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1.剣と魔法とがある世界へ

    ―――その時を、もう一度。その時を、やり直せ。その時を、永遠に―――







 僕ら、亜駑辺(あどべ)中学三年B組は·····



 『ゲームの世界にクラスごと転移してしまった』



 ゲームというのも、一人一人が職業、すなわち"ジョブ"を一つ持ち、広大な世界を冒険し、数多の"鬼"を倒すMMORPG。その名も【Taskタスク Ofオブ Demonsデモンズ】。何故このような事態に陥ったのか···。でもまずは―。


 「なんで俺のジョブが弓士(アーチャー)なんだよ!!!クソ地味じゃねーか!!」

 「えぇ!?私が剣士(フェンサー)って!!絶対無理!!」


 このように、各々のジョブに対して喜怒哀楽を容赦なくこぼすクラスメイトたちをどうにかしなければならない···。ジョブには、近距離での攻防に長けた剣士(フェンサー)、遠距離射撃が得意な弓士(アーチャー)、スピード特化の忍者(ニンジャ)、多面的に活躍する魔法士(キャスター)、回復に優れた回復士(ヒーラー)、精霊等を召喚する召喚士(サモナー)の六職があり、戦闘要員はこのいずれかのジョブを持つ。


 《ジョブは、あなたたちの才能(タレント)を基に決定しています》


 頭の中に、直接声が響いた。機械のようにカクカクした口調に少しのエコー。この声は、僕らがこの世界に来てから何度か聞こえている。ガイドのようなものだ。今の説明だと、みんなには、それぞれ才能(タレント)というものがあって、それに基づいてジョブを決定しているらしい。つまり各々が最も戦いやすいようにジョブは決められている。


 ―しかし、才能(タレント)は自分の意思に沿う訳ではないらしく、こうして不満を抱く者が現れる。そしてそれは···。


 「あっ、(はる)!!ねぇねぇ!(はる)はどんなジョブだった?」


 クラスメイトで僕の幼なじみの高瀬(たかせ)夏希(なつき)が、僕、塑通無(そつなき)(しゅん)に話しかけた。彼女は幼い頃、僕の名前の読みを"ハル"と勘違いしてから以来、ずっと僕のことをそう呼んでいる。お気楽で明るい性格をしている。


 「前線を突っきる剣士(フェンサー)?それとも相手を近づけない弓士(アーチャー)?姿を見せずに瞬殺!忍者(ニンジャ)?なになに!?」


 「えっと、僕はね···········」

 「鑑定士(アプレイサー)···」


 そしてそれは···僕とて例外ではなかった。




 どうしてだろう···。才能(タレント)でジョブが決まるのは仕方ない、そう理解はしていたんだけど···。僕のジョブは鑑定士(アプレイサー)。思惑通りにならず不満を吐くどころか、カテゴリーオーバーしててもはや何も言えない···。


 「あぷれいさー?そんなジョブあったっけ?」


 人差し指を顎に当て、首を傾げる夏希。


 「いろんなものを鑑定する人だよ」


 「それって強いの?」


 「さぁ·····」


 ジョブが決まれば、それ用の服装へと自動で着替えられる。夏希は、回復士(ヒーラー)だった。さすがゲームだと感じたのは、その服装。ピンクを基調とした大きなマントが夏希の幅の小さい肩を覆い、その中で、ミニスカートがヒラヒラと舞う。そう、とても魅力的になるのだ。


 「おぉ!!服が変わった!!すごいすごい!」


 夏希はその場でくるくる回転し、喜びを露にしている。周りのクラスメイトを見てみると、男子はかっこよく、女子は可愛く変身していた。そして、僕も―。


 「な、なぁ塑通無。おまえってジョブ何なの···?」

 「うわっ地味···可哀想」


 茶色いコートに小さめのマント。帽子も茶色と茶色づくし。とても戦う人には見えない···。これが、鑑定士(アプレイサー)


 「ハハハハッ!!ダッサっ···」

 「それ戦士っつーか探偵じゃね?」


 変身は、クラスメイトの感傷も僕への罵倒へと姿を変えた。飛び交う笑い、刺さる罵声。これも、鑑定士(アプレイサー)か。いいや、違う。これは僕だ。僕は元々あまり喋らない。みんなには優しく接しているつもりだったが、それは逆に彼らを怒らせたらしい。"わざとらしい態度がムカつく"。これは、僕自身に対するみんなの扱い。


 「ちょっとみんな!寄って集って言うのは止そうよ!」


 ここでいつも、止めに入るのが夏希。幼なじみである僕の、唯一の味方。夏希は天然だから、自分の犠牲なんか微塵も知らない。そうやって助けてくれるのに、僕は何もできない。それが、いつも辛くて仕方がない。


 「唯一こいつの羨ましいことと言えば、夏希ちゃんが面倒見てくれることだよな」

 「まったくだぜ。良かったな、坊っちゃん。ハハハ···」


 僕は···強くなりたい。ちゃんと相手の目を見て話せて、信頼ある人になりたい。そういう点で、僕はここに来てからあたふたしながらも、少し期待していた。活躍できるんじゃないかって。でも、ゲームの中でも変わらなかった。僕は、ただの役立たず。夏希に、迷惑をかけ続けるんだ·····。


 「お前らも大層変わらねぇだろ」


 罵倒の数多を、たった一つの声がかき消した。スポットライトを浴びたのは、冷静沈着で有名な、寒崎(かんざき)冬里(とうり)。彼もまた、普段喋らない性格だが、彼の場合は誰も近づけないオーラが漂っているのだ。沈黙する空間。しかし、ここは教室ではない。


 「···なぁ寒崎。ここはお勉強するところじゃない。力がものを言うんだぜ?」


 三人組が、寒崎君の前に出た。彼らは悪ガキ三人組として名高い。リーダー格の型蔵(かたぐら)昌児(しょうじ)、速さ自慢の即峰(そくみね)辰起(たつき)、低身長の病月(やみつき)駱駝(らくだ)。型蔵君は、背中の鞘に収まる大剣を抜いた。


 「なんだあの剣!でかくね!?」

 「やっぱ型蔵かぁ···」


 寒崎君と型蔵君をステージとし、観戦するギャラリーは型蔵君の大剣に感嘆をもらす。


 「寒崎も可哀想だな···ここじゃアイツには勝てないよ」


 哀れみの目を向け、寒崎君を見るみんな。型蔵君は、大剣をブンブンと振り回す。


 「こりゃあ使い勝手が良さそうだぁ···!寒崎、謝るなら今の内じゃないか?」


 型蔵君の問いかけに応じない寒崎君。それを"戦闘開始"と解釈した型蔵君は、大剣を構えて真っ直ぐに寒崎君に向かって地を蹴りつけた。その時、僕の視界に文字が浮かんだ。


 [型蔵昌児:剣士Lv.1 atk.9 dfs.4 spd.1 mp.0]


 型蔵君から伸びる線の先に、型蔵君のステータスが表示された。


 「これって···」


 「どうしたの?(はる)


 僕の呟きに夏希が訊ねる。しかしそれに答える余裕もなく、次の文字が表示された。


 [寒崎冬里:魔法士Lv.1 atk.6 dfs.1 spd.2 mp:15]


 寒崎君から伸びる線の先のステータス。寒崎君が杖を型蔵君に突き出した。その瞬間、寒崎君のステータスが変わった。


 《魔力を使用した特殊な攻撃方法をまとめてアートと呼びます》


 [寒崎冬里:魔法士Lv.1 atk.11 dfs.1 spd.2 mp.10]


 "mp"の5ポイントが、"atk"に移り、加算された。"atk"とは恐らく"アタック"で、攻撃力のこと。今、寒崎君の攻撃力は型蔵君を上回っている。アート···?ということは―


 「型蔵君!!駄目だ!!!」


 僕は全力で叫んだ。しかし、そんなちっぽけな声は届かず、型蔵君は寒崎君への突進を続行。寒崎君の杖の先に魔方陣の様なものが現れ、そこから炎が吹き出た。型蔵君はかわすことができず、それに直撃。後方に吹き飛んだ。

これから始まる内気な少年の壮大な成長譚、ぜひご堪能ください。

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「その鑑定士、聖剣を握る。」解説
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