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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第1章 Encounter and reunion
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追憶-1

春たちの、元の世界での過去です。後々重要になります。AS同様、2000字程度になります。

 塑通無春―十二歳。彼の通う亜駑辺中学は、比較的在校生徒が少なく、一クラス二十人程度だ。なので、入学式や卒業式、その他の行事も少々寂しげだ。それは、春の住まう地域の住人の少なさからも影響している。また、住人の少なさも、別のことから影響したことだった。


 ―塑通無家。今日は、春の入学式が行われる。高校生ともなれば、普通の高校の入学式はもう冷めたものだが、小学生はまだ純粋な部分もあり、中学の入学は目の光るものがあるだろう。しかし、春の瞳はすっかり輝きを失っている。そういう性格をしている訳ではない。元は、心優しい少年だ。


 「今それを考えても仕方ないでしょう?折角の入学式なんだから、明るくしなさいな」


 無表情にトーストをくわえる春に、母は言った。「うん」と呟く様に返事をするが、変化は全くない。彼には、それだけ悩ましいことが脳内をさまよっていた。それは、終わりなきルートの道に入ってしまっている。


 彼は、徒歩で通学を行う。通学時間は約十五分。その日は春と母とで登校をした。想う絵図では、行く道行く道に鮮やかな桜を満開にし、桜吹雪を浴びたいところだが、今年は少し冷える春で、良くても木の隅にポツリと桜が咲いているくらいだった。校門まで来たところで、母は足を止めた。


 「はぁぁぁ··緊張する···。春!ほら、写真写真!」


 ボーッと進んでいく春を呼び止める母。母は人差し指を入学式の看板に立て、春を誘導した。無表情でそこに立つ春。「笑いなよ」と母は言うが、その表情は変わらなかった。仕方なくシャッターを切る母。


 「頑張りなさいよ?」


 「···うん」


 それからの会話はこれだけだった。





 「―なので、―つまり、―ください」


 校長の二十分弱の話から解放された新一年生の表情ときたらそれはもう、牢から放たれた囚人の様だった。しかし、その一人だけが、何事もなかったかのように無表情で居た。新一年生らは、入学式の後、教室で説明がある。





 だて眼鏡をした特に目立つところもないどこにでも居そうな先生は話す。


 「さっきも説明があったように、この学校ではクラス替えがありません。協力し、ええ···まぁ、将来を見据えてしっかり勉学に励みましょう」


 簡潔に、何か笑いがある訳でもなく、それは終わった。「解散」とそれだけ言われ、クラスメイトは共に学ぶ新たな仲間との親睦を深めている。一方で、春は黙々と帰宅準備をし、教室を出た。


 「待ってくれ!」


 廊下を行く春の背に、声が当たった。春は、後ろを振り返った。教室のドアから顔を出す男子。右手を上下に振っている。真顔で春は教室に戻った。


 「僕らはまともな自己紹介もしていない。三年間共に過ごす訳だし、名前だけでも覚えておこうよ!」


 リーダーシップをとるその男子に、テンションを乗せるクラスメイト。彼は早速自己紹介を始めた。


 「僕は相澤仁志。みんなと仲良くなれるよう頑張るよ」


 盛大な拍手が上がった。同時に、クラスメイトは一言一句違うことなく思った。"彼が学級委員を引き受けてくれるだろう、彼が面倒ごとを引き受けてくれるだろう"と。しかし、相澤に感動したことには違いない。そして彼は、中学生活において大いに活躍することとなる。


 トントンと自己紹介は進み、春の出番が来た。彼は、少し悩んだ後、口を動かした。


 「塑通無春です。よろしく」


 言い終えて、数秒静かな空間が出来上がった。また数秒、それは解凍され、パチパチと軽い拍手。良い印象を与えた訳でもなく、悪い印象を与えた訳でもなく、春の自己紹介は終わった。


 そうして全員の自己紹介は終わり、春は帰宅。家では既に母が帰ってきていた。スクールバッグを降ろし、制服を綺麗にたたみ、私服に着替えた。日はまだ顔を出している。春は、リビングのソファーに横たわった。


 「お疲れさん。校長先生の話は長かったね。さ、これから勉強頑張らないと!」


 母は、春に話題を振るが、その全てに「うん」の一言で答えた。それから、瞼がゆっくりと降りていき、春の意識を奪った――。





 ―暗黙の広がる空間に、ポツンと春は立っていた。彼に立っているという実感はない。重力を感じないのだ。ただ、ボーッと辺りを見回し、春は目を閉じた。変化が分からない。


 「これ、何て読むの?」


 光を感じ、春は目を開いた。―そこは、暗黙とは一転、春に見覚えの深い教室だった。そこには、二人の、少年と少女が居る。少年は、名札を外して、少女に説明を始めた。


 「"そつなき"って読むんだよ」


 関心深そうに名札を眺める少女。


 「へぇ···難しいね。じゃあ、そつなきはる君だ!」


 少女は人差し指を上に向け、閃いた様に言った。少年は、少し困った。それから、名札を自分のシャツにつけ直した。夕日が、教室を赤色に染め上げていた。まるで、教室中に血が飛び散っているかの様に···。


 「よろしくね!(はる)君!」


 「あはは···。うん、よろしく」


 苦笑しながらも、少年と少女は挨拶をしっかりとかわした。


 それを見ていた春は、後ろを振り返る。そこには、また、暗黙が広がっている。


 「またあの夢か···」


 春は、闇の中を進んでいった。

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