33.多種族乱戦
前話の投稿日の7月20日、ついにブックマーク登録数が100件に到達しました!ひとえに読者の方々のおかげです。これからも楽しんでいただけたら幸いです!
ハーフエルフを追いかけて少し経つ。アキが僕の手を振り払う。
「いつまで握ってるのよ」
「ご、ごめん‥‥」
アキと手を繋いでいた事実をすっかり忘れていた。しかしハーフエルフを見失ってしまえば本末転倒だ。気を取り直そう。
ハーフエルフの進行速度は大したものではない。が、姿を消していて視認できないため、正確に間隔が掴めていない。それを鑑定でカバーしている状況だ。
「本当にハーフエルフを追いかけているの?どこにも見当たらないけど、見失ったりしてないわよね」
アキが尋ねる。――そうだ、アキにとってはただ走っているだけだ。僕は答える。
「うん、鑑定で位置はわかるよ。ちゃんと追いかけてる。できればハーフエルフたちに僕らの存在を示せれば話は早いんだけど‥‥」
それができれば、ハーフエルフと安全なところで対話を続けられる。人間に対して相当な憎悪を抱いていたから、それをどうにかする術を探さなきゃいけない。
アキがため息をついて言った。
「あなた、やることにしてもできることにしても両極端ね」
そして剣を抜き、左後方に構える。あれ、これはどういう‥‥?
「あの、アキさん?一体何をしようとしているんですか‥‥?」
僕は額に汗を流す。アキは無視して言った。
「剣の衝撃を、対象との間にある空気に少しのずれもなく干渉させ、響かせ、結果的に刀身を越えた距離に剣撃を届かせる技。剣技の極地」
ちょっ――
僕が口に出す前に、アキは剣を振った。その軌跡にあった衝撃波が飛んでいく。視認できるほど確かなものである。このままではハーフエルフが危ない。そう思って鑑定に意識を集中したが。ハーフエルフらの位置が分からなくなっていた。
ちょうどその時、アキの衝撃波が空中で突然消えた。何かにぶつかったような。ハーフエルフに当たったのか?いや、衝撃波は全面的に何か、壁にぶつかったように見えた。
「アキ、これは‥‥」
「どうやら到着したみたいね。ハーフエルフの国に」
――春とアキにハーフエルフを追わせた後、リンは半鬼人を相手に杖を構えていた。
「あーあ、いつの間にかほとんど逃げちゃったよ」
つまらなそうな顔で辺りを見渡す半鬼人、ウェス。そこに居るのは、三体の半鬼人と、ハーフエルフ、人間が一人ずつ。リンにとっては不利である。
「ではこうしよう。ウェス殿はここを、ムク殿はハーフエルフの巣窟を、私は人間の巣窟を襲撃する。大した仕事ではないだろう」
老半鬼人、ファザは言った。それにウェスは笑顔になる。
「なるほどそれいいね!俺はここで自由に暴れさせてもらうよ!」
話が決まるとすぐに、ファザとムクは消えるようにそこから離れた。残ったのはウェス。正三角形を描くように三人は互いを見る。数では対等だが、戦力差は目に見えている。
まず、ハーフエルフを攻撃してはいけない。そして、半鬼人の攻撃からハーフエルフを守る必要がある。リンの立場は、立ち回りが難しいものであった。
リンは考える。幸いなのは、この半鬼人がハーフエルフと同盟を組むような脳を持っていない様子であること。
「さーて、まずはこの二人を殺らなきゃね。どっちから殺ろうかなー」
半鬼人は楽しそうに言う。
「何がために我らは表に胸を張って生きることが出来なかったか。人間と鬼が支配したためだ!!今ここで雪辱を果たす!」
ハーフエルフが怒りを込めて言い放つ。いずれも、対抗心しかないようである。
「よし、決めた!人間から殺る!」
半鬼人はそう言うと、即座に攻撃態勢に入り、リンとの距離を詰め始めた。リンは身体を半鬼人に向ける。
「風属魔法、風強化。風属魔法、飛行!」
半鬼人が鋭い爪でリンを裂いたかと思えば、リンは直前に空中に回避していた。半鬼人は空のリンを見上げる。
「風属魔法、台風作成!」
リンが唱えると、半鬼人の真上に巨大な魔方陣と風の渦、台風が出現。徐々に地面に落ちていく。リンは、すぐに決着をつけるつもりでいた。素早い攻撃に半鬼人は回避できない。直撃し、台風は半鬼人を呑み込んだ。
しかし、台風は内側からかき消された。半鬼人は平気そうである。それどころか、楽しそう。
「いいねいいねー。どんどんいこうか!」
半鬼人が跳び上がり、リンに向かう。リンは半鬼人の爪を、再びかわす。逃がすまいと半鬼人は方向転換を試みるが、空中で機動力が鈍り、リンの魔方陣が目の前に。
「風属魔法、塵回斬!」
半鬼人の周囲を塵が覆い、高速回転し、半鬼人を傷つける。リンは手を止めない。確実に仕留めなければならない。
「風属魔法、風塊弾!」
風を固めた強力な弾が、半鬼人に炸裂し、そこで風爆発を起こした。激しい風に離れた木々までもどよめく。リンは魔法を解除し、地上に降り立った。
リンは、力を出しきっている。もし、これでも半鬼人が倒れないならば――。
「すごいパワーだ!人間にここまで高い技術があったなんて、感動したよ。てっきり知能だけかと」
分かってはいた。この程度では終わらないということ。しかし、想像を遥かに超えて半鬼人は無傷に等しかった。これから何か手を打とうにも、付け焼き刃ではどうにもできない。
半鬼人が強く着地し、地面にひびがめり込む。リンは脱力しており、動けない。ただ半鬼人を睨むだけである。半鬼人が笑う。
「そんなに怖い目で見ないでよ。俺に惚れちゃったの?」
「戯言もそこまでだ、我が一族の恨み!!」
そこで、ハーフエルフが叫ぶ。気づくとその頭上に、とてつもない魔力の塊があった。純粋に魔力だけ。あまりのおぞましさにリンは両手と膝をつく。半鬼人は目を丸くした。
「滅べ、鬼も人間も‥‥!!」
ハーフエルフがリンと半鬼人をめがけて魔力の塊を飛ばす。半鬼人の肉体が膨張した。彼も、全力を出すということである。体格が先ほどの倍以上になる。
塊が近づく。リンは何もできない。半鬼人は目を丸くしながら笑っている。
「さあ、来い!!」
――半鬼人と塊が触れる瞬間。薄い紙のようなものが塊を包んだ。塊の動きが止まる。ハーフエルフが驚く。
「おいコラ、勝手にドンパチ始めてんじゃねえ!」
そこには、タジーラたち予備隊の姿があった。魔力の塊を包んだのは、巨大なシールド。タジーラが徐々に右の手のひらで拳を作ると、比例するようにシールドも縮んでいき、塊を消滅させた。
「我が偉大なる魔力の結晶を‥‥!?貴様何者だ!!」
ハーフエルフが感嘆混じりにタジーラに問う。「あん?」とハーフエルフの方を向き、タジーラは言った。
「ただの人間様だコノヤロー!!」
――僕らはハーフエルフの国を見つけた。視覚では一切悟れないが、アキの空を斬る斬撃が突然途絶えたそれは、ハーフエルフの"壁"の技術で間違いないだろう。
僕とアキはその見えない壁に歩み寄る。距離感が掴めない。警戒し、ゆっくりと。アキは常に刀を構えている。
「かかった――」
脳内に声が響く。これは、ハーフエルフの声。追跡していることを知っていたらしい。多少驚くが、それまで。アキとしては、どうにでも対処できる。
目の前の空間に、歪みが現れる。やがてそれは一つの穴となり、その先には未知の世界があった。すなわち、ハーフエルフの国が、露になった。
僕らはその穴をくぐる。すると、穴は消えた。壁が修復されたのだ。
ハーフエルフの国は、意外にも人間の国と大差なかった。石材からできた家々。魔樹も栽培されている。しかし、唯一の違い。
「‥‥暗いわね」
太陽が――否、空がなかった。光が一切ない訳ではない。ただ空間中に魔力で光が生成されている。自然の光がないということ。
ハーフエルフの姿は、ない。静まり返っている。さっきの声は――
「確保ーっ!!」
その瞬間、僕とアキは何者かに身体を縛られた。そちらを見ると、二体のハーフエルフがそれぞれ僕とアキに抱きついていた。先ほど見たハーフエルフに比べると、小柄な気がする。
「やった!人間を捕まえたわ!!フフーン、私だって強いのよ!!」
ハーフエルフが歓喜に叫ぶ。声の高さから、メスだろう。お調子者の少女のようである。アキは呟いた。
「随分と可愛い追いかけっこなのね‥‥」
もはや呆れていた。少女は確保と言っているが、鑑定を行うまでもなく、僕でも抜け出せそうだ。しかし、闘争心を上げる訳にはいかない。ここは‥‥。
「大人しくしてみよう」
僕はアキに呟いた。アキは不服そうだが、それ以上何かすることはなかった。僕らは刃向かわず、少女らの行く方に従った。
「さ、独房にぶち込んでやるわ!」
半鬼人がタジーラを見る。感嘆と憎悪が入り雑じった表情で。
「横取り‥‥したのか?」
半鬼人はそう言い、しばらくタジーラを見つめると、その肉体がさらに膨張する。予備隊の全員が臨戦態勢をとるが。
「俺一人でやる。邪魔すんな」
タジーラが言い放つ。それにコモンオウルのルオが反応する。
「相手は半鬼人っすよ、タジさん。こんな時にまで強が――」
「うるせえ!この間クレバに手柄独り占めにされて、半鬼人とかいう鬼の強さも知れてねぇ。ここで俺が見極めてやる!お前らはハーフエルフを守れ!!」
タジーラが前に出る。
「見極める‥‥?誰を?まさか、下等生物の分際で俺を見極めるなんてことほざいてないよな?ちょっと、調子乗り過ぎだよな‥‥!」
半鬼人がブツブツ呟くと、突然タジーラに拳を向けて飛び込んだ。速い。タジーラが呼吸一つ送る前に髪の毛程の距離に縮まる。半鬼人の勢いは――。
「あ゛あ゛――?」
完全に止まっていた。ちょうど、半鬼人の拳の位置のみに、シールドがある。トゥリプルスのレドソンは目を見開いた。
「攻撃を予測して魔力を集中させたってのか!?」
まさにその通りであった。タジーラは、相手を見くびっている訳でも、油断している訳でもなかった。最初から、戦う準備ができていたのだ。何故なら――
「クレバに一発食らわせた野郎だからな」




