31.ハーフエルフの国へ
デルハツ、冒険者ギルド。その一室に、数名の冒険者が集った。中級冒険者パーティーのコモンオウル、同じくトゥリプルス。上級冒険者パーティーのコシャクハンズ。ギルドマスター。そして、アキと僕。長机の奥に、国王が腰かけている。
「揃ったようだね」
国王は相変わらずの笑顔で言う。
ここに集められた冒険者たちは、ハーフエルフらを味方につけるための役目を担うことになる。中級冒険者パーティーが二組、上級冒険者パーティーが一組。デルハツが奇襲された時に比べれば、出動要員が少ない。
「それじゃあ、俺が説明しまーす」
クレバさんが席から立ち、説明を始める。周囲はそれを各々の席で聞く。
「今回の鬼の活発化について。リィーオル王国は鬼の活動が活発化する時期の情報を持っていますが、もはや参考にならなくなりましたー」
唐突な報告に、部屋中がざわつく。それはつまり、鬼がいつ攻めてきてもおかしくないということなので、当然の反応であった。それは僕も例外ではない。一体何故、このような事態に陥ったのか。
クレバさんは辺りを見渡し、苦笑する。
「まあ、当然の反応だな‥‥。しかし、時間が惜しいので先に作戦を伝えます――」
それから、クレバさんはデルハツの周辺が描かれた地図をテーブルに展開、作戦が言い渡された。
要約すると、こう。ハーフエルフの国に出向くのは、一部の精鋭。その交渉の間、デルハツではその他大勢の冒険者により警戒を高める。
ハーフエルフの国に向かうのは、コモンオウルのリンさんと、アキ、僕のみ。緊急時に備え、予備隊としてトゥリプルス、コモンオウルのラウさん、ルオさん。コシャクハンズのチェリナさんとタジーラさん。
予備隊は、ハーフエルフの国から少し距離をおき、緊急時に備える。
「ちょっと待った!」
レドソンさんがクレバさんの説明を止め、言う。
「魔力豊富なら、ハーフエルフは侮れないでしょう。たった三人で行かせて大丈夫なんですか?」
クレバさんは「良い質問だ」と笑み、答えた。
「まあまず、三人だけにしたのは、争う意志はないってことを伝えるため。そんでたった三人で大丈夫かってことだが‥‥大丈夫だ」
すかさずレドソンさんは「どうして?」と問う。
「ハーフエルフは魔力が多い。魔力反応にも敏感だ。だが、それを攻撃として使うのは、あまり得意じゃない。元素を固めて放つのが精々だろう」
だからハーフエルフそのものは警戒に値しない、ということだろうか。もしそうであれば、予備隊という肩書きは必要なのだろうか。
僕が首を傾げるのを、アキは見ていたようで。
「あまり会話についていけてないようね」
アキが小声で呟いた。僕は苦笑しながらうなずく。会話についていけてないとは、言ってることが分からないのではなく、その根拠が分からないのだ。
アキはため息をつき、小声のまま話し始めた。
「今回、最も意識すべきこと。それはハーフエルフが人間を恐れているということよ」
エルフが襲われ、絶滅した件。当然、人間が悪として語り継がれているだろう。
「ハーフエルフの逆鱗に触れて襲ってくる‥‥とか?」
僕は言うが、アキは首を振った。
「それならむしろ良い方ね。戦闘になれば人間の方が強い。そこで争う意志がないことを理解してもらえばいいもの」
「なるほど」と僕は呟く。
「私たちが恐れるのは、ハーフエルフがその"生"を諦めること」
僕は、目を見開く。つまりそれは、ハーフエルフが自ら絶滅を選ぶということ。
「私たちが鬼に対抗できなくなるというのもあるけど。何より、国王やギルドマスターがそれを許さないわね」
アキが、話し合っている国王らを見る。僕もそちらに視線を移す。トゥリプルスのメンバーたちがチンプンカンプンになっているところを、国王らが説明して理解させようとしている。そして僕は、獣人の件を思い出す。
「確かに、そういう人たちだったね」
僕は笑み、言った。アキは話を進める。
「あとは、ハーフエルフが鬼サイドについてしまうこと。以前ならあり得ないことだったけど、今日、鬼には理性や知識を持つ種族が存在している」
「半鬼人‥‥」
僕が呟く。アキはうなずいた。言葉が通じる鬼が存在すれば、ハーフエルフとの交渉は可能。そこにハーフエルフの、人間に対する恐れがあれば、人間と競争している鬼と手を組むことも十分に考えられる。
「だから、ハーフエルフに圧力をかける訳にはいかないの。そして緊急時、予備隊が動けるようにするってこと」
それでようやく、僕は作戦の意味を理解した。
「――さて、概要は理解できましたね。そんじゃ、早速明日、作戦開始ってことで。解散!」
気づけば話し合いは終わっていたようで、クレバさんから、唐突に明日からの作戦開始を言い渡された。
つまり僕は明日、ハーフエルフに会いに行く。
‥‥‥‥‥‥展開急過ぎるでしょ!!?
僕はアキと別れ、ギルドを後にした。広場ではクラスのみんなが特訓を続けていた。
「あっ、春ー!」
夏希の声でみんなの視線がこちらに向く。
「ただいま」
僕は言った。型蔵君が「さっさとこっちに来て素振りを再開するぞ」と叫んでいる。やはり、彼だけ気合いが違って。僕は苦笑する。
さて、明日のことを話さなきゃな。
―夜、家で僕はみんなに明日のハーフエルフの件について話した。
「ハーフエルフだとぉぉぅ!!?」
そう、強く反応したのは、最上君だった。最上君は全身を震わせる。
「おいおいおいおいおいおい、そりゃあビッグチャンスじゃないか!!どんな美少女ちゃんが待っているんだ!!?塑通無、俺も行くぜ!」
「無理」
「即却下かぁぁぁぁ」
みんなは呆れ顔で居た。
「じゃあつまり、明日からしばらく春君がここに居ないって訳ね」
宮田さんが確認し、僕はうなずいた。鬼の活動が活発化する中、僕だけがここに居ない。
もし、鬼がデルハツを襲ったら?僕が居ても居なくても戦力はあまり変わらないが、ここには夏希が居る訳で、心配なのだ。
「心配すんな、塑通無!」
僕の表情を窺ってか、型蔵君が言った。僕がそちらを見ると、型蔵君は胸を張り、笑っていた。
「俺達ゃ、あのじいさんに特訓を受けてる。最初の俺達とは桁が違うからな!もう足を引っ張ることぁねえ!」
型蔵君の言葉に、宮田さんも続ける。
「おうとも!春君の大好きな夏希ちゃんは私がしっかり守るよ!」
僕は赤面するのを感じた。同時に、この雰囲気のあたたかさを。
「いよいよこの世界も穏やかじゃいられなくなった。でも、僕らなら乗り越えられる!」
僕の言葉に、みんなが「おう!」と返事をする。
ー翌朝、デルハツの南門。作戦に参加する冒険者たちが集っている。
国王が言う。
「デルハツの明日のため、そしてハーフエルフと共存するため、諸君にはぜひ頑張ってほしい。作戦の指揮は、リン君、よろしくね」
リンさんがうなずく。
僕らは、いよいよ鬼との戦闘に大きな一歩を踏み出す。今日をもって、状況が大きく変わる。
僕らは知らない。このすぐ先に、悪夢が訪れることを。




