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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第1章 Encounter and reunion
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第1章 幕間.和を堪能す

8話でカットしていた食事のシーンです。和食(?)を堪能致します

 みんなは畳にある座布団に身体を下ろす。一つのテーブルに六人程が座った。僕が座るテーブルには、夏希と三上さんと最上君とフェミアとミクが居合わせた。大体、先ほど話し合ったチーム分けのメンバーでまとまって居るが、古賀さんは幼なじみである杉立君、広瀬さんと一緒だ。


 その食事処は突然に満席となってしまった。


 「あぁ!!ウチはこんなに有名だったのかいぃ!!?」


 調理場の方から語尾に音を高くし、驚きを露にする女性が現れた。他には珍しい、着物を着ていた。この空間だけは、和に包まれている。僕は心のどこか、すごい安堵を感じた。紛れもない、日本人の血だ。


 そう、和の食事処にしみじみとしていると、


 「はる!!」


 夏希が僕を呼んだ。お品書きを手にし、こちらに向けている。


 「どれにするの?」


 「あ、うん、僕は···」


 夏希からお品書きを渡してもらい、それをじっくりと眺める。それには、筆で描かれた料理の絵がずらりと並んでいた。


 肉もの、野菜もの、麺もの、汁もの···。数ページにわたってメニューがたくさんある。この世界には、僕らの居た世界と同じような、しかし名を変えた動植物が存在しているようだ。そしてそれは、やはり人に親しまれている。これまで食したものだと、一風変わった料理ばかりだったが、ここには、まったくとまでは言えずとも、お腹に馴染みそうな料理が戴けそうだった。


 僕はページをめくっていく。秋剣魚さんめの塩焼き、和午わぎゃうステーキ定食、湖老えぼ天定食、カロー饂彈うだん·····。と、僕はフェミアとミクに気づく。二人は、何がどんな味なのか、まったく分からない。どれを注文するべきか、悩んでいたのだ。


 「はる?」


 「う、うん。じゃあ、この親孫丼おやごどんにするよ」


 絵にあるそれを指差す。すると、フェミアとミクもそこを指差してしまう。


 「二人とも、これで良いの?」


 夏希が訊く。それに二人は首を縦に振った。



 ―全員の注文する品が決まったところで、店員がメモ用の紙と筆を持って寄ってくる。


 「お決まりですか?」


 「カチとじ定食を四つと、ざれ蕎麦を二つ、それから···」


 注文は相澤君が務めてくれた。



 ―ちなみにこの世界の言語、文字は僕らが理解できるようになっていた。



 料理が届くまで、僕らはやはりこの食事処の環境を気にする。あまりに、外と違うから―否、元居た世界と似通っているからだ。


 「ほんと、よくできてるなぁ·····」


 最上君は天井を見上げてボソッと呟く。しかしミクはあちこちを見回し、首を傾げる。ミクには分からないだろう。するとミクは僕に訊いた。


 「ねえ、弱い人。ここってそんなにすごいの?」


 「···うん。僕らは以前、こういう文化があるところに住んでいたんだよ」


 フェミアやミクは生涯、僕らの住んでいた国を知ることはないだろう。ここよりずっと平和で、穏やかな生活が許される世界。もし可能なのであれば、ぜひとも二人を連れて行ってあげたい。差別のない、穏和な生活を、彼女らに贈りたい。しかし、それは叶わぬはかない夢。


 「母について、色々行ったことはあるけど···こんな雰囲気は知らない。春たちは、一体どこの人なの?」


 フェミアは顎に手を当て、言った。「しまった」と思う。どう説明できる···?夏希と、最上君と三上さんと目を合わせる。両手を挙げて"お手上げ"を示す最上君。夏希は首を傾げている。そこで、三上さんは口を開く。


 「西の果ての国からだよ」


 ((なんかそれっぽい故郷作った!!?))


 それで通用するのかと心配したが、それほどフェミアは注意深くなかった。


 「そうなんだ···。とても遠いから来てるのね」


 最上君は合わせる。


 「あ、ああ!!そうなんだよ!ほんっと、大変だったよ!」


 「どうしてそんなに遠いところからここまで来たの?」


 即、質問が返ってきた。


 「え、えっと·····」


 ピンチに追いやられた。そこで―


 「湖老天定食でお待ちの方ー、お待たせしました!」


 注文していた品が続々と運ばれてきた。会話は、ピタッと止んだ。目の前のそれに、夢中になっていたのだ。その、素晴らしさに。


 僕の目の前にあるのは、見ても分かる卵黄の輝きと、卵白のプルプル感を兼ね備えた親孫丼。元居た世界とは少し異なる、でも懐かしさを感じるものだった。同じ品が目の前に置かれたフェミアとミクは、いつになく目がキラキラしている。そこら中でも、歓声が上がった。この世界の人には、他と変わらぬ料理かもしれないが、僕らには特別だった。


 「あぁ!!こんなに喜んでくださるなんてぇ!!?」


 また、調理場から先ほどの女性が出てきて言った。相変わらず、語尾が高い。さて、いよいよ戴く。僕はスプーンを手に取った。さすがに箸まではないか。···まぁ、あったら食べれないお客が続出してしまうだろう。


 そう苦笑し、親孫丼にスプーンを入れる。ふわふわしていて心地が良い。卵黄と卵白とご飯とを同時にスプーンに乗せ、口に運ぶ。··········。まず、驚いた。口内に広がる香りに、ほどよい噛み心地に。一つ、二つと顎を動かすたびに交わる卵黄と卵白の味が感動を生む。脳が働かなくなり、これに出る言葉は、


 「···美味しい」


 しかなかった。


 「すおい(すごい)!!すおいよ(すごいよ)!!!」


 近くではミクが声を上げていた。


 「食べながら声を出さないの!」


 夏希が優しくミクの頭をポンと叩く。対してフェミアは静かにしている。


 「フェミちゃん、どした?」


 三上さんが訊ねる。フェミアは首を横に振った。一瞬、瞳付近が輝いた。


 「こんなにすごい料理、食べたことなくて·······うぅ··」


 それは、涙であった。


 ((泣く程!?空気が重くなった···!!!))


 みんなのテンションが唐突に下がる。何か気まずい。···フェミアには、それほど感動できるものだったのだろうか。


 「この玉孫たまごっていう食べ物······すごい···!!!」


 ((·····へ?))


 フェミアは、玉孫という食べ物に感動していた。


 「春、ありがとう!」


 ·····ほえ?


 「えっと···どうして?」


 「あなたのおかげで巡り会えたもの!感謝しないと!」


 「は、はあ····」





 ―今日は、フェミアに玉孫という大好物が誕生する日となった。それからも、僕らは和を存分に堪能した。この食事処は間違いなく僕らにとっての大きな存在となっただろう。ぜひ、また来たい。そう、気持ちを込めて、僕らはそこを出る時に口を揃えて言ったのだ。


 「「ご馳走さまでしたっ!!!」」


 ·····と。



 


 ―――僕は知らない。その後、国王との手合わせでどうなってしまうのかを、僕は、知るよしもない―――。

幕間は章に一つのペースで入れていこうと思います。息抜き程度にどぞ!

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