35話 ラスト・リープ
「もう、アンタの好きにはさせない!!」
私は言い放つ、奴に!
「…… 貴様ら…… コケにしおって…… 許さぬ!!!」
悪魔の表情が変わる
冷静な加藤が一言呟いた
「いや、コレで終わりさ、アンタは最後の一手をミスったんだ…… 修と桜子をココに呼ぶべきでは無かった、ソレがアンタの誤算だ」
「誤算だと!? くだらぬ事を!!」
「くだらなくなんて事ぁ無ぇ!! テメェは舐めてたんだよ! 俺達の心の…… 絆の強さをな!」
「それこそ小さき物だ!」
「だからソレが過小評価だって言ってんだろーが!!」
「黙れ! 小者が!!」
「なら、小者の力…… 受け止めてみろや!!」
加藤は私に叫んだ
「行け! 胡桃!! お前の魂…… 放つんじゃ無い…… その未来を切り開く右手に纏ってぶち込め!!」
私は合否を示すこと無く跳んだ
奴の正面に!
大きく振りかぶりながら力を凝固、凝縮……
右手が炎を放つかのように紅く燃える
ソレを思い切り奴の腹部に突き立てる
が……
止められた!?
奴の両手によって!!
その手もまた、紅かった
奴がイヤラシい笑みを浮かべる
「ククク…… 作戦ってのはな…… 外に漏らしてはならんのだよ」
くっ……
正論だ……
教えてからでは対処出来る……
私は、この戦で最大のミスをしてしまった
私の右手を奴が硬く掴む!!
その手を体ごと振る
解こうにも…… 取れない!!
マズイ!!
どうすれば良い!?
その時だ
加藤が叫んだ
「上出来だ、胡桃! この一瞬が欲しかった!!」
そう言うと加藤は消えた
いや、消えたのでは無い!?
その大柄な加藤は、より大柄な悪魔の背中に居た
そして羽交い締めにしていた
加藤……
何がしたかったの!?
この一瞬が欲しかったって何!?
私の拳が止められる事が必要だったの!?
「加藤…… 貴様!?」
悪魔が叫ぶ
「お前も終わりだ!!! 胡桃! 今なら大丈夫だ! 飛び退け!!」
加藤が私に叫び放った
私は注意の逸れた奴から右手を解き、背後に跳んだ
そして……
ニヤリと笑った加藤の表情を……
今でも、忘れる事が出来ない
「ウオォォォォーー!!!!!!! コレだけぇーー!!!!!!!! コレだけ座標を空に跳ばせばアンタでも終わりだ!!!!! 俺と一緒に宇宙空間を旅行しよぉーーーぜぇー!!!!!」
旅行!?
心中!?
加藤!!!
貴方は何を!?
加藤は言った
「胡桃…… 泉と、龍斗と仲良くな! 桜子! 修と良い家庭築けよ!」
そして、
「また逢える時まで! アデュー!!!」
パシュン……
渇いた音を響かせ
彼は跳んだ
悪魔を連れて……
「か…… 加藤……?」
私の手が空を彷徨う
「ねぇ…… 加藤……?」
「加藤…… 君?」
私の隣で咲子が呟く
咲子の隣では修が……
「加藤…… 格好つけやがって…… クソが…… なんて礼言えばいいんだよ……」
そして、その後ろに横たわる龍斗
彼は自分の血で紅く染まった顔を悔しさで歪めていた
彼らに目を配った私はまた、加藤が消えた、その場を見た
何も、無かった
誰も、居なかった
彼の笑顔だけを心に残して、彼は、消えた
信じられない
こんなのが…… 結末……?
酷い……
酷すぎるよ……
私は居ても立っても居られず……
力の限り、叫んだ
誰も居ない、その場に向けて……
「加藤ぉぉぉぉぉ!!!!!」
そう、叫んでいた
私達の戦いは
涙で
終わった




