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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第1章 Encounter and reunion
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9.聖剣、使わす

 国王と名乗ったその人は、ニッコリと微笑んだ。それからまもなく、その人の目は、刃のごとく鋭くなり、僕らの向かいに居た冒険者たちを睨んだ。どれだけ恐ろしかったのか、冒険者たちは腰を抜かしてしまった。


 「国の為に精進してくれるのは結構だけどね、嘘はいけないね。しかも寄って集って子供に剣を向けるなんて、非道だよ?」


 先ほどまでと比べものにならない国王の低い声が、ギルドに響き渡った。国王の言う通り、冒険者の情報は嘘だ。冒険者が攻撃する直前に確認したが、間に合わなかったのだ。とっくに空間は静まりかえっている。国王が、こちらに身体の向きを戻した。目は、先ほどのそれに戻っていた。


 「こ···こいつらは!!一つのパーティーに十人以上も参加してやがる!!その上獣人まで···!!!!」


 腰を抜かし、汗を頬に垂らす冒険者は、それでも言った。


 「"獣人はデルハツに入ってはいけない"なんて規則はないよ。どうしてそう、差別したがるんだろうね···」


 国王は目を瞑り、首を傾げながら言った。僕らは、この国で獣人を取り締まっていると思っていたから、国王も当然そうだろうと考えていた。しかし、国王にその気は全くない。それどころか差別に対して疑問を抱いている。じゃあ一体どこから獣人の差別は始まっているのだろう。···それはまた追々考えよう。


 「でも―」


 国王は、再び低い声で、今度はこちらに対して言った。


 「二十人は少し多いかな。そこには十九人と、獣人が二人。どうだろう、七人一組でパーティーを三つに分けるというのは」


 国王は、そう一つ提案すると、まだ口を動かせないで居る僕らを確認し、僕の前まで近づいた。それから頭から足元まで首を傾け、じっくりと観察した。···少し怖い。


 「そうか···ルイゼが言っていたのはこの子だね」


 奥から、ギルドマスターがこちらに歩いてきた。ギルドマスターを名前で呼ぶってことは、何か職を超えた繋がりが国王とギルドマスターにある、ということだろうか。


 「エミドレ、それは後でだ。冒険者諸君、自由度が高いゆえに、完璧とまでは言わん。トラブルは極限減らしてくれ。この一件はこれで終わりだ」




 ―冒険者らは、集団を崩し、パーティーごとに行動を再開した。国王とギルドマスターは奥の別室に戻った。僕らは、未だそこにとどまっていた。フェミアらの件もそうだが、パーティーの人数のこともある。フェミアは、自分のせいだと落ち込んでしまっている。···ミクは何かと楽しそうなのだが。


 「七人一組というのは賛成だが、それはフェミアたちもパーティーに含むということだ。いずれにせよ、フェミアたちを単独で残す訳にはいかない。フェミアたちをどのパーティーに入れるか···」


 学級委員、相澤君の意見だ。それには他のみんなも同意。問題は、どうチーム分けをし、どこにフェミアたちを入れるか。フェミアとミクは同じチームの方が良いだろう。フェミアたちは、ちゃんと戦える訳ではない。つまり、残りの五人でクエストを進めるということになる。


 「ボクこの人のが良い!!」


 ミクが、僕のズボンの裾を掴んでいた。·······え?僕?


 「一番弱そうだもん!!」


 どんな理由!?···合ってるけど。一応、ミクの意見も参考に僕らはチーム分けをした。フェミアは、渋々それに参加した。





 ―そして話し合いが終わり、チームは決まった。仲の良し悪し、冴霧君の考えなどから決まった、僕のパーティーは、夏希、宮田さん、最上君、古賀さん、フェミア、ミクだ。ゴブリンでのチーム分けが少し参考にされている。古賀さんは、大人しめの女子で、でも、ジョブは剣士(フェンサー)。ゴブリンの一件で、とても活躍したらしい。


 パーティーが決まったところで、僕らが次にやるべきことは―


 「腹減ったぁぁぁぁっ!!!!!」


 最上君の叫びの通り。そう、僕らはまだ昼食を済ませていない。フェミアの慰めも込めて、ここは一つ良いものを食べようではないか、という意だ。それで、早速移動に移ろうとすると···


 「塑通無君、ちょっと良いかい?」


 僕は、僕個人は、国王に呼び止められた。·········あれ、デジャヴ?「先に行くぞ」とギルドを後にしたみんな。前回ギルドマスターに呼ばれた時は結局なんのことだったのかさっぱりだ。そして、先ほどの国王の言葉。ギルドマスターと国王は僕の何かについて話し合いをしているのだろう。僕は、奥の部屋へ向かった。




 そこに居たのは、国王とギルドマスターのみ。前回も、ギルドマスターは他の人たちを部屋から出した。一体なんだと言うのか。


 「率直に言うよ」


 国王は、僕に言った。


 「塑通無君、僕と一つ、手合わせをしてくれないかな」


 「·················え?」


 疑問符を頭上に乗せる僕に対し、呆れた顔でため息をこぼすギルドマスター。そして、ニッコリと微笑む国王であった。


 国王が、僕と手合わせ?


 「その、どういうことですか···?」


 「純粋に君と手合わせをしたいってだけだよ」


 国王が手合わせをしたいと言ってからいろいろ思考は巡ったが、どう解釈してもこの状況はおかしい。国王はさっき、戦闘好きだと言っていた。強い人と戦いたいなら、クラスにだって僕より強い人しか居ない。僕が鑑定士(アプレイサー)であることを考慮したとしても、それはただのサンドバッグだ。一体何だと言うのか···。


 「あなたの意図はよく分かりませんが、とりあえず···」


 国王は、「なんだね?」と言わんばかりに眉をひそめている。国王の意図は分かり兼ねるが···。


 「ご飯食べさせてください」


 「···········あ、うん」


 僕はクラスメイトと合流しに行った。





 ―食事処。僕には鑑定があるから、合流に時間はかからなかった。それから着いたのがここ。和風で立派な建物。中は、畳の上にテーブルがあり、やっぱり和風。高級かどうかは分からないが、多分日本人の本能的部分が惹かれたのだろう。人は数人がポツポツと居るくらいだ。僕らは最も広い場所を取り、座った。


 「なんか良いな、ここ。久々な感じだ···」

 「はぁ···極楽」

 「こりゃ間違いねぇな!!」


 みんなが“和“に浸る中、フェミアらは目を丸くし、畳やら天井やらをぼーっと見ていた。恐らく、“和“を知らないのだろう。普通、こんな世界に日本の技術はないと思うけど···それは、これがゲームの世界ならまぁ納得できる。“和“をじっくりと懐かしんで、みんなの目はお品書きに移った。





 ―昼食後、僕はみんなに、国王に呼ばれていることを話し、みんなには先に宿屋を探してもらうことにした。僕はギルドへ向かった。もう結構暗い。さっきのも、昼食とは呼べないな···。



 


 ―ギルド。そこでは、既に国王が扉の前に待っていた。···迷惑をかけただろうか。それに、ボディーガード的な人とかが居ない。僕は国王の元に駆け寄った。


 「すみません、待たせてしまって」


 しかし、国王に激怒の表情はない。それどころか、ニッコリ笑顔だ。逆に怖いくらいの。


 「なに、こんな遅くに呼んだ僕も僕さ。さ、さ!!準備は良いかい??」


 国王はまるで子供の様に両手を上下に振り、膝を曲げ伸ばししている。突然頼まれた手合わせ。やりたいかやりたくないかなら、もちろんやりたくない。何故なら、戦える武器がないからだ。準備ができているかできていないかなら、できている。何故なら···準備する武器がないからだ。


 「はい、よろしくお願いします」


 自信満々には言えない。でも、弱気でもない。そんな中間の返事にも国王は構わず、「よし!」と喜んだ。とても嬉しそうだが···本当に、どうして僕なんだろう···。


 「それじゃあ移動しようか」


 「移動、ですか···?」


 国王は、僕に手を差し伸べた。“掴まれ“ということだろう。僕は、国王の手を握った。国王は、すごい早口で何かを唱えた。


 その瞬間、グッと身体中に重みを感じた。とてつもないそれに何もできないと分かっていながら、僕は仕方なく、思い切り目を瞑った―。



 それから数秒、重みはスッと抜けていき、ついに元の感覚に戻った。僕は、恐る恐る目を開いた。······驚愕を、隠せなかった。


 「っ···どう···なっ···て」


 そこは、闘技場だった。僕と国王は、闘技場の中央に居た。ギルドの近くに、そんな建物はなかったはずだ。これは···国王の魔法か。


 「少し驚いているようだね。これは僕の魔法だよ。この時間に使われていない闘技場に移動したんだ」


 説明しながら、国王は後方に歩いて離れていった。僕も、気を落ち着かせ、反対方向に歩いた。大体に位置が定まったところで、僕らは向かい合った。


 「ルールは、そうだね。どちらかが戦闘不能になるまで。降参も、場外もなし。戦闘不能ってのは、意識すれすれの、立ち上がれない状況」


 「!?」


 この人は本気なのか···?どちらかが戦闘不能になるまでって···半殺しじゃないか!?しかし、僕に議論の間などなく、国王は言った。「それじゃ、始め」と。もうその直後から、国王は攻撃態勢に入った。両腕を後ろに下げ、国王の周囲には光弾が出現した。もう、どうにでもなれ···!!鑑定!


 [光属魔法:光弾雨ライトレイン···無数の光弾を光速で放つ。命中精度は荒い。]


 光弾雨ライトレイン。命中しにくいのは速さに特化しているからか···。なら!


 国王は、引いていた腕を前に突き出した。光弾が向かってくる。僕は、全力で右側に走り出した。spdはゼロ。元々の身体能力でやるしかない。光弾は、間一髪のところで僕の後ろを過ぎていく。


 「へぇ···。無詠唱の光属魔法ライトマジックに対応したか。並みの反射神経じゃないね···。いや、これは高度鑑定かな?」


 光弾が止んだところで、僕は走るのをやめた。何かブツブツと呟く国王だが、そんなの聞いてる余裕はない。次は、何だ···!?


 「これはどうかな」


 国王はしゃがみこみ、右手を地面に当てた。すると、闘技場全体の地面が、巨大な魔方陣で覆われた。


 [光属魔法:逆行粒子リバースバレッド···光の粒子が空に向かって放たれる。威力は低いが、範囲が広い。]


 空に向かって···?この範囲はかわせそうにない。威力が低いなら、持ちこたえられるか···?


 一気に、光の粒子は放たれた。とてつもない密度で。僕は、必死に身体を丸めて守ろうとした。何百もの粒子が身体を削る。


 「くっ·········!!!」


 耐えろ···、耐えろ···!!きっと国王は何か考えてるんだ。戦闘不能なんて、そんなことはしないはずだ!!


 「何か誤解をしていないかな。これは、どちらかが戦闘不能になるまで続くんだよ。塑通無君、死にたいの?」


 ···悪魔の声でも聞いている様だった。僕に人の心を読むことなんてできないけど···。何を言っているのかは分かる。国王は、本気だ。


 「続けるよ」


 国王は、さらに魔法を重ねた。


 [光属魔法:巨大光弾グレートショット···巨大な光弾を放つ。超高威力。]


 これは······死ぬ。


 僕は、粒子に撃たれながら、ただただ、光弾が近づくのを待った。待つしかなかった。


 ギュィィィィィィィィィィィン··················!!!!!!!!!!!!!!!!!!




 ―なんだか、変な感じがした。前にも味わった様な、変な感じ。粒子は止み、光弾もない。静まり返った空間。これは、そう―。また、あの剣が······


 [聖剣ラプラス]


 僕の前にあった―。





 「―へぇ···。これは」


 エミドレは目と鼻の先に、“剣“を握った春の姿を捉えた。


 「ルイゼの戯言もあながち馬鹿にできないね」

国王の情緒は分からない!?春、2度目の聖剣!

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