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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第2章 Information are intertwine
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13.クティの意向

 ―寒崎君は、きっと何かに気づいている。今の僕に理解できなくて、寒崎君だけが知っている。当然、それ以上のことは考察できない。そうやって、寒崎君の消えた空をぼっと眺めていると―。


 「(はる)!!」


 僕は振り向いた。夏希がこちらに走ってきていた。馬車を覆っていた木の幹が、全て消えていた。御者さんは、馬車のすぐ横に横たわっていた。完治だ。あの深く矢が刺さった傷口が、完全になくなっていた。血痕まで消え、服の繊維もすっかり元通り。リーファさんは、すごい回復士ヒーラーなんだ···。あれ、でも·····。


 「女の人は、どこに?」


 リーファさんのことを尋ねたのだが、夏希の表情ははっきりしない。どう見ても、心当たりがない様だ。


 「何?女の人って。··それより(はる)、聞いてよ!御者さんの傷口が急に消えたんだよ!?それまで出血を抑えるので精一杯だったのにだよ!?」


 夏希の表情は、困惑から関心のそれへ急変した。僕も聞き捨てならないことを耳にした。傷口が急に消えただって···?それは、間違いなくリーファさんだ。しかし、夏希はリーファさんを知らないどころか目にすらしていないと言う。姿を見せずに一瞬で傷を消し、且つ、僕らにも悟られずにその場を去ったと言うのか···?ますます、寒崎君とその周りは底が知れないよ···。


 「それは···不思議だね···。でも、夏希と御者さんが無事で良かったよ。ミクとクティは?」


 「それなんだけど···」


 僕と夏希は、馬車へ向かった。



 ―そっと馬車の座席を覗いてみると·····。なんと、ミクとクティがぐーっすりと眠っていた。見事にすやすやとのんびり呼吸が聞こえる。幹で覆われていたとはいえ、あれだけの騒動があった中で平然と眠っていた。これも···リーファさんの、おかげ·····?


 「おーい、ミクちゃーん!クティちゃーん!」


 夏希が呼びかけてみるが、全く動じない。······単に彼女らの睡眠力が高いだけの様だ。さて、いろいろと気になる点は残るが、ひとまずこの馬車の全員の安全確認は取れた。ここがどこかも、他のみんながどこなのかも分からない。もしかしたらみんなにも何かあったのかも知れない。―鑑定···。


 ―マップが更新された。ここは···氷山からデルハツと逆方向に進んでる!?みんなは―既にデルハツだ。あの冒険者は僕ら―否、その内の誰かを、一体どこに連れていこうとしたのだろうか···。とにかく、合流しないとみんなを心配させてしまう。


 「デルハツに戻ろう」


 「そうだ!みんなが心配だよ!!」


 心配するのはみんなの方なんだろうけどね···。


 「―う···、私は一体···」


 「「御者さん!!」」


 御者さんも目覚め、僕らは馬車に乗り、デルハツを目指した。





 ―とある街の暗がり。男たちは話していた。


 「いやぁ、まさか日輪まで動いてたとはね···あの回復士ヒーラーはまずいでしょ···。それに加えて全属性持ちだよ。参った参った···」


 「すまない。俺が判断を誤ったせいだ···俺が隙を突かれたから」


 「なに、君たちはよくやってくれた。クリスティアの存在を確認できたのだから」


 「うちのボスは優しくて助かるよ。普通ならクビだろうに···」


 「先代が厳し過ぎたんだろう。私は私のやり方でこの集団を大きくするよ。何より、君たちの協力は必須だからね」


 「次は必ず成功させる」


 「ああ。きっとこの集団なら、世界観を変えられるさ」





 ―テレシーア氷山、日輪兵団。彼らは、既に極寒鬼の殲滅に中っていた。日輪兵団から、目視で百体以上だ。


 「うじゃうじゃっすねー」


 ある召喚士サモナーは言った。日輪兵団の兵士の数はおよそ三十。数的には圧倒的に不利だ。極寒鬼はレベルも高い。


 「いや、この程度ならお前だけでも十分だろう」


 「団長、冗談キツイっすよー。俺の精霊だと精々六十くらいしか倒せませんよ」


 そう言いながら、召喚士サモナーは召喚を始めた。空から現れたのは、鬼だった。特徴は、恐鬼に近い。それが、十体程だ。本来の恐鬼のレベルであれば、極寒鬼の一体も倒せはしない。しかし―。


 「俺のデモンズ、兵士の士気を上げろ!」


 鬼は、極寒鬼の群れに向かって走りだした。極寒鬼は、手を前に振りかざした。すると、極寒鬼の後方から、とてつもない吹雪が襲ってきた。かすってもその部位は凍結するだろう。鬼に立ち止まる様子はない。ただ、右腕を後ろに引き、一斉に前に突きだした。なんと、そこで起こった風圧のみで吹雪をかき消した。そして勢いは止まず、素手で極寒鬼を殴り倒していく。


 「さ、みんなもこれに続けー!!」


 兵らは前進を始めた。剣士フェンサーを先頭に、攻撃が始まった。ウィリウムは、後方でその様子を眺めていた。


 「ただいま戻りました」


 リーファが到着した。


 「ご苦労。引き続き頼むぞ」


 ウィリウムの声の数秒後に、空から影が降ってきた。冬里だ。


 「無事にそろったっすね。そんじゃ、さっさと片付けますよー!」





 ―もうどれだけ経っただろうか。テレシーア氷山からデルハツと反対方向に僕らは居た訳だから、当然移動時間も相当なものだ。マップを確認すると、ようやくテレシーア氷山とデルハツの中間程に居ることが分かった。身体中がぐったりとしていて、力が入らない。隣では、夏希が景色を眺めている。そして、未だにミクとクティは眠っている。


 「ミクちゃんにクティちゃんはちゃんと夜寝てるのかな···」


 夏希が、景色に向けていた視線をミクとクティに移して呟いた。


 「どうなんだろうね···」


 よく考えてみれば、ミクには元々ちゃんとした寝床がない。クティの方も今朝早くから宿を出ていたし、転々と宿を変えているみたいだから、結構大変なのだろう。そう思うと、この異様なまでの睡眠力は納得できないでもない。


 「なんならこのまま起きないで、何事もなかった様にできると良いかな···」


 苦笑混じりに僕は言った。余計な混乱は避けたいし···。


 「そうだね··」


 夏希も、笑顔を見せてくれた。





 ―数時間後。僕らはデルハツに帰着した。馬車から降りると、横から差しかかる赤い日差しを受けながら、クラスのみんなが出迎えてくれていた。みんな、手を振ってくれている。


 「ふぁぁぁっ·····」

 「···もう、着いたの···?」


 二人も、ちょうど目を覚ました様だ。御者さんにしっかりお礼をして、僕らはみんなの元へ戻った。みんな、それぞれに口を開いていて、何を言っているのかよく分からない程···。それだけ心配をかけていたんだ。ちゃんと謝らないとな···。よく見渡すと、そこには国王とギルドマスターも居合わせていた。


 「どうして、お二方が?」


 僕は学級委員の相澤君に訊いた。


 「ああ、ギルドマスターが教えてくれたんだ。君たちがちゃんと戻ってくるって。最初はどうしようかとみんなで慌てたものだ。二人には何とお礼を言えばいいか···」


 「ギルドマスターが···?」


 僕は、ギルドマスターの方に焦点を合わせた。すると偶然か、目が合ってしまった。あの顔だ。目を逸らしても不自然じゃない·······よね!?しかし、何故僕らが戻ってくると分かったのだろう···。予知能力か···?―まさか。それじゃあ最強無敵だ。僕は、ギルドマスターの方へ行き、一息に訊いた。


 「どうして僕らが戻ってくると分かったんですか?」


 「やっぱり気になるよね!!!」


 何だろう···。国王が会話に食いついてきた。そして、僕はまだ何も答えていないのに·····。


 「ルイゼはね、何でも分かっちゃうんだよ!彼も元は冒険者でね―」


 「エミドレ、無駄話はよせ」


 「良いじゃないか!それでね、ルイゼは唯一僕でも倒せない強敵ライバルでもあったんだよ」


 国王の止まないギルドマスターの昔話、ギルドマスターも嫌がっていたから聞き流そうとしていた。しかし、絶対に抜かしてはいけないことを聞いてしまった。"国王が勝てない"···?


 普通なら、"ギルドマスターは強いんだ"という印象を受けて終わりだろう。だが、僕は知っている。国王がどれだけ強いのかを。僕は一度国王と手合わせをした。国王は、光属魔法ライトマジックを扱う魔法士キャスターだ。最終的な結果は曖昧だが、彼の強さは尋常ではない。速すぎるんだ、攻撃の全てが。それが、勝てないと。一体何者なんだ、ギルドマスターは。


 「もう良いだろう。諸君ら、疲れているだろうが、ギルドまで来てくれ。何があったかの報告が必要だ」


 ギルドマスターの一言をピリオドに空気は変わり、僕らはギルドへ向かった。





 ギルドに向かう道中。ギルドマスターは、僕の横に並び、周りに届かない程の小声で言った。


 「君たちは、いや、君はクリスティア·フローレンの素性を知っているか」


 「えっ?」


 クティは、地を転々としていて、はっきりした所在は分かっていない。そういうことじゃない、僕が疑問符をあげたのは。


 「クリスティアを知っているんですか?」


 僕はギルドマスターに聞き返した。僕は、クティのステータスはみんなに伝えた。しかし、名前は伝えていない。それは、クティの情報を鑑定したとき、ある情報が出ていたからだ。


 [クリスティア·フローレン:忍者Lv.//――――フォエンド王国次代女王]


 クティは、フォエンド王国という国の次代女王だという情報が。鑑定で、誤報があったことは一度もない。これは本当だろう。この名前は広めちゃいけない。そう直感し、僕は名前の公表を控えていた。しかし―。


 「君は懸命な判断をした。クリスティアはこちらで引き取らせてもらう」


 ギルドマスターは、疾うにクティのことを見抜いていた。そして、引き取ると。後方で、クティとみんなが楽しそうに話すのが背景に聞こえた。クティを保護することは、国にとって正しい行為だろう。僕らにとってはどうなのだろう。―思考を巡らせると、そもそもどうしてクティが国を離れて、ある地、ある地を転々としているのか、という疑問にたどり着く。


 「クティには···何かあったんですか」


 僕は、ぼそっと呟いた。クティが王国の孫娘で、後継者なのは分かっている。―しかし、なんでか、諦められなかった。


 「さあな。しかし、それ以上君たちは踏み入っちゃいけない。―この情報ことを知っているのは君だけか···?」


 「···はい。僕だけです」


 会話は、そこで終わった―。





 ―ギルドにて、僕らは今日起こった出来事を報告(主に僕と夏希が)した。クティの件よりも、僕と夏希、クティ、ミクが襲われたこと。


 「ルイゼギルドマスター、これは···」


 上層部の人たちの一人が言った。額に汗を伝わせている。それは相当焦っている様にうかがえた。対するギルドマスターも―。


 「ああ、間違いないだろう。目をつけられたか···」


 ···またも、僕らは何か大変なことに巻き込まれたらしい。なにがなんだか全く分からないみんな。キョロキョロとしている。まともに状況を把握しているのは、恐らく僕だけだ。謎の冒険者二人、いや、もしかしたらまだ居たかも知れない。一番は、あの魔法士キャスター。魔法の規模が大きすぎる。壁外からの情報を遮断する地属魔法の範囲が、軽く半径百メートルはある。相当な魔力と実力が必要なはずだ。


 「諸君らもご苦労だな。今回も、報酬は多めに出させてもらう」


 こうして、解散―。





 「なんかよく分かんねえけど···金が増えたから結果オーライじゃね?」

 「だよな。難しいこたぁ、上層部うえに任せら良いしな!」

 「ささ、疲れたから宿行こーよ!!」


 僕らはギルドから出ていく―。


 「少し残ってくれ。塑通無君、それからそこの少女」


 ギルドマスターは呼び止めた。僕と···


 「―わらわのことか?」


 クティを。





 みんなは先にギルドを出た。上層部の人も、ギルドマスターによって一時退室。もう、何度目だろうか。クラスでその内の僕だけがギルドに残されるのは···。違うのは、クティが居ること。


 「君は、クリスティア·フローレンで間違いないね」


 ギルドマスターの確認に、ひどく驚いた様子のクティ。愕然とした表情は、すぐにギルドマスターを睨む大型犬の様なそれに変わった。


 「どうして、わらわのことを知っておるのじゃ···」


 クティの鋭い眼差しに、全く動じず、ギルドマスターは言った。


 「君を、国で引き取る。野放しにはできない」


 ギルドマスターの、低く、ずっしりと重みのある声は、クティの額に汗を伝わせた。隣で聞いているだけの僕ですら、すごみを感じる。


 「フォエンド王国は君を探している。我々が君をフォエンドへ差し出せば、それは良い交渉材料だ。フォエンドは莫大な地や金を所有しているからな」


 ギルドマスターの言っていることは、"良いこと"なのか、"悪いこと"なのか。子供の僕には全く理解できた話じゃない。けれど―。


 「クリスティアの意志を···尊重することはできないんですか」


 僕の口は動いた。何をトリガーにそうなったのかは分からない。最近この世界に来てからこういうことがしばしばだ。こんなこと、柄でもないんだけどな···。


 「意志の尊重は心がけたい。しかし、王妃ともなれば話は変わる。国が動くからだ」


 少なくとも、ギルドマスターは国を考えての言動をしていることに違いはない。けど···クティがこうして冒険者をしてるってことは、何か事情があるはずなんだ···。だから―!!


 「わらわは···」


 僕の頭が混乱する中、クティの一言が部屋中に響き、意識は全てそこに寄せられた。


 「あんなところに帰る気などないのじゃ!!わらわは······、自由に生きたいッ!!」


 「クティ···」


 ―それは、単純な理由だった。"自由に生きたい"。当たり前の様に聞こえるが、国王の元で育ったクティには、遠いことだったんだ。僕は、今何をすべきか。そんなこと、とっくに分かってるだろう!


 「クリスティアを―いや、クティを自由にしてください」

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