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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第3章 Growth of the class
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26.術(アート)を感じる

 おじいさんはクティを指差して言う。


 「そこの忍者ニンジャの嬢ちゃんはこの中では飛び抜けておる。どうにも、あんちゃんらは初歩的なことで躓いとるようじゃ」


 おじいさんは初歩的なことと言った。しかし、僕らに心当たりはない。何か通るべきステップを飛ばしていただろうか。


 「なんだよ、その"初歩的なこと"って」


 型蔵君が訊いた。


 「冒険者であれば本来、既に持っているはずの技術がないんじゃよ」

 

 「持っているはずの····」


 「技術?」


 僕と夏希は交互に呟いた。尚更分からなくなってきた。そもそも、僕らはガイドさんによって順を追って冒険者の道を歩んでいる。極論、ガイドさんに任せれば問題ないはず。··········あっ。


 僕はようやく理解できた。僕らは、最初こそガイドさんの話を聞いていたけど、色々を自分たちでやりたいということでガイドさんを無視していたのだ。故に、ガイドさんから教わるべきことを、忘れている。


 「―俺たちちゃんとクエストやってたぞ?」

 「見落としなんてしてないはずよ」

 「何が間違ってたんだ?」


 ―みんなは一切気づいていないようだった。しかしそれにしても、おじいさんが言う初歩的なこととは何だろう。


 「冒険者には六種のジョブがあるのは知っておるな。そのそれぞれにおいて武器を純粋に利用すること、剣士フェンサーであれば剣を振り、弓士アーチャーであれば矢を放つことじゃ。それらが通常攻撃という扱いになる。じゃあそうでない攻撃はどうじゃ?」


 おじいさんは僕らを見渡しながら訊ねた。みんなは全くピンときていないようだが、クティは平常な顔をしている。型蔵君は大剣を両手で振りながら言う。


 「剣を振る以外に使い道があるってのかよ?」


 それにおじいさんはため息を一つ。それから少し呆れた様に訊いた。


 「ステータスの項目にどんなもんがあるか知っておるか?」


 「馬鹿にするんじゃねえ。体力と所持するスキルの他に攻撃、防御、素早さ、魔力が数値化してあるんだろ。それがどうしたって言うんだ?」


 型蔵君は自慢気におじいさんに言った。ステータスに関してはクラスで僕が最も知っているだろう。型蔵君の言ったことは正しく、それらがステータスとしてある。そしてその中に、おじいさんが指し示す通常攻撃以外の攻撃方法のヒントがある。


 「まだ分からんか···?」


 おじいさんは訊くが、みんなはまだ閃いていない。おじいさんは再び説明を始めた。


 「まったく····。よーく聞いておれよ。ステータスには魔力があると言ったの。通常攻撃の時点で魔力を使用する魔法士キャスター召喚士サモナー回復士ヒーラーは強力な通常攻撃が使える。ならば他のジョブは魔力を使えぬのかといえばそうではない。予てより人間は魔力を有効活用しておるんじゃよ。当然、戦闘手段としても用いた。起点は魔法士キャスターじゃが、それを派生させたものがある」


 難しく説明しているようにも聞こえるが、僕には理解できた。これに関してはガイドさんも説明をしていたはずだが····既にみんなは、それ以上に冒険者になることへの期待で聞いていなかったのだろう。


 「アート。後の人はそう呼んだんじゃ」


 魔力を干渉させた攻撃方法。ガイドさんはそう説明していたな。そうだ。確かに僕らはアートを使ったことがなかった。純粋に武器を振るうのみで戦っていたのだ。存在を知っていた僕はというと、魔力値がゼロのため使用不能。偶然にも、"アートを一切知らないクラス"という称号ができあがっていた。


 「そういや聞いたことある気がするな····」

 「誰か言ってなかったっけ?」

 「すれ違い際に他人が言ってたとか····」


 ガイドさんがみんなにとってすれ違う他人程度の認識であったことは、生涯黙っておこう······。


 「それでじゃ。あんちゃんらには、アートの練習をしてもらう。これが使えるか否かでは、全く違うからのぅ」


 おじいさんはそう言うと、以前のように落ちている木の棒を拾い、広場の中央まで歩いた。それから僕らを見渡すと、


 「そこのあんちゃん、こっちに来んしゃい」


 僕を指差した。少し驚きつつも、僕は広場の中央に行った。何かをするのだろうが、これは無作為なのか、それとも意図的に選んだのか。僕には魔力がないので、アートを使えと言われても無理なのだ。


 「あんちゃんの名前は?」


 「え?······えっと、塑通無です」


 突然の意外な質問に、僕は戸惑いながら答えた。おじいさんはその後、スラッと言った。


 「そうか、ソツナキか。それじゃあソツナキ、わしのアートをどうにかかわすんじゃ」


 「へ?」


 呆然とした僕に構わず、おじいさんは少しの距離をとった。······死ねと言っているのだろうか。みんなも訳が分からず棒立ちしている状態だ。アートは魔力が干渉した攻撃なので、通常攻撃とは比にならないような強さである。身をもって体験したことなので、その凄さを知っている。


 ―あれ、これはどうすれば良いんだ?


 「いくぞい」


 考える間もなく、おじいさんは攻撃体勢に入った。


 「お、おい····大丈夫なのか····?」


 我に戻り、最上君がそう言ったのだが、手遅れである。


 [穏風の(コンフューズ)囁き(ブリーズ)····風の揺らぎを利用し、対象に分身しているように錯覚させる。風は弱いため、剣などの凪ぎ払いで容易に消すことができる。]


 ある鑑定結果が表示された。おじいさんが繰り出そうとしているアートについてだ。まだ整理出来ていないが、動かなければ何も起こらない、起こせない。僕は咄嗟に剣を手に取った。


 「穏風の(コンフューズ)囁き(ブリーズ)····!」


 おじいさんの詠唱と共に、分身が姿を現した。合計で六体だ。それらは一斉に散らばり、僕を囲む様に移動した。そこで後悔した。アートの発動時、本物を見定めていなかった。故に、分身の消し方が分かっても、どれが本物か分からない。虱潰しにやるしかないか····。


 [神裁の風剣(ジャッジブレード)····魔力で構成した風を剣に纏わせ、近距離において絶大な切断能力を付与する。かつて風の守護神が扱っていたアートであり、人間がまともに使うことは不可能と言われている。]


 追い打ちをかけるように別の鑑定結果が表示。······待て待て。僕は今、何を鑑定したんだ?明らかに書いてあることと事実が矛盾している。名前も凄いし何より、これじゃあ虱潰しにやっている場合じゃない!


 「神裁の風剣(ジャッジブレード)!」


 おじいさんはやはり詠唱し、すると、木の棒に何やら凄まじい風····というよりは刃物だろうか。渦巻くように纏っている。それが、六方向から。危険極まりない。一周回って落ち着きを取り戻してすらいる。




 ―そして、脳裏によぎった。何度も同じ過ちを犯すのか、と。これまでにも、死を予見する程の状況に対峙したことはあったはずだ。恐鬼との戦闘、森林での包囲、夜間の奇襲····。いずれもまともに成功した戦い方はできていない。強いて言えば聖剣の利用によるものくらいである。


 結局誰かに救われて今を生きている。····それでは駄目だ。これは、良い機会だ。考えろ、考えるんだ。実戦の中で対応しきれなきゃ。全てが教科書通りに進むなんてことはないのだから。




 おじいさんが一斉に距離を詰めてきた。そのいずれもを見てみる。見方では····分からない。じゃあ、どうする?五感のどこで感じるか。


 "風の揺らぎを利用し――風は弱いため――"


 そうだ、分かったぞ。


 僕は、目を閉じた。そして、感じる。無駄な感情や、周りの情報を意識から消し、目前にあるはずのそれにのみ、集中する。風の音で感じる。····一、二――五体。呼吸、足音、動作などの気配で感じる。····一体。見つけた。


 僕は感覚だけを頼りに剣を振った。風を斬るように、弱い己を斬るように。――僕は、目を開けた。


 目の前にあったのは風などではない、本物のおじいさんのみであった。おじいさんは、一つの笑みを見せた。何を思っているか分からないが、あの一瞬で飛躍するような心の成長を遂げたように感じた僕は、おじいさんをただのすごい冒険者だと思うことができなかった。


 「塑通無····。何が起こったんだ····?」


 型蔵君が戸惑いの表情で尋ねた。僕にもはっきりとは分からなかった。どうとも説明できない。


 「どうじゃ、これがアートじゃ。使ってみたいもんじゃろう?」


 平然とおじいさんが言った。状況に追いつけず、しばらく沈黙があった後。


 「「使いたい!!!!」」


 子供のようなはしゃぎ声が、広場一杯に広がったのであった。

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