AS-6.半鬼人の恐怖
人に近い容姿をしていながら、上等な肉体と鋭い爪を併せ持つそれは、とても油断して見れるものではない。皮肉にも、対立する鬼と人が融合した生物、半鬼人。冬里は初見だが、目の前のそれが自分の実力を凌駕することを直感した。
「質問の途中ですまないが、名は何と言う?」
カルレインは視線を半鬼人に向けたまま、冬里に尋ねた。冬里は答える。
「冬里。寒崎冬里だ」
「そうか、冬里。お前は必ず良い兵士になる。後方に向かって、全速力で走れ」
カルレインはそう言いながら、右腕を横に広げる。すると竜が冬里の前に立ち、半鬼人に威嚇するように、一つの雄叫びをあげた。カルレインの行為に冬里は感嘆し、現状を再確認する。半鬼人は他の鬼とは格が違う。人間がまともに戦える相手ではない。
「だが――」
冬里がカルレインに言いかけたその時、目前の竜が、空に舞っていた。自意識ではない。翼も広げず、頭を重心に吹っ飛んでいる。冬里が瞬時に、それが半鬼人の仕業だと気づく。しかし既に、半鬼人は冬里に鋭い爪を差し向けていた。
「そういう雰囲気要らないから、全員狩るから」
半鬼人はそう言っていた。そして、爪を冬里に振りかざす――。
「――俺もそんな雰囲気にする気は微塵もねーよ」
半鬼人は振り切った爪の先を確認する。そこにあるはずの無様な死体がない。冬里の声は、半鬼人の後方からだった。カルレインは唖然としていた。半鬼人は、ゆっくりと冬里の方を向く。
冬里が使ったのは[風属魔法、乗風]。身を風と化し、半鬼人の攻撃を回避したのだ。
「あれ····。人間って結構強いじゃん。ワクワクしちゃうなぁ」
半鬼人は目を光らせ、再び冬里に向かった。ほぼ同時に、冬里の目の前に青白い魔方陣が出現。冬里の魔法だ。そこから凄まじい吹雪が噴き出した。ほぼゼロ距離なので、半鬼人は回避しきれず直撃。しかし、半鬼人はなお、爪を冬里に向けていた。半鬼人の勢いこそ死んだが、吹雪と対等―それ以上の力で冬里に近づいている。冬里は改めて半鬼人の恐ろしさを知った。
このままでは半鬼人の攻撃を避けられない。しかし―。
「鋭水の牙―」
半鬼人に、カルレインの追い打ち。後方から、竜により水でできた牙が半鬼人を襲った。吹雪も相まってか、爆発が生じた。爆風に、周囲は呑まれた――。
爆風が静まる。冬里は爆発で近くの大木に飛ばされていた。やがて、空中には竜と、その上に乗るカルレインが確認できた。半鬼人はどうなったのか。冬里は辺りを見渡した。
「イテテテ····。ちょっと油断しすぎたかな」
先程の爆心地に、ほぼ無傷の半鬼人は立っていた。
冬里は大木から離れ、立ち上がった。カルレインに、感嘆の表情はない。半鬼人の強さを、知っているのだ。だからこそ、冬里を逃がそうとした。しかし冬里は、未だに逃げの一手をとらない。むしろ、倒す気しかない。彼の身からよく分かる。
全身に、様々な属性のオーラをまとっている。両腕に火、風。両脚に氷、地。そしてそれらを覆うように光。[全属魔法 全身魔装]。全属性対応の冬里ならではの、全力魔法である。
そしてまもなく、冬里は氷を脚から地面へと伝わせた。それは凄まじい速さで半鬼人へ向かっていく。半鬼人は瞬時にそれに気づき、目で追った。そして、自分に到達するタイミングで、腕を地面に向けて放った。地盤が歪み、氷の軌道が変わる。氷は半鬼人の目の前で、上空に向かっていた。
笑みを浮かべる半鬼人。氷にひびが入り、粉々に砕けた。その奥から現れる二つの掌。冬里のものであった。一方の掌からは炎が、もう一方からは、風の渦が発生していた。それは交わり、炎の渦となって半鬼人を襲った。直撃だった。
冬里は精一杯に魔力を消費し、よって炎の渦は大きく、激しくなっていった。冬里は炎の中に、半鬼人の影を捉えている。ただの炎ならともかく、激しい渦となっているのだから、耐久力が高くとも、脱出は困難なはずである。
カルレインは、その様子を見ていた。今、水の魔法を使えば、却って妨害になると感じたからだ。同時に、小鬼の群れに対応する冬里を脳に浮かべる。魔力が膨大なのだ。もしくは魔力の自然回復が尋常でなく速いか。故に、冬里は自分よりも長く攻撃が続けられる。
冬里は、依然として魔法を発動し続けている。半鬼人の恐ろしさを、勝手な固定概念で決めつけてはいけない。人間を殺すことなど訳ないだろう。なので、ここを逃す訳にはいかない。冬里は炎の渦の勢いをさらに強めた。
「今、ここで潰す――」
「ああ、そういう発想か。残念だけど、俺は水属性だからさ、あんまりダメージがないんだよね」
半鬼人が、炎に呑まれる中で、言葉を発した。冬里は愕然とする。やがて、炎の渦から煙のようなものが発生していることに気づく。カルレインは気づいた。
「あれは水蒸気····!!冬里、離れろ――!!」
巨大な爆発が発生。先程の冬里とカルレインの攻撃によるそれの、数倍はある爆発だ。冬里は魔法を使っていたため、反応できず、爆発に呑まれてしまった。上空のカルレインにまで、爆発が及んだので、カルレインと竜はさらに上空に昇った。
「せっかく良い状況だったんだろうけど····ごめんね。全然痛くなかったんだ」
爆発のなかで半鬼人は呟いた。




