2.分裂のとき
投稿日の多くが11/10になっているのは、元々2000字で投稿していたそれを4000字にまとめようと思い、コピペで新規小説に保存して当時再投稿したからです。2話の内、片方にコピペすればよかったと最近気付きました。はい、すみません。本来の初回投稿は8月25日です。
型蔵君は、仰向けに倒れた。すると、型蔵君のステータスの下に緑色のゲージが出現し、それが半分以上減った。ゲージはオレンジ色に変色。型蔵君の体力だ。
「「昌児!!」」
即峰君と病月君が型蔵君に駆け寄る。クラスのみんなは、唖然としていた。圧倒的な差。寒崎君は、ここで最強であることが証明された。
「気ぃつけろよ。多分火傷してる」
寒崎君は冷酷な目で型蔵君を睨みつけた。型蔵君のゲージが、赤く点滅していた。そして、オレンジ色のゲージがズンズンと縮んでいく。ゲージは、オレンジ色から赤色へ変色した。このままじゃ、型蔵君が危ない!!回復···そうだ!
「夏希!」
「な、なに?」
―型蔵君のもとへ駆け寄る夏希。周囲がざわつきだした。即峰君と病月君の間に入り、夏希は型蔵君の胸部に両手を当てた。
「どうすれば良いかわからないけど···!!!」
僕には、夏希がただ力を込めているようにしか見えなかった。しかし、夏希の手の内が光りだした。そして、その光―夏希の術は型蔵君を包み込み、癒した。型蔵君のゲージが、徐々に増えていく。ゲージの色は、緑色に戻った。赤い点滅、火傷は続いていた。
「夏希、すごいじゃん!!」
「型蔵の傷が消えてる!!」
夏希は、歓声を浴びた。さすが夏希だ。
《才能の差により、初期のステータスに大小の差が存在します》
―唐突に、みんなの頭に直接入ったそれは、寒崎君への恐怖を思わせた。そしてその恐怖は、僕の中で確信に変わった。きっかけは、寒崎君のステータス。
[寒崎冬里:魔法士Lv.2 atk.7 dfs.2 spd.3 mp.20 スキル:魔力再生]
寒崎君は、スキルを所持していた。寒崎君のレベルが上がっているからかは分からないが、この時点で間違いなく寒崎君は僕らに差をつけた。そしてこれからも差を広げていくだろう。
《ジョブが確定しました。ギルドにて、冒険者申告を行ってください》
次の指示が通った。冒険者···?これもゲームのシナリオなのだろう。今のところまだ疑問だ。ここが何処なのか。ゲームを模した疑似世界か、本当にゲーム内か。それを知るのは、まだずっと先のことだった―。
型蔵君が目を覚ました。火傷の症状は消えていた。状態異常は時間経過で効果がなくなるらしい。みんな一段落ついたところで"ギルド"というところへ向かった。
《ここを左に曲がってください》
機械みたいな声は、僕らを案内してくれた。でも、実際は視界にマップが表示されているから必要ないと思ったんだけど···。
「いやー案内はありがたいな!普通ゲームってマップとかあるはずなんだけどなぁ」
男子が言った。あれ···あの言い様だと、まるでマップが表示されていないみたいじゃないか。
「ねえ夏希」
僕はこっそり夏希に話しかけた。普通に話すっていうのは、僕の中ではまだ罪に近い。さっきはみんな気づいていなかったから良かったけど。
「なーに?」
夏希も、僕の話し方に気づき、囁くように返事をしてくれた。
「マップって表示されてないの?」
「そうみたいだね。···だからガイドさんが案内してくれたんだよね」
やっぱり、普通マップは表示されないらしい。僕にはそれがある。クラス内で僕にしかない、ということを前提に置くと、これは鑑定士の特権。ステータスが表示されるのも、僕だけなのかも知れない。そもそも、鑑定士というジョブはカテゴリーオーバーしている。···と、いろいろ考えている内にギルドに到着した。
「広ぇ~っ!!!」
「でけぇ~っ!!!」
「かっけぇ~っ!!!」
そこは、真っ白な壁で包まれた、城の様なところだった。いくつもの塔やドア、窓がある。高層ビル並みの高さ。そして何より、人が多い。さっきまで居たのは、噴水を中央とする広場。恐らくゲームを始めた時にスポーンされる場所だろう。人はそこそこという感じ。だからこの賑やかさに衝撃を受ける。僕らは、正面の大きな扉から中へ入った。
―中に入った瞬間、多角から視線を感じた。それはみんなも同じだった。
「なんだ、ゾロゾロと」
「ありゃガキじゃねーのか?」
僕らのクラスは二十人。十五の子供が二十人も同時に入ってくれば、視線も必須か。僕らは先ほどまでのテンションを殺し、静かにカウンターへと向かった。
「あの、冒険者申告をしにきました」
ここで口火を切ったのは、学級委員の相澤仁志。リーダーシップが取れてて、みんなをまとめあげてくれる存在。この空間に於いて彼の存在はとても心強い。
「それでは、こちらに明細のご記入をお願いします」
僕らは順番に必要事項を書いていった。性別、名前、年齢、ジョブ···。
「ありがとうございます。次に、チームの申請はどういたしますか?」
チームの申請···。二十人も居る訳だし···分けて組むのも対立が減って一つの手かも知れない。でも学級委員なら···。
「全員一チームでお願いします!」
まぁそう言うだろう。彼は、決して仲間を見捨てない。それは、この僕にだってそうだった。だからそう言いきれる。
―中学一年教室。
「ちょっと、筆箱返してよ···!」
「おまえさぁ、さっきから気に食わねぇんだよ。そういう面だけは面白みがあるんだよな」
僕は筆箱を取られ、遊ばれていた。当然反抗する術もなく、ただ何もできないでいた。
「おい君たち!彼に筆箱を返したまえ!!」
「なんだよ学級委員」
「先生に報告をすることになるぞ」
こうして、僕は夏希以外で初めて、味方をしてもらった―。
立場上、ずっと助けてくれる訳ではない。でも、彼は誰にでも平等に接する良い人間だ。
「―それでは、二十人一組でチームを結成します」
カウンターの人が書類に何やら書き込んでいる。「あちらでお待ちください」と案内され、僕らはカウンター横の席に着いた。そこに、複数の男性がやってきた。服装から、恐らく冒険者たちだ。その中の一人は言った。
「ねぇねぇ坊やたち。冒険者になるにはある程度の実力が必要で、俺たち冒険者と一つ手合わせすることになってるんだよねぇ」
男性は、そこで鞘に収めた剣をそのまま前に突きだした。その途端、僕の視界に表示された。
[冒険者:剣士Lv.6 atk.14 dfs.10 spd.7 mp.5 情報:誤報]
右の端に、誤報という表示。これは、男性が嘘をついているということだろう。みんな、突きだされた剣と、男性の威圧を前に動けないでいた。学級委員も、状況を把握した上で、多分どうすれば良いか考えている。周囲を見ると、相手にする気などなく、ゲラゲラと笑い観賞している。カウンターの人は、奥で手続きをしている。
―僕が行かなきゃ。何故か、突然そう感じた。
「それ、嘘ですよね」
考えるよりも先に、口が動いていた。クラスメイトたちは、僕を見つめている。「何やってんだ!?」って感じで。
「あ?···そこのガキ。先輩に対して随分とデカイ口を叩くんだな」
男性は焦点をクラス全体から僕単体へと移した。感じたことがないが、恐らくこれは殺意だ。ジンジンと刺さってくる様な感覚。周囲は「先輩の意地、見せてやれ」などと盛り上がっている。どうやら、ここに子供が足を踏み入れるのは常識はずれらしい。男性は僕との距離を縮めた。
「おまえ、ちと俺とやるか?」
依然、クラスのみんなは硬直している。僕も、額に汗を伝わせ男性の目を見る。僕は席を発ち、前に出た。男性も引き下がり、そこにリングを錯覚させた。
「争いにはしたくないんですけど···」
僕は少し弱気な言い方になりながらも、しっかりと男性を睨んでいた。ここには冒険者がたくさん居る。少しの時間さえ稼げれば、他の冒険者なり、カウンターの人なり、気づくだろう。この人だってきっと本気じゃ―
「あぁ後、おまえに拒否権はない―」
と、剣を抜いて僕に斬りかかった。
「えっ―」
当然防ぐ術も、避ける術もなく、僕は両腕で顔を覆い、目を瞑った。
ゴゴゴゴォォォォッ········!!!!!!!!!!!!
―激しい音が、空間に充満した。僕の身体は無事。恐る恐る目を開いた。僕の目の前には、寒崎君が立っていた。
「なんだ今の光···!!?」
「塑通無、おまえのお陰で時間が稼げた」
寒崎君は、僕が男性と話す間、攻撃の準備をしていたのだ。そして、寒崎君のステータスが表示された。
[寒崎冬里:魔法士Lv.3 atk.7 dfs.3 spd.4 mp.25]
また···レベルが上がっている···。ステータスが表示された直後、mpのポイントが、15減った。これは―
「てめぇ!!」
標的を寒崎君に切り替え、四人で斬りかかる男性たち。
[冒険者:剣士Lv.6 atk.14 dfs.10 spd.7 mp.5]
[冒険者:剣士Lv.5 atk.12 dfs.11 spd.5 mp.6]
[冒険者:剣士Lv.5 atk.13 dfs.11 spd.6 mp.4]
[冒険者:剣士Lv.6 atk.15 dfs.10 spd.8 mp.3]
「隙は与えねぇよ」
瞬時に杖を突きだす寒崎君。巨大な魔方陣を出現させ、瞬く間にそこから氷河が現れた。氷河はとてつもない速さで男性たちを飲み込み、氷付けにした。三メートル以上はある天井にまで氷河は及び、それによって空間は感嘆に呑まれた。
「な、なんだよこのガキィっ!!?」
身動きのとれない男性は叫んだ。今の攻撃は氷。さっき型蔵君に使ったのは炎だ。僕は、再び寒崎君のステータスを確認した。
[寒崎冬里:魔法士Lv.3 atk.7 dfs.3 spd.4 mp.25 スキル:魔力再生、全属性対応]
寒崎君は、クラスだけではない。この世界に於いても、脅威となるだろう。"全属性対応"。新たに増えたスキル。それは、格上の冒険者すらも圧倒した。
―氷河は消え、解放された男性たちは「化けもんがぁ!!」と騒いでせっせと逃げていった。寒崎君は、クラスメイトの方に目を移した。
「悪いが、俺は単独で行動させてもらう」
そう、言った。
「寒崎君!!何を言っているんだ!!ここが何処かも分からないというのに!」
学級委員が止めに入る。しかし、寒崎君の目に変化はない。
「ここに居ても何も変わらねぇ。今の一件でよく分かった。精々役に立つのは塑通無くらいだ。じゃあな」
誰も、反論できなかった。そのまま寒崎君はカウンターの方へ。一人で手続きをしてギルドを出ていった。僕らは、彼が出るまでの間、何もできなかった。それは、実力と判断力の差によるもの。僕は、寒崎君の言葉を思い返していた。僕が役に立つ···。それがどういう意味なのか。そういえば、僕はステータスを見ることができる。自分に対して扱えるかは分からないが、試す必要がある。僕は、意識してみた。
[塑通無春:鑑定士Lv.2 atk.0 dfs.0 spd.0 mp.0 スキル:高度鑑定//]
···できた。攻撃0、防御0、素早さ0、魔力0。そして、高度鑑定のスキルと、もうひとつのスキル。
[全知全能]