14.建築、炎の中に
僕は、言った。ギルドマスターの表情は、変わらない。
「これは、私一人が関わる話じゃない。"国の反逆者"、ということになるぞ」
「―構いません。立場の違いで権利も違うのは、どうかと思います」
どうしてこうもすらすらと言えるのか、僕にも分からない。頭の片隅に思った。これは、取り返しのつかないことをしてしまった、と。
「そちは、何を―」
「塑通無」
「えっ?」
「僕の名前は塑通無春だよ、クティ」
それでも、クティを助けたいという気持ちの方が何倍も強い。僕はどうなったって―。
「··········やれやれ」
いっとき後、ギルドマスターのため息が聞こえた。
「―今回の件は見逃す。クリスティア·フローレンは君たちに委ねる」
ギルドマスターは、目を瞑っていた。この瞬間、罪悪感を感じた―。
―春とクリスティアの退室後。ルイゼは、席を離れた。
「それすらも選定基準ということか···。塑通無春。君は、辛い道のりを辿る···」
そう呟いた。
―すぐに話は終わったので、僕とクティは外で待ったみんなと合流した。
「春、結構呼び出しされちゃうね···」
夏希が寄って来て、言った。そして、まるで小学校の先生の様に、片目を瞑り、人差し指を立てた右手を顔の前で振って···。
「何か悪いことしてるんですか?」
「いえ先生、全然そんなつもりはないんですが···」
「次から気をつけてくださいね?」
「はい····気をつけます」
「···そちたちはさっきから何をしてるんじゃ?」
クティのツッコミ(?)により、クラス内に笑いが生じた。···"そんなつもりはない"と言ったけど、まぁ実際今回はかなり悪いことをしてしまった。もちろん正しいことだと思っているけど、一途なそれだけじゃ世の中は成り立たない。相当、ギルドマスターに迷惑かけただろう。本当に、これから気をつけなきゃ···。
「―そういうことじゃ。これからよろしく頼むぞよ!!」
クティは、ギルドマスターの指示で、僕らが面倒を見ることになった。実力はすごいけど、まだ十四だし、いつ誰が襲ってくるかも分からない。僕も、言った以上はやりきる。
さて、僕らはまた宿を探す。同じ宿でも良いのだが、宿屋側はいろいろな客を寄せて、世の常を知り得るのだと···。という訳で、新しい宿屋を―と話し合いの中、変わった意見があがった。
「自分たちで作っちゃおうよ!!」
女子の一声だった。
「「はぁぁぁぁっ!!?」」
酷く叫ぶ男子たち。それは、住み処を自分らで建てるなどと言っているのだから、無理もなかった。一体、何を根拠にそんなことを言っているのだろうか。
「まったく、あんたたちだけで主人公ぶってんじゃないわよ」
「私たちだって、夜なりなんなり時間作って、結構考えてるの!」
女子の言い分はこうだ。"私たちもいろいろと調べた。お前たちだけが活躍してると思うな"と。それで、女子が空いた時間を縫って調べたのが、そのことらしい。
「家は結構ふんわり作れるらしいわ」
女子の中でも行動力が高く、リーダー格でもある日比野花戀が言った。彼女は、結構口が強かったりするが、信頼のおける良い人だ。そんな彼女の言葉な訳だが···。
「いや。"ふんわり"って何だよ」
珍しく曖昧な表現をしていた。最上君が質問。
「そこを訊いたらおしまいでしょ。その辺はふわっとさせとかないと」
―男子は黙りこんでしまった。よもや、日比野さんの様な人材まで"物語の裏"を使うとは···。まぁともかく、そこら辺は触れない方が良いらしい。
「よし、僕らも協力しよう!」
学級委員相澤君のかけ声とともに、全く流れの理解できないまま、僕らの住宅の建設が始まった―。
―それから。
「できたぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
何をどうしたのか、本当に家が完成してしまっていた。それも、一人一人の個室があり、入浴場もリビングもしっかりしている。デルハツのどこかで、材料をどうにかして、建設をどうにかして、時間をどうにかして、完成した。··········全然分からない。
「魔力がある世界よ?家くらい簡単にできるはずでしょ?」
((そんな曖昧な理屈で終わらせてはいけない気がする···))
―そんなこんなで、僕らは安定の寝床を手に入れた。もう夜遅く、みんなに何かする体力など残っていなかった。各々個室に入り、睡眠をとった―。
―翌日。僕は、何かの音に目覚めた。ゴォォゴォォと、そんな音だ。瞑れた目を擦り、僕は窓から外を見た。今は朝のはずなのだが、それは、赤く輝いていた―。
「なっ·············」
赤い輝きは、炎だった。周囲の建物が、燃え盛っている。よく見ると、人がせっせとどこかへ走っている。ギルドの方だ。僕は、急ぎリビングに向かった。
「おい塑通無!見たかよ外!!!」
「ちょっとどうなってんの!?」
「どこも燃えてんじゃねーか!!」
みんな、焦っている。何せ、訳も分からず火の海の中に居るのだから。
「みんな、落ち着いてくれ!!!!そんなに騒いだら余計に―!!!」
相澤君が一生懸命に声をかけるが、みんなの耳には届いていない。
「春ぅ!どうなってるの!?」
「···分からない。でも···危険なのは確かだよ」
―ギルド上層部。
「敵陣だと!?」
「間違いない。空からの炎撃で、門周辺の建物は燃えている。この近くに火属魔法を扱う鬼は居ない」
「すぐに冒険者を収集しろ!!!現地付近の冒険者には住民の安全を確保だ!!!!」
―僕らは、危機に陥っていた。
僕の精神は、他のみんなよりも落ち着いていた。それは、鑑定で炎とこことの距離を測れていたからだ。炎は、デルハツの門周辺に集中している。そして、炎は魔法だ。ここは、門から結構離れている。大体、ギルドと門の中間くらいに位置している。炎は徐々に拡大しているが、ここにはまだ届かない。僕は、外を確認した。
門の方は、真っ赤に染まってしまっている。ここまで火花と煙が届く程だ。そして、その上空には何か、赤く、人の影の様なものが分かった。火の元はあそこだ。つまり、これは―。
「敵襲だぁぁぁぁぁっ!!!!!ギルドに逃げろぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」
押し寄せる住民の波。一般人のみんな、避難をしているんだ。
「春!これどうなってるの!?」
夏希が玄関からやってきた。顔を少し青くし、涙目で、肩も震え、とても怯えている。心配をかけちゃいけない。
「夏希、みんなでここから―」
《全冒険者に通達です!!至急、ギルドに集合してください!南門周辺の低級冒険者は住民の避難を、上級冒険者は敵陣の対応に当たってください!!》
町中が大混乱の中、その声は脳内にはっきりと通ってきた。―ガイドさんだ。ギルドの方から命令が出たのだろう。
「春···これって···」
「うん···。僕らにも命令が来たんだ···」
僕らは、急いで中に戻った。みんな、ガイドさんの声はよく聞こえていたらしい。先程までの混乱じゃない。
「怖がってる場合じゃねぇな···」
型蔵君の覚悟は、みんなも同じように持っていた。
「僕たちは冒険者だ!住民の避難に当たろう!パーティーごとに分かれ、ギルドへ誘導してくれ!」
学級委員の声に、一同は「了解」で返事。装備を整え、外に出てからパーティーごとに分かれた。パーティーの数は三組。門側と、ここ、ギルド側の大きく三手に分かれて行動をする。僕らのパーティーが避難誘導に当たるのは、門側だ。冴霧君によると、鑑定でいち早く情報を共有するためだと。僕の鑑定は遠くまで有効だけど、近い方が多くの情報を得られる。
今回は、最も敵陣との距離が近く危険ということで、クティが僕らのパーティーに入った。本当は敵陣から離したいところだけど、他のみんなは事情を知らないし、僕が勝手に助けると決めた。だから、これでいい。
「みんな、住民を怖がらせてはいけないから、なるべく武器は使わないようにしよう。もちろん、生命最優先で万が一の使用は考えてくれ」
冴霧君の注意は聞くに越したことはない。僕らは各々の担当区へ赴いた―。
―デルハツ、南門。上空。
「ここ、こここ、ここらは、燃や、やした。剣士、行け···」
上空に浮遊する炎をまとった人間の命令で、地上に整列して待機した幾千もの剣士は一同に動き出した。先頭には、一際目立つ武装をこらした剣士。
「レブサー、これまた派手にやったぞぉ···。俺らそんなに強かねぇのによぉ、向こうも一貫の危機と錯覚しちゃうぞぉ···」
そう言いながら、右手に構えたまともな成人程のサイズをした大剣を、右に振りかざした。途端、そこにあった家々が、崩れだした。右手十軒は崩れ落ちたであろう。さらに炎は強まった。そして、剣士らはデルハツ中に駆け出した。
―デルハツ、ギルド。そこでは、既に数十組の冒険者パーティーが集まっていた。その中の、一人の男は言った。
「随分嘗められてるな、ここも。これは敵方に一つバシッと言い聞かせるチャンスだ」
「そうだそうだ!デルハツ冒険者嘗めるなよ!?」
彼らは、門から遠いところに居たため、敵襲としか聞き及んでおらず、その実力を全く把握していなかった―。
―デルハツ、王城。ここもまた、混乱が巡っていた。王室には、国王エミドレと、その側近であるデレッファが居た。
「デレッファ、敵はどこまで進行しているのかな」
「はい、まだ門周辺で停まっています。住民の避難も順調です。ギルドも行動を始めているので、問題ないかと」
「油断はいけないよ。僕は一人にだって死んでほしくないからね。全力で迎え撃つよ」
「―みなさん!!この道を通って避難してください!!」
「急ぐのじゃ!!」
僕らは八人も居るのだが、混乱のせいでなかなか指示が通らない。みんなどこに向かって逃げれば良いのか分かっていない。
「ねぇ弱い人!!全然聞いてくれないよ!!」
ミクがピョンピョン跳びはねながら言った。···どうにかしないと、ここは一番敵との距離が近い。住民との接触だけは避けたい。僕は敵の様子を鑑定した。
···空中の炎の影は停止している。一方で、地上の兵···全員剣士だ。そいつらが炎で燃えている範囲をさらに攻撃している。一体何が目的で···?これじゃあまるで片っ端から粉々に破壊しようと言わんばかりだ。その分、進行速度は遅い。まだ大丈夫か···。
「みなさん!!!こっちです!!この道を真っ直ぐ進んでください!!」
やはり、効果が薄い。どうすれば·····。
「―もう心配は要りませんよッ!」
―何処からか、声がした。――空だ。上空に、複数の人影がある。
「中級冒険者パーティー、コモンオウル!現着ですッ!!」




