AS-4.塵も積もれば
デルハツで死鬼種や半鬼人を警戒してクエストが一時廃止されている一方、フォエンド王国では通常通りにクエストや任務が行われていた。それは、死鬼種や半鬼人の活動が活発化しているという情報を得ていないためだった。故に現在、冬里も日輪兵団の一員として任務に加わっていた。
今回の任務では、日輪兵団の内の少数が当っていた。というのも、相手が相手なのである。フォエンド王国外壁の監視によると、雰囲気が妙な小鬼の群れがこちらに向かってきているのだと。原因は不明だが、日輪兵団の冬里、リーファ、デルシャンがそこに向かった。
既に小鬼の群れは外壁から五百メートル程の木々が生い茂るところまで迫っている。素早さが特徴の小鬼は、集団で群れを成すことこそあるが、知能はほとんどない。しかしその小鬼らは、まるで目的があるかのように真っ直ぐとフォエンド王国へ進んでいる。
冬里たちは現地まで走った。····といっても、冬里は飛行を使用し、デルシャンとリーファは召喚した鬼に乗っている状況である。
いよいよ小鬼の群れが冬里たちの視界に分かった。
「あー、あいつらね。確かに小鬼にしては気迫を感じるというか····」
「気味が悪いですわ····」
二人が話す中、冬里はじっと小鬼らを見つめた。動きが妙だ。無理やり身体を動かして、限界を超えたスピードを出しているように窺える。小鬼らは、酷くこちらを睨んでいる。一目で異常だと分かるが、何が原因なのか····。
「ちょっと上から群れを見てきます」
そう言うと、冬里は空高く飛んだ。
「一応気をつけろよー」
デルシャンとリーファはそのまま群れに向かった。それを確認し、冬里は群れの中央まで飛んでいく。数百―いや、千体は居る。あり得ない、小鬼が一ヶ所に千も集うなど。そこで冬里は、悪寒が走るのを感じた。何か、何かある。
原因は探れずとも、この群れは止めなければならない。生け捕りにしたいがリスクが大きい。あの状態では小鬼らは危機を感じることもできないだろう。つまり、全滅させるしかないのだ。
そう理解した冬里は、高度を下げていった。
「こいつがどれだけのものか、試すには良い機会だ」
冬里は右手の中指にはめた指輪を眺めて言った。小鬼の群れは前に進むことで精一杯なのだろう。冬里に気づいていない。
冬里は、右手を握り拳にし、腕を引いた。そして念じる。すると氷を示す水色の巨大な魔方陣が、冬里の上空に出現した。それから飛行を解除し、勢い良く地面に向かう。そして着地と同時に、振り上げた拳を地面に打ちつけた。
魔方陣から吹雪が現れ、たちまち小鬼の群れを襲った。それ以外の音を抹消するほどに激しい轟音が響く。地上ごと襲う吹雪の中、冬里はその場に立ち上がった。その景色は、文字通りの雪景色だった。吹雪で視界は遮られ、目を凝らせば氷り、白く染まった木々や小鬼が見える。
見えている範囲では、数百体。生き残っている分は間違いなく王国に向かっただろう。冬里は再び上昇し、小鬼の最前列と対峙するデルシャン、リーファの下へ向かった。
―冬里は疑問を抱いた。群れの最前列が見当たらない。どこを見ても、小鬼ばかり。先ほど吹雪で数百体は片付けたはずだが、むしろ数が増えている。デルシャン、リーファはどこへ?
気のせいにも感じていた悪寒は、確かに悪夢を予見していた。冬里は急いで最前列を探す。このままでは、フォエンド王国―否、人間が危ない。
王国から二百メートル程のところ。ようやく冬里は最前列を見つけた。デルシャンらが居たにも関わらず、なぜ前進しているのか。そして、その最前列にもデルシャンらの姿はない。冬里は最前列に降り立った。
「これが地獄絵図ってやつか····」
自分に止められるだろうか。恐らく不可能だ。この調子では小鬼は増え続ける。しかし、王国に侵入を許せば国中大混乱だ。この距離ならば監視からはっきりと状況がわかるが、仮に救援が来ても対処は難しいだろう。やるしかないと、覚悟を決めた。
冬里が右手を地に当てる。すると、大地に巨大なひびがいくつもでき、地は切断された。地属魔法、大地破壊である。大量の小鬼が裂け目から落下していく。しかし、一度に落とせる量には限りがあり、効率が悪かった。
続けて冬里は右手を振り上げる。冬里の後方に金色に輝くいくつもの魔方陣が出現。やがて、そこから数多の光の矢が放たれた。小鬼はまたも倒れていく。しかしやはり、減っていないように見える。冬里は実感する。塵も積もればなんとやら。
「これは····詰んだか」
冬里は魔法を放ち続けながらも、そう呟いた。ここを捨て、逃げたとしよう。恐らく、他所でも悲劇は起こっている。これはまさしく絶望だった―――。
「聖水ノ守護竜」
冬里の前に、壮大で清らかな蒼き翼を持つ竜が現れた―。
冬里サイドの話が大きくなりそうなので、第4章では冬里を主として展開しようと思います。引き続き第3章をお楽しみいただければ幸いです。




