16.戦う覚悟
―僕らの避難誘導は、冒険者たちが駆けつけたおかげもあってか、それから順調に進んだ。コモンオウルという中級冒険者パーティーが門に向かってしばらく後、さらに多くの冒険者パーティーがここを通過し、門へと向かった。他の冒険者たちに興味があったから、鑑定をしていたんだけど、また新しい表示があった。それは、パーティー名とパーティーのレベルを基に設定された階級。それから、上下関係を示したランク。今も、門の方の冒険者のステータスが表示されている―。
[トゥリプリス:平均Lv.37 中級 RANK:11]
[リボンズ:平均Lv.34 中級 RANK:12]
[コモンオウル:平均Lv.31 中級 RANK:9]
[ファラウェイ:平均Lv.64 上級 RANK:6]
[ベテラズ:平均Lv.71 上級 RANK:3]
―冒険者パーティーには階級やランクといった、格付けがあるらしい。そうして、緊急時に出動するパーティーを選出しているのだろう。僕のレベルが上がっているのか、敵陣のステータスまで鑑定が届く様になっていた。
[???:魔法士Lv.52 atk.62 dfs.51 spd.45 mp.106 スキル:属性強化]
[???:剣士Lv.46 atk.85 dfs.72 spd.29 mp.40 スキル:大斬響壊]
[???:召喚士Lv.62 atk.73 dfs.54 spd.56 mp.124 スキル:代替召喚]
敵のレベルは、かなり高い。普通に見たら絶望に溺れていただろう。しかし、冒険者パーティーには、それを上回る実力者が揃っている。ギルドで初めて冒険者たちを見たとき、蹴落とし合いなのかとすら思ったが、いざ、戦場をともにすると、とても心強い···。
[―スキル発動:代替召喚···魔力と干渉した無機質な物体と引き換えに、魔力を消費せずに精霊を召喚できる。同時に召喚できる数に制限はない。]
―その時、それは表示された。敵の、スキル発動。そして突然に増える、ステータスの数々。
[火属精霊Lv.20 atk//]
[火属精霊Lv.20 atk//]
[火属精霊Lv.20 atk//]
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「あ゛あ゛ぁっ···!!?」
頭に激痛が走った。僕は鑑定を中断し、両手で頭を抱えてしゃがみこんだ。
「春君!?どした!?」
「春!?」
宮田さんと夏希が駆け寄ってくれた。しかし、あまりの頭痛に返答する余裕もない···。何が原因だ···?頭痛が起こるときにやっていたことと言えば、鑑定くらいだ。―情報過多か?頭痛の直前、視界がステータスで埋まった。そこで終わるのではなく、ステータスの上から上からと、さらに増えていった。つまり―。
「門の方が···危ない·····っ!!」
―門周辺。そこには、精霊が溢れかえっていた。そして、建築物が、跡形もなく全て消えている。まっ平らになったそこと、精霊の数々に冒険者たち一同が、驚愕した。
「ありゃ···。これはすごい···」
「一万···いや、それ以上だね」
冒険者たちはしばらく動かない。しかし、敵は待ってくれない。精霊を召喚したウルーベは、すぐに指示を出した。腕を真っ直ぐ前に伸ばし、人差し指を突き出した。すると、そこに居るだけだった数多の精霊が、一斉に前方に動き出した。
「おいおい···俺らだけで持ちこたえるのは厳しかねーか?」
「言っても仕方ねーだろ!!!やるぞ!!!」
「よっしゃーッ!行くぞッ!!」
冒険者らはすぐに正気を取り戻し、臨戦態勢に入った。
「風属魔法、風強化···」
「スキル発動ッ!!」
リンの魔法と、ラウのスキルにより、冒険者全員に風による強化がなされた。次に行動を起こしたのは、ファラウェイ。現地から少し離れた弓士四人が、強化された矢を放った。それは、精霊一体と相殺するどころか、何十もの精霊を貫通し、倒した。勢いを弱めず、トゥリプリスとリボンズが追撃に入った。風で強化された剣撃は、その軌道に風を乗せ、飛んでいく。
「せっかく召喚したんだ···無駄にはできないぞぉ···。俺らも行こうかぁ」
ディアと、レブサーも動き出す。レブサーは、炎弾を放った。
「魔法防壁ぉっ!!!」
タジーラのシールドが、炎弾を消した。しかしすぐに、それは先頭に躍り出たディアによって破られ、ディアは追撃を構えた。それを受けたのは、ベテラズの剣士。剣と剣が交わる。大剣の一撃を上手く止めた。
「いやぁ、すまないね。こんなオッサンで···。本当は美少女とかが来るのを期待したろうに」
「何、俺の容姿で美少女に巡り会えるたぁ思ってないぞぉ···。お互い辛ぇなぁ」
「ほんっと、そうだよっ······!!!!!」
ベテラズの剣士の剣は、大剣を弾いた。大きく後方に下がるディア。しかし―。何故か、ベテラズの剣士の剣にひびが入った。
「···お?」
「あぁそれ···俺のスキルなんだぞぉ···。言い忘れてゴメンねぇ」
剣の破片が、地面に落ちた――。
ベテラズの剣士は、後方に退いた。欠けた剣を握って。ディアのスキル、"大斬響壊"は、大きな剣撃により生じた響きが、干渉したあらゆる物体を破壊するものだ。一撃でいくつもの建築物を容易に破壊できたのも、これに起因する。
「なかなか良いスキルじゃないか···。是非ベテラズにスカウトしたいもんだ」
ベテラズの剣士は、欠けた剣を見ながら言った。
「塑通無君···避難誘導、終わったよ···?」
物理的に頭を抱えこむ僕に、古賀さんが言った。ちらとそこを見ると、最上君やミク、クティも集まっていた。···次の行動を···考えなくちゃ。僕は立ち上がった。
「塑通無、こっからどうする?先輩サポートしに乗り込むか?」
最上君が左手のグーを右の広げた手に強く押し当てた。今、敵の数はとてつもないことになっている。僕たちよりも高いレベルの召喚精霊だ。それに加え、高レベルの敵三人。戦況が怪しくなってきた。しかし―。
「···僕らじゃむしろ足手まといになる。みんなと合流して、ギルドに報告を―」
僕は、言いかけたそれを止めた。···何か、音が聞こえるからだ。ドドドッ···と。個体というより、地面に音が響いている感じだ。そしてそれは、みんなに悪寒を感じさせた。
「お前ら!!無事かぁぁ!?」
ギルド側の方角から、型蔵君の声がした。そこを見ると、クラスのみんながこちらに来ていた。他の二ヶ所も避難誘導が終わり、こちらに来たようだ。音の正体がこれなら良かったのだが、それはどうやら違ったらしい。
「おい···なんか煙が近づいてないか···?」
背戸君の呟きに、みんなは門の方を見た。建物が連なる奥に、煙があった。···炎?そう、あれは炎による煙だ。しかも、それは少しずつ近づいている。風で運ばれているのではない。煙の出所が近づいているのだ。鑑定をしたいが、今は精霊の数で頭が耐えられない。あれは一体なんだ···?
「まさか敵が冒険者を掻い潜ってこっちに···」
フェミアがそう言った。
「しかしあの数の冒険者から逃れるとは考えにくいのじゃ···」
クティがそれに反応した。クティの言う通りだ。あの数、しかも全員高レベルの冒険者パーティーをすぐに倒せるとは思えない。掻い潜るにしても同じだ。簡単な話じゃないはず···。―いや、待て。確かあの精霊の種類は···。··········!!!
「こっちに敵が来る!!火属性の精霊だ!」
僕の叫びに、みんなが驚愕を見せた。あれだけのデルハツの冒険者を目の前にして、普通考えられないことだが、鑑定士である僕がそう言った。みんな、信じた。
「おいおい···それじゃあ、このバカ広ぇ範囲の煙が···全部そうだってのかよ···」
型蔵君は、目を丸くし、煙を見つめながら言った。そう···全て、敵の精霊だ。レベルは20だったはずだ。つまり、僕らよりも強い。そんな精霊が、幾千、幾万も居るのだ。これは、絶望的···。煙は―精霊は近づいてくる。そしてついに―。
「敵が見えたよ!!!」
夏希が指を差した先に、赤い狼の様な精霊が姿を現した。奴は―いや、奴らは、激しくギルドに向かって走っていた。勢いがとてつもない。建物を正面から破壊し、跡に火を残しながら、突進している。このままじゃ僕らも下敷きだ。
「弱い人!!あいつらこっちに突っ込んでくるよ!?」
―ここにはミクや、フェミアも居る···。僕らが助けると言ったその人らだ。ここで何もできずに終わらせたら、申し訳ないことこの上ない···。くっ·······!!!僕は、バチンと両手で自分の頬を叩いた。
「無責任もいい加減にしろよ、役立たず!!!!!!!」
突然おかしなことを叫びだした僕に、みんなは感嘆符と疑問符を同時に浮かべた。···僕が、ここで僕が動かなきゃ、一体何のための力だ·····!!!!!
「みんな、ここから逃げて」
「えっ?」
「ちょっと、行ってくる―」
僕は、精霊の群れに向かって走り出した。全力疾走。夏希の「えっ?」という声が脳内に響き続けた。何をするのか、という疑問と不安が混じった、少し震えた高い声だ。本当に申し訳ないけど···いい加減示しつけなきゃだから。僕が死にかければ、聖剣が現れる。自由に使わせてもらえない?···上等だ。だったら無理やり使ってやる!!!
―僕の全力疾走なんて全く大したことない。でも、精霊のスピードはすごい。もう百メートルとかそのくらいだろう。死んでやる――!!!!!
グシャッ·······!!!!!!!!
―肉が、引き裂かれる音が聞こえた。腹が熱い···。ドクドクと腹から生暖かい、ドロドロの液体が流れてくる。全身の力が·····抜けていく―。僕は、倒れた。··········ああ、景色がぐちゃぐちゃだ。あまり、痛みを感じなかった。
[スキル発動:全知全能――]
―ふと、感覚が消えた。暖かさも、音も、匂いも、全てだ。目に映るのは、無色に広がる世界だ。···さぁ、聖剣のお出ましだ―――――――。




