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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第3章 Growth of the class
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追憶-3

 入学して一週間が経過していた。春には、早くも遅くも分からなかった。やはりどうでも良かったのだ。春の記憶にはほとんど干渉しない。授業中も学ぶべきことを学ぶだけで、質問などは皆無。人と会話することなんてあり得ない。なので、友達の一人もできない。··········のだが。


 「おっはよう、春君!」


 そこには、友達が居ないにしては珍しい光景があった。―宮田の存在である。春は無視をしている。悪意ではない。毎日しつこく宮田がくっついてくるので、無視をするようになったのだ。宮田はいつも通りに春の隣へくっつく。宮田が春の方を見ると、春はそっぽを向いた。


 「つれないなー。同じ委員会でしょ?」


 宮田は一定リズムで重心を左右に揺らす。それに流されながらも、春は低い声で答える。


 「委員会が同じくらいでこんなことしてるなら、他の中学は変な集団で通学路が塞がれてるよ」


 「春君、面白いね!」


 宮田が驚いたように反応する。対して春は「はぁ」とため息をこぼす。そうして、毎日学校に着くのだ。




 ―その日は、学年レクリエーションで、ドッジボールが日程の四時限目としてある。入学して最初の一週間は、小学校と中学校の変化の差に心身共に疲れていた一年生には、ドッジボールといえど喜びであった。春が淡々と着替えをする中、型蔵は叫ぶ。


 「よっしゃーっ!!!溜まったストレス、存分に発散してやるぜ!!!」


 「「おぉーっ!」」と病月と即峰が歓声を上げる。それを背景に、春は教室をさっさと抜けて、体育館へ移動した。



 この中学の体育館は割と広い。人数こそ少ないが、他の高校の体育館などと比べても見劣りしないだろう。そこに、春らB組十九人と、A組二十人の合わせて三十九人が居る。生徒らはステージを前に二列横隊で整列している。ステージには、春らの担任とA組の担任が居る。


 「今日は親睦を深めるためにレクリエーションをします。事前に黒板に掲示していた十人一組でドッジボールの試合を回します」


 A組の担任が説明を進めている。春は聞き流す。興味がない。ドッジボールなら、最初にボールに当たって、後は外野でつっ立っていようと考えている。そのうちに、説明は終わった。


 「それでは、準備運動をしてから、試合を開始しましょう!」



 体育委員の速見が担任と入れ替わりで前に立ち、準備運動が行われる。そして、体育館を前後で二つのコートとし、四チームはそれぞれ移動した。春が居るのはB-||で、体育館のステージ側。相手はA-||。まず、初期の外野を二人決める。B-||には相澤が居た。


 「誰か外野に行ってくれるかい?」


 相澤はまとめ役として声を張る。春は黙ったまま。そしてどういう訳か、そこには宮田も居合わせていた。宮田は春のすぐ右まで近寄ると、耳元で呟いた。


 「外野なら何もしなくて良いんじゃない?二人で行こーよ!」


 春は宮田の方は向かず、周りに聞こえない程度に宮田に呟き返す。


 「最初の外野は敵にボールを当てても内野に行けない。だから大抵、後から無条件で内野に入るルールが多い。今行ったら後で余計に目立つ」


 その冷静な判断に、宮田は「チ~ッ」と言いながら半目で春を睨んだ。見ないように春は目を瞑る。しばらくして、外野二人が決まった。相手の外野も決まっている。最初、ボールはA-||。担任が、ホイッスルを片手にコートの側面中央に立っている。全員、やる気に満ちた表情が窺える。しかし春は、真顔というにも相応しくない、無力な顔だった。コートの中に居ては、外側から個人を特定できない程だろう。春は完全にモブとして空間に溶け込んでいた。


 「それじゃあいいですかー?」


 担任のかけ声が響き、その直後にはホイッスルが鳴った―。


 即座に、ボールが飛んでくる。しかしB-||は上手くかわしていく。春と距離があるボールだったため、当たることはできない。ボールは、敵の外野へ渡った。


 しばらく投げ合いが続くと、飛んできたボールを宮田が受け止めた。「おぉー!」と歓声が上がる。すると宮田は、「お、ラッキー!」と呟くが、


 「私投げるの得意じゃないなー!」


 と、妙に大きな声で言った。次の瞬間には、ボールは春の手にあった。


 「······え」


 「春君、代わりに投げて!」


 ニヤリと微笑む宮田。完全に悪戯であった。春は、コート側面から両手を使って「こっち!」と叫ぶ外野である最上を視界に捉える。春は、ボールを高く上げた。外野へとスムーズに進むボール。ボールをキャッチしたのは、外野の古賀であった―。


 「なんで!!?」


 最上がなにやら言っているが、春は無視。これは、悪戯とかではない。最初はなから、ボールを取ったら正面の外野へとボールを投げるように定めていたのだ。




 ―それからも宮田の悪戯は続く。春が当たったボールをノーバウンドでキャッチし、やはり春にボールを渡す。最上が手を振るが、ボールは古賀へ。


 春がようやく外野に出たかと思うと、途端にボールが春の方へ。これも宮田である。コート側面に居た春はボールを投げる。最上が反対側で「こっちこっち!」と叫んで居たが春が投げたのは人があまり居なかった右前方。ボールは古賀へ。


 すぐに宮田が外野へ出てきた。わざとだ。外野に飛んできたボールをキャッチした宮田は春にパス。他に外野が居ないので、内野に投げようとする。そこに一つ、やたら派手にアピールする影。内野へ飛んだボールはそれを無視して奥の古賀へ。


 「ちょっと!!俺、一度もボールに触ってないんですけど!!?」


 全員無視で試合は続行した。




 ―こうして、レクリエーションの全日程を終えた春ら。学級委員の相澤が終わりの言葉を務める。


 「みなさん、今日は楽しめましたか?僕は親睦をとても深められたと思います。この調子で、三年間頑張っていきましょう。これで学年レクリエーションを終わります」


 生徒らの笑顔に、拍手というトッピングがなされ、その空気はそれはもう絶景だっただろう。しかし、それでも春の表情は、たがわなかった―――。

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