26話 龍斗
龍斗は私がパパに利用されていると言っていた
電話番号が非通知だから?
電話番号を知らないから?
そんな理由だけで【利用】されているなんて結論付けるのは理不尽だ
だから私は言った
「私を? 利用? なんで? 意味なくない……? それに僕の時って……?」
少しばかりの……
気持ちの中での賛同はある
だから全面的に否定は出来ないが……
だけど精一杯、否定はしたくて……
その言葉を彼らに放った……
わずかばかりの抵抗を……
龍斗は俯き、答えた
「プロフェッサーは…… 何と言っていた……? この任務を……」
「…… 【覚醒者が居たら消せ】、と……」
「だろうな…… プロフェッサーは知っている…… 僕がココに居る事を…… そして彼のターゲットは…… 最初から僕だ……」
どういう事よ!?
なぜ!?
ソウなら……
ホントにソウなら……
なぜパパは先に言わない?
私は何も聞いてない!
パパから何も……
胸の中がザワつく
パパの事から逃げたくない
聞かなきゃ、ソレを……
「何で…… 龍斗を狙ってるの……? 自分の様に利用されてるって……?」
「それは……」
一瞬、龍斗の顔に恐怖が見えたが……
しばらくして顔を上げると、心を整えたのが見てとれた
「彼は…… プロフェッサーは…… 僕のルビーアイを覚醒させた人間だからだ……」
なぜ……
なぜ龍斗を……?
嘘では無い、と思う
こんな些細な嘘で私を騙す龍斗では無い
それはもう
充分、知っている
私はノドの渇く感覚に襲われ、ツバを飲み込んだ
その後、龍斗が口にしたのは……
想像もつかない、パパの姿だった
「プロフェッサーはこの世界を変えると言っていた…… その先駆けに僕を覚醒したのだと…… そして自分に邪魔になる者を全て消せ、と、命じた…… それは僕が小学3年の時だった……」
一度言葉を止め、また開く
「プロフェッサーは…… ある日、女性を連れてきた…… いや、少女だ…… 拾った…… そう、言っていた…… 自分の出来の悪い娘と違い…… コレは良い素材だと…… 父親の様な感覚を持っていたよ、彼には…… だが、だが……」
龍斗は言葉を詰まらせ、口を閉じる
その肩に、優しい、でも淋しそうな表情の加藤の手が乗る
加藤はニコリと頷いた
それに呼応するかのようにコクリと頷いた龍斗は、また話を続けた
「怖かったんだ…… いや、怖くなった…… そんな事を平然とやってのける彼に…… だから、だから逃げた…… 彼のラボ、実験室から逃げた…… どんな道順を辿ったかは覚えていない…… ずっと走った…… とにかく、走った…… 走った先にあったのが今の家、今の両親、僕は…… 養子なんだ……」
言葉を失う
思いが届いてしまったのか
私の胸に……
気が付いた時には……
私の瞳から、涙が溢れた
龍斗が困った様な笑みで私を見る
そして
「…… 多分、僕は…… プロフェッサーに拾われたんだ…… どこからか【誘拐】されたんだ…… 多分、そういう事だ……」
そして一呼吸置き……
次の言葉を綴る
衝撃的な言葉だった
解る
今なら
言いたい事が……
どうしても
払拭出来なかった違和感
ソレを
龍斗は、口にした
「ソノ…… 拾われた少女は、君だ…… 【胡桃】……」
私はどんな表情をしてるのか見当もつかない
だがもう……
妙に納得してしまった
多分それは、加藤の解呪によるものだろう
「…… そっか…… 私は…… そういう事なんだね……」
クリアな記憶が巡る
それは
それはとても
思い出したくない記憶……
そして思い出さなければならない記憶……
2つの記憶が……
脳裏を巡った