31話 開戦
彼は……
パパは目を見開いていた
そして龍斗の姿を凝視していた
「龍斗か……!? なぜだ!? なぜそこに居る!?」
龍斗は答える
「……そうゆう事です……」
とだけ、言った
パパの顔が変わる……
驚きの表情から……
これは、悦楽の顔か……?
「そうゆう事か、復讐に来たか……ククク……ハハ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
彼は大笑いをした
いつもの彼からは想像もつかない表情と声で……
顔を上げ、右手を顔に宛て、左手は笑いで震える腹部を抑えたまま、大声で笑いまくった
ひとしきり笑った彼は静止する
両手をダラリと下ろし
私達を見た
その双眼は
紅く、燃えていた
「だろぉーなぁー…… そうなっちまうよなぁー……」
加藤はポリポリと頭を掻きながらそう呟く
そして、その手を下ろし、言った
「でもぉー、やるっきゃねーよなぁー!」
宣戦布告だ
私達は構える
彼は棒立ち
私は念じた
消えろ、と
いや、壊れろとだ!
弾けた!
何かが
パァァァァァン!!!
小気味よい音が鳴る
何も変わっていない!
何だ!?
防がれたのか!!
彼の呪の防御障壁か!?
背部からも力を感じる
龍斗と加藤だ
ありったけの力を、彼に飛ばした
彼は棒立ちのまま、口の端が笑っている
そして
「……残念だよ、その程度とは……」
笑みを残したまま、そう言った
「加藤君、だったかな? 確かに素晴らしい力だ 私以外、胡桃よりも強い双眼とはな…… だが、それでは足りんなぁ…… 5個程度ではな……」
5個?
何の事だ!?
彼は続けて言った
「…… 良いそよ風だ…… 春の夜風だな…… ククク…… 胡桃と加藤君は双眼、龍斗は単眼だな? 5個のルビーアイ程度では私を倒せんよ! 力は体力に比例する…… お前達の若さ、体力、その程度では無理だな!!!!」
彼に手を、力を向けたまま加藤は口を開く
「ありゃぁーー…… もっと筋トレしとけばぁー良かったなぁー……」
ハハハと困った表情を見せた
そして
「あんたはぁー…… 強ぇーなぁー…… でもよぉー それは過信だぁー! 力っつーのはなぁー…… 体力だけじゃねぇーー!!!」
何を言っている!?
彼の力には今現在、及んでないのに!
「アンタには、心がねぇ! 一番強ぇーのは…… 思いの…… 心の力だ!!!!」
瞬間の違和感
ソレを私は口にした
「え!? 加藤!? 貴方、いつもの口調は!? あの間延びした口調は!?」
「ん? アレか? ありゃバカっぽく見られるよーにさ!」
「何で!?」
「俺は昔から何でも程々に巧く出来る奴でね♪ 嫉妬されて敵作るよりはバカっぽくしてると、それだけでちょうどイイのさ!」
呆れる……
「全く、謀られたよ……」
両手を彼に向け、私達3人は少し、笑った
この緊張感の中でこんな会話
ムードメーカーとは加藤の様な人を言うのだろう
更に加藤は彼へ言い放った
「アンタは言った! 胡桃よりも俺が強ぇと! 違う! 解んねぇのか!? 一番強ぇーのは胡桃だ! 胡桃は龍斗と心を一つにした! コイツらの想いは強ぇ! テメーにゃ負けねぇ!」
加藤は続けて怒号を放つ
「それにな! 体力は必要だ! でもよ、一番強ぇのは識る事だ!! 計算に強ぇのは解き方を、数式を識っているから! ケンカにに強ぇのは倒し方を、相手のクセを識ってるから! だから俺の持つ力も全て教えた! 胡桃に! コイツが最強なんだ!!!! テメーの誤算は胡桃の本当の強さを…… 識らねー事だ!!!!」
私が強い!?
バカな!?
加藤の次元の違う力に屈服した事もある私が!?
それに加藤から貰った知識!?
それは何だ!?
ハッタリか!?
私は加藤を見た
加藤は私を見る
そしてニヤリと笑い、口を開いた
「いくらアンタが強くても、その力…… そりゃ一点に纏めた物だろ!?」
そうか!
そうゆう事か!?
加藤は私にコクリと頷く
コレは…… 合図だ!
私は飛んだ
加藤も飛んだ
私はパパの右後方
加藤はパパの左後方に!
そして出来うる限りの力を放った!!
彼の上衣が吹き飛び、その鍛え上げられた筋肉が露わになる
そしてドスリと、右膝をついた
今だ!
そう思った瞬間だった
彼の口が歪み
「ちぃ…… なるほどな…… だが!!」
彼は立ち上がり右手を龍斗に向ける
力が放たれた!!!
吹き飛ぶ体
「ガハッッッッッ!!」
ズガァァァァァン!!
嗚咽と衝撃音とが一度に鳴る
壁に叩きつけられた龍斗はその体を少し壁にめめり込ませ、そのまま膝から落ちた
「…… やはり、前方が甘い…… ククク……」
ぐったりとした龍斗はピクリとも動かない
彼はニヤリと顔を変える
そして、後ろに居る私達に振り返り、こう言った
「ククク…… そんな跳躍が出来るとはなぁ…… だがその方法で3面を補うのは無理だな…… 龍斗は単眼…… 力が弱すぎる…… そして龍斗が欠けた…… もう無理だな」
そう言い、私達にまた背中を見せ、龍斗を向いた
彼の背中が震えた!?
恐怖では無い……
この状況で……
笑っているのか!?
それ程までに私達と力の差があるのか!?
「龍斗に起き上がられると面倒だな…… 今の内に壊すとするか…… 胡桃…… お前の為にも壊してやろう」
悪寒が走る……
緊張が走る……
壊す?
龍斗を?
ヤメテ!
ヤメテ!!!
「ヤメテエェェェェェェ!!!!!!」
私の虚しい叫び
彼は右手を龍斗に向けた
バシュッッ!!!
そんな音と共に
龍斗の顔が
赤く、染まった




