0.リスタート
内気で優しい主人公が鑑定スキルと聖剣で王道なファンタジー異世界を駆け抜けます!
『Task Of Demons』。それは、十数年後に大人気となる、MMORPG。魔力のある世界で、人が鬼と激しい競争を繰り返すゲーム。ジョブ、即ち職業の自由、大人数で競う冒険者パーティーのランキング、迫力ある戦闘····などが評価される。製作者はもうひとつ、現代では考えられなかった機能の開発に成功した。それは、常識を超越するものであった―。
とある中学校の、卒業式。卒業生である三十九人が、最前のパイプ椅子に行儀良く腰かけている。ステージでは、来賓の一人が祝辞を述べている。春の訪れを示すのか、少し暖かく、卒業生の幾人かは、睡魔と葛藤を続けているよう。
そこに、塑通無 春は居た。笑顔で、しかし寂しさを隠さない素直な表情。彼は、この学校でたくさんの思い出を紡いできた。その、最後の時を、噛みしめていた。
「―これからの、君たちの輝かしい未来を期待して私の、祝辞の言葉とさせていただきます―」
体育館に拍手が響く。そうして、卒業式は進む。
「―卒業生、退場」
卒業生は盛大なBGMを背景に、体育館中央を通り、大きく開かれた扉から、退場していく。真剣な表情をする者もいれば、涙を堪える者、笑顔をみせる者····。華やかな雰囲気で、卒業式は幕を閉じた。
「――さあ、幸福のためのやり直しだ――」
卒業式の後、教室にて色々を済ませた春たちは、解散する。彼らの、中学生としての集団は、終わったのである。これからは、各々が目指す夢のため、異なる道を行く。
春には、それが惜しかった。春には過去がある。彼にとっては、人生を諦めることにだって十二分な、辛い過去が。それを乗り越え、今、ここに満足して生きているのも、クラスのおかげだと感じている。
決して縁を切るという訳ではないが、日常的でなくなることが、春には惜しかった。
春は、彼の母とともに徒歩で家へ帰る。その一方、学校付近では―。
「これで九人目····」
卒業生の前に、黒いスーツとマスクを着けた男が立つ。
「どうかしましたか――ッ!?」
男は卒業生に拳銃を向け、間もなく射殺。術なく卒業生の一人は倒れた。すぐさま、倒れている卒業生の頭を掴み、近くに止めてあるトラックに乗せた。そこには、既に八人の卒業生が乗せられている。いずれも殺害されていた。
男はこうして、次々と卒業生を射殺し、トラックに乗せていった。音を聞いた学校の職員や、地域の人間が動くが、その素早い犯行に、男は捕まえられなかった。
「いよいよだよ、僕····ハハハッ」
春は、時折聞こえる音が、クラスメイトを殺害する銃声であるなどと、思うはずがなかった。春が歩くそのすぐ後ろに、男は立っていた。
「全ては僕のため。これで、幸福な未来が訪れるんだ····。さあ、幸福へ·········行こう」
男はそう言い、春に銃口を向ける。瞬間、春はふと、後ろを向いた。そうして、感嘆の表情になるが、既に、銃弾が春の額を貫いていた――。
《記憶の上書きに成功しました。記憶移行を実行します。········完了しました。続けて、入力されたデータを元にベースを復元、NPCを作成します。········成功しました。》
《これらの記憶を使用し、『Task Of Demons』を起動しますか? YES or NO 》
《YESが選択されました。起動します。しばらくお待ちください。》
―春は目覚めた。そこは、見たことのない森林。そして付近には、春のクラスメイトらが倒れていた―。
《意識の再起動を確認。プログラムにより、ガイドを開始致します。····おはようございます。》