意。召喚士だ。
「さっきの一撃を見るに、近距離での戦闘は避けるが得策だろう。忍者と精霊で鬼を引きつけ、弓士と魔法士で体力を削ろう。魔法にも警戒しつつ、剣士の奇襲でトドメを刺すぞ。万が一の時は、回復士のシールドで守ってくれ」
さすが冴霧君だ。どんな状況でも頭脳は健在。
「よし、ジョブごとに別れて作戦を開始しよう!」
そして空かさず、相澤君がリーダーシップを取る。お陰で、鬼が次の攻撃を始める前に作戦を開始出来た。どうやらあの鬼は、一撃一撃の素早さはとてつもないが、隙が大きいのが特徴らしい。
「よっし!有佐、由紀!撹乱するよ!」
「「オッケー!」」
テンション高めで仲良し女子三人組の西本杏里、出水有佐、楽尾由紀。彼女らは、いつも一緒に過ごしている仲。全員ダンス部で、息もピッタリだ。西本さんは召喚士で、出水さんと楽尾さんは忍者だ。率先して作戦を全うする彼女らに続いて、他のクラスメイトも行動に移る。弓士、魔法士たちは、鬼から距離を取った。僕が鬼が攻撃する瞬間を伝え、弓士と魔法士が対応する。
―鬼は、僕らの作戦通り、ジワジワとダメージを受けていった。鬼の体力のゲージが、オレンジ色に変色。
「鬼の体力あと半分だよ!」
僕の叫びに「了解」と答え、攻撃を続けるみんな。僕は確信した。
"この学級なら、どんなことがあっても大丈夫だ"
と。···ここで、鬼のステータスが変わった。魔力が30から5へと。
「魔力が一気に減った!大きい魔法来るよ!距離取って!!」
僕の声に反応し、鬼から離れる忍者たち。鬼の身体が、発光した。暗がりな森林が、一気に明るくなった。僕の視界に、ある文字が表示された。
[大爆発:半径20メートルに及ぶ高威力の爆発。その間、恐鬼は肉体を硬化し、動かない]
まずい、このままじゃ―――
ドォォォォォォォォォォォォン················!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
―光と音に、森林は包まれた。微かに残した意識。視界には、倒れた夏希の姿があった。僕の意識は、夏希の展開したシールドに守られていた。無事に動く肉体で、辺りを見渡す。複数のクラスメイトの姿があったが、見える限り、全て倒れている。
「僕が···僕が不注意だったから····」
ボロボロと大粒の涙が頬を伝った。絶えず、絶えず流れた。涙がレンズの役割を果たし、視力以上の景色を見せた。そこには、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる鬼の姿。ステータスが表示された。体力は、四分の一程度。もう少し、もう少しだったのに···。
鬼の焦点が、僕に合った。刺さる様に鋭い眼差しで僕を睨む鬼。対して僕は、涙のレンズが合わずにモヤを見る。それでも分かる視線だった。鬼は、足に筋を見せ、勢い良くこちらに飛び込んできた。
ごめん、ごめんなさい、みんな·················。
―[スキル発動:全知全能]
鬼が、目の前まで来た。一瞬だった。しかし、急に遅く感じる様になった。思考が巡る。記憶の回廊。これは、走馬灯というものだろうか。加速する思考に便乗し、思う。調子に乗ってたな、と。もう、クラスメイトへの謝罪しかない。
白い光が、僕の視界を塞いだ。死の訪れだ。僕は、目を瞑った―。
煩い音が消えたので、僕は目を開いた。―そこは、白い霧がかかった世界。元居た森林なのだが、全てが灰色となっていた。正面には、停止した鬼が居た。こちらに爪を向けている。ここは、生と死の狭間···か?何にせよ、僕にはどうしようもないこと。再び、目を瞑ろう。そうして、終わらせよう―。
その瞬間、視界の端に、刃先を捉えた。それは、ゆっくり下へと進んでいた。刃が見え、柄が現れた。視界中央で、それは停止した。鮮やかな青白い光―否、オーラを放つ、剣だった。
[聖剣ラプラス]
それだけ、文字が表示された。僕は、無意識にそれを掴んだ。その瞬間、意識が飛んだ―。
―春の目は、橙色に輝いていた。輝く瞳は、鬼に向かった。剣柄を握り締め、春は剣を真上に振り上げた。
そして、ゆっくりと降ろした。
その軌道に光が生じ、それは鬼を両断して尚、大地を貫いた。
鬼は、灰と化し、消え入った。
同時に、春の手の中にあった剣は光の粒子となり、空気に溶けた。そのまま春の瞳の光は失われ、春はうつ伏せに倒れた。