23話 マスター
【壊す】と【消す】
何の違いがあるのか考える
その思考を停止させたのは、加藤の間延びした言葉だった
「そろそろだなぁー 胡桃ぃー 携帯電話を持ってぇー♪」
え?
そう思った時には、そうするべきであったかのように携帯電話を取り出して居た
え?
操られた訳じゃ無い!
そんな雰囲気は無い!
なぜか、取っていた!
その瞬間、携帯電話が鳴る!?
まさか……
コレが解っていたとでもいうの!?
トゥルル…… トゥルル……
非通知、2コールで切れた
それで、電話の相手が粗方想像が付いた
「……次、3コールで通話音が切れるとマスターだよ…… 助けを呼べば…… 貴方達に勝ち目は無い……」
加藤はニヤリと笑った
そして
「無理だなぁー…… その前にお前は消えるぞぉー? 話に合わせてぇー、電話を切れよぉー…… その前にぃー胡桃ぃー…… 通話中はぁ俺らにも聞こえるよぉーにースピーカーにしろぉー」
確かに消せるだろう
私など、一瞬で……
龍斗ならまだしも、加藤からは逃げる事は無理だ
心がそう、言っている
今ですら、逃げたがっている
でも逃げられ無いと確信しているのだ…… 心が……
トゥルル…… トゥルル…… トゥルル……
3コールで切れる
そして、
トゥル…… ピッ!
私は電話に出た
2人を交互に見る
言われた通りにスピーカー状態に変えた
コクリと加藤が頷いた
「もしもし?」
「終わったか? 胡桃……」
非通知で掛けてきた男が、そう問い掛ける
「終わったよ、マスター……」
「そうか、ご苦労だったな」
そこまで会話した時、不意に私は2人を見た
加藤は龍斗を見て口を動かす
この口の動きは……
どう?
と、聞いているように見える
龍斗は……
目を見開き、絶句…… しているのか……?
このまま危うくなっては問題が生じる
「間もなく帰るね……」
と、伝え、もう1つの言葉を切り出す
「ねぇ、パパ…… 後……」
そこまで言った時だ
殺気
未だかつて感じた事も無い常識外の殺意
ダメだ……
前を見れない
このままじゃ
消される……
「…… パパの記憶改ざん能力は、頭の中グチャグチャになるから、もう…… やめて……」
「……検討しよう」
私は電話を切った
そして殺気も消えた
龍斗の様子がおかしい……
呆然としているのは見て取れる
が……
直後、龍斗が口ずさんだ言葉
「プロフェッサー……」
え?
どういう事?
それはパパの事?
知り合いなの?
でも、プロフェッサーって……?
龍斗が青ざめた表情で話し掛けてくる
「今のは、父親かい……?」
「そうだけど……」
「そうか……」
そう言い、俯いた
どういう事だろう……
私は加藤に視線を向ける
妙に納得した様な……
そんな表情を浮かべている
そして彼は言った
「さてぇー、正念場だなぁー……」
何の事!?
2人が追っているのはパパなの!?
「待って! プロフェッサーって何? パパの事!? 2人のターゲットはパパなの!?」
加藤は表情も変えずに答える
「そうなっちまったなぁー……」
と……
そんな……
パパを守らなきゃ!
それだけは、させてあげられない!
「パパの敵に廻るなら…… 私は死んでも貴方達に敵対する!!」
一歩飛び退き、臨戦態勢に入る
加藤はのんびりとした表情を崩さない
そして口を開いた
「なぁ-、胡桃ぃー? 相手が違うぞぉー? 俺らは同志ぃー♪ 敵はぁ、お前の父親モドキだぁー」
【モドキ】?
似て非なる物?
そんなバカな!?
私は昔から一緒に居る!
ずっと昔から!
昔から!
昔から?
いつから?
いつからだっけ……?
まだ記憶がはっきり戻ってないのか……?
私は躊躇し、俯いた
その時だ
不意に加藤の顔が視界に入る
大きな体を小さく屈めて下から見上げていた
まただ!
早い!!
早過ぎる!!
思うのも束の間
「なぁー? 胡桃ぃー? お前の父親はぁー ホントに父親かぁー?」
どういう事だ!?
何を言っているんだ!?
この男は!!!
「その父親ぁー…… 楽しい記憶ぅー……あるかぁー?」
楽しい記憶?
ある!
自信を持って、有る!
ディズニーランドに行った!
ハズだ!
プールリゾートにも行った!
ハズだ!
去年はハワイにも行った!
ハズだ!?
スカイツリーにも……?
北海道にも蟹を食べに……
四国のお寺巡りにも……
涙が出てきた
行ったハズなのに……
記憶が無い……
優しい記憶も…… 無い……
行ったことすら……
無い……
なぜこうも
クリアな
鮮明な
否定が出来るのか……
涙を流したまま
私は立ち上がる
私の頭上には
加藤の手が
また
何かを払っていた……
加藤が呟く
「なんだかぁ、ごめんなぁ…… はっきりさせたほーがいーと思ってよぉー…… それはぁー、それはぁー…… なんつーかぁー……」
ずっと笑顔か半笑いだった彼の顔
それが歪んでいた
言葉を選んでいた
私には解る
彼は……
私に気を使ってくれていると……
そんな加藤が言った
「ソレは創られたもんだぁ…… 呪が強ぇからー 全部取れないけどぉー この位でゴメンなぁー……」
解る……
パパの【記憶改ざん】の力だ
ソレを彼は解いた
解かれたのだ、私は……
だから、だから、私は……
「いいの…… ありがとね……」
そう、答えていた