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その鑑定士、聖剣を握る。  作者: ラハズ みゝ
第1章 Encounter and reunion
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7.消えたゴブリン

 みんなと分かれて五分程歩いた。この城跡はかなり広いから、合流することはないと思う。先頭に僕、後ろに三人が歩いている。


 「剣士(フェンサー)が居ねぇからな···塑通無、頼むぜ?」


 剣士(フェンサー)が居ないというスリルの塊であろう状況だが、生憎ここには敵を感知どころかどこに居るかまで完全把握できる冒険者が居る。僕は「うん」と一言答え、鑑定を開始。マップには常に敵の位置が表示されるが、ステータスまでは分からない。この先に対偶するゴブリンがみんな同じステータスとは限らない。


 ···この数十メートル先に二体のゴブリンのステータスが見えた。


 [ゴブリン:こん棒Lv.9 atk.7 dfs.4 spd.3 mp.5]

 [ゴブリン:こん棒Lv.11 atk.9 dfs.5 spd.4 mp.5]


 レベル11の方が少し苦しいか···?遠距離から最上君と宮田さんが集中砲火すれば大丈夫だろうか。みんなまだ単純な攻撃しか使えない。下手すれば全滅だ。


 「数十メートルくらい先にゴブリンが二体居るよ」


 「もう居るの!?暗くて全然見えないじゃん···」


 手を額に当て、辺りを見渡す宮田さん。宮田さんの精霊も風を起こすことができるくらいだ。精霊の召喚には大量の魔力が必要だ。一体召喚するのが精一杯。······魔力?もしかすると、魔力を回復することってできるんじゃないか···?


 「夏希、魔力って回復できる?」


 「魔力?うーん、どうだろう。ガイドさんに訊いてみたら?」


 ああ、その手があった。では早速―


 《お呼びですか?》


 さすが、早い。


 「回復士(ヒーラー)は魔力を回復することはできる?」


 《はい!回復にはいくつか種類があるのですが、魔力回復はレベル5から使用可能です!》


 それなら良かった。普通、パーティーメンバー全員を対象に回復を準備するけど、今回は誰もダメージを受けないことを前提にする。そうすれば魔力回復を一人に集中させることができる。


 「宮田さん、精霊をできる限り召喚して!夏希は魔力回復を宮田さんに」


 これは、夏希の魔力を召喚として使っている。つまり、ここには召喚士(サモナー)が二人居るってことになるんだ。後は、最上君の矢で敵を仕留める。


 「なるほどなるほど···。オッケー!んじゃやるよ、夏希ちゃん!」


 「うん!」


 「俺の矢で貫いてやるぜ···!」


 こうして、作戦開始。召喚を始める宮田さん。


 「常世とこよに住まわれし神聖なる精霊よ、我が住みし現世うつしよにその身を現せ!!」


 夏希は回復を宮田さんに。宮田さんは召喚で魔力を5消費し、夏希は回復で魔力を2しか消費していなかった。回復で消費する魔力は、実際に回復する魔力より少ないらしい。二人とも、魔力が6だから···精霊を四体召喚できる。


 「よっし。召喚完了!」


 「早苗ちゃん、そのセリフかっこいいね!」


 感心する夏希。本来、"精霊召喚"って言えば十分なのだが、宮田さんはそういうのが好きらしい。宮田さんはピースサインをだし、言った。


 「でっしょう?」


 「お前ら、召喚して終わりじゃないからな。俺が射った直後、頼むぞ」


 最上君は弓を構え、狙いを定めた。


 「この方角で合ってるか?塑通無」


 「うん、バッチリ」


 最上君は狙いを定めると、矢を放った。「ズバッ」と矢が刺さった音が響いた。直後、宮田さんが精霊を向かわせた。暗がりの中、激しい風と、ゴブリンの叫びだけが響く。ゴブリン二体の体力がズンズン減っていく。そして―


 「討伐確認!」


 僕は言った。何も見えないからか、「見に行こう」と向こうを指差す最上君。僕らはゴブリンのもとへ駆けた。




 ―ゴブリンは倒れていた。体力もゼロ。これで·········って···。


 「死体足りなくないか?」


 最上君が言った。ゴブリンの遺体は、一体しかなかった。ちゃんと二体倒したはずなのに···。消えたとは考えにくい。他にゴブリンは居なかったから、回収したとも思えない。


 宮田さんが、地面に目を近づけた。


 「ねえ春君。うちらの他に人って居た?」


 「いや、そんな反応はなかったけど···どうして?」


 宮田さんは、見ていた地面を指差した。僕らは目を凝らした。···そこには、足跡があった。奥の道に向かってずっと続いた足跡だ。ここの地面は、やわらかい泥でできてるから、最近できたものだ。しかも、ゴブリンの足とは型が違う。この足跡は··········人のものだ。


 「んな馬鹿な···。人は居なかったんじゃないのか!?」


 僕の鑑定でも、そんなステータスは表示されていない。このゴブリンを見つけた時に見逃したとしても、僕は少なくともこの城跡内のステータスは全て把握できるから、ちょっと走ったくらいじゃ僕の鑑定からは逃れられない。でも僕の鑑定にはひっかかってない。·····謎だ。


 「他にも冒険者が居て、テレポート的な魔法が使えたとか?」


 宮田さんが指を振ってジェスチャーをした。


 「それは一理あるけど···」


 確かにテレポートが使えれば僕の鑑定を逃れることは可能かも知れない。しかし、それなら足跡を残す意味がない。ここまで来る足跡があっても、向こうに戻る必要はないんじゃないだろうか。


 「とりあえずこの足跡追ってみね?」


 僕らは、足跡の正体を探るべく、それが向かう道を進んだ。


 足跡は闇の奥に続いていた。正面と足跡を交互に見ながら、僕らはゆっくり進んでいった。もしかしたら、この先に何か居るのかも知れない。そういう考えから、多少なりとも恐怖はある。それが夏希には大きいのか、さっきから僕の袖を掴んで離さない。少し荒い呼吸の音が聞こえる。あまりに距離が近いから、振り返ることもできない。そんな中、全く物怖じしない宮田さんが何かに気づいた。


 「これ···歩幅おかしくない?」


 宮田さんが注目したのは、僕らが追っていた足跡。よく見てみると、確かに歩幅が妙なのだ。歩いている訳でも、走っている訳でもない。歩幅が一定でない。何か症状を患っているのか?足跡に顔を近づけていると、夏希が僕の肩からひょこっと顔を出した。


 「この足跡、大きさが違うよ?」


 夏希は指で二つの足跡をなぞった。小さなそれと、大きなそれ。その二通り。つまり、この足跡の正体は············


 「二人ってこと···」


 ゴブリンの遺体を盗んだ正体と足跡のそれが同一人物かは分からないが、この道はついさっき"二人"が通ったということははっきりした。問題は、僕の鑑定に干渉していないこと。最近できた足跡が続いているから、まだこの城跡の中だと思うんだけど···。


 止まっていても仕方がないと、最上君を先頭に僕らは再び進みだした。その、直後のこと―。


 「食らえ、スーパーキィィック!!!!!!!」


 何かが飛び出したことだけは分かった。しかし、何かまでは分からなかった。最上君は、瞬時に身を左に移した。飛んでくる何か。これは――


 「ぐはっ!!?」


 僕の顔面に直撃した。そのまま、僕は後方に倒れた。"蹴られた"ってことは分かった。·····誰に!?あまりの痛さに感覚を失いかけた顔を両手でしっかりこすり、僕は上体を起こした。僕のお腹に、何か乗っていた。お腹を跨いでいる。これは子供···?ボヤけた視界に映る子供の像。しかし、その頭部には、錯覚のせいか·········上に伸びた耳が付いていた。


 「(はる)!?だい···じょう··ぶ?」


 夏希が横から顔を覗かせ言った。


 「うん···大丈夫だけど········この子は?」


 みんなの視線は犬の様な耳を付けた子供へと移った。目をきょとんとさせる子供。奥から、何かが走る音が響いた。現れたのは、人影。


 「何やってんの!!ミク!!」


 そしてまたしても、犬の様な耳。よく見ると、それっぽい尻尾も付いている。年齢は僕らと同じくらいだろう。これは···獣人?聞くものは顔も獣だと思っていたが···獣らしい容姿は耳と尻尾だけで、あとは普通の女の子だ。


 「こんな奴らボクだけで倒せるもん!!」


 今僕の上で騒いでいる方はどうやら男の子か。宮田さんは、男の子の方の耳をぐいと引っ張った。


 「!!?痛い痛いぃぃっ!!!!!!」


 「飾りじゃないんだ」


 容赦がない宮田さん。耳をつままれた獣人の子は僕の上でうずくまってしまった。


 「とりあえず名前聞こうぜ?お互い」


 微妙な空気を入れ換えたのは最上君。敵か味方か分からない相手と自己紹介···。随分とお気楽なものだ。そんなこと誰が―


 「ボクはミク!こっちはお姉ちゃんのフェミア!」


 あっさり承った!?


 「ちょっとミク!何を!!」


 「良いじゃん良いじゃん!この人たち、嫌な匂いしないよ?」


 僕の服をクンクンと嗅ぐ獣人の子。·········普通に恥ずかしいのだが。


 「あの···そろそろ降りてくれない?」


 僕の存在に初めて気づいたかの様に僕を見ると、ひょいと僕から飛び降りた。そして獣人は二人並んだ。こうして見るとさすが獣人。まさか本当に会えるとは思っても見なかった。···しかし、今はそういう感情に呑まれてる時間はない。男の子の方はともかく、その姉だというフェミアさんは、こちらを睨んでいる。僕は起き上がった。


 「あなたたち、奴隷商人なの···?」


 フェミアさんは睨みを緩めることなく言った。奴隷商人···?人身売買をする人のことだろう。当然僕らにそんな宛はない。


 「奴隷?私たちは冒険者よ。ここにゴブリン狩りに来ただけ」


 ビッシリと宮田さんは答えた。まだ空気が怪しい。


 「あなたたちは?どうしてここに?」


 フェミアさんは男の子と目を合わせ、少し顔を緩めた。さっき男の子が言った"嫌な匂いがしない"というのが関係しているのだろうか。それから、事情を話してくれた。



 ―フェミアさんとミク君は、家系から差別を受けていたらしい。今は母も奴隷として働いているんだと。ぎりぎり逃げ切れた姉弟は、こうして冒険者が倒した鬼を盗んで、なんとか今まで生き延びたらしい。そして、ミク君には、人の本性をさぐる能力があって、匂いでそれを判断できるらしい。だからあっさりと話してくれたのだ。


 「弟さんも連れて大変だったんだね」


 「···弟なんて居ないわよ。私にはこの妹しか居ない」


 ························え?


 「「「えぇぇぇぇぇぇっ!!?」」」


 ミク君は、ミクちゃんだった。

獣人姉妹登場!さらに騒がしく!

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