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共生世界  作者: 舞平 旭
祭り
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誘い

 日暮れに近くなると、村人達はますます落ち着かなくなってきた。『御籠もり』が始まるのだ。御宮は鳥居こそなかったが、屋根は大きく張り出した切妻造りで、床が高く、明らかに神社建築だった。境内には本殿の床と同じ高さに小舞台が新たに組まれ、赤とオレンジ色の布が敷かれた木製の短い通路で本殿と繋がっていた。舞台を囲むように御座が大量に敷かれていて、振舞い酒の準備がされていた。


「タカヨシ、これを首に巻いて」


 レイヨから1メートルほどの長さの赤い布が渡された。裏は淡いオレンジ色をしていた。周りを見ると皆首に巻いていた。


「これ何?」


 彼女は菊池の首に布を巻いてあげながら答えた。


御浄布ごじょうふ。とても縁起がいいのよ。御宮でなにかある時は必ず身に着けるの」



 二人が舞台の側へ行くと、そこで作業をしている若者の一人が彼女に声をかけてきた。


「おい、レイヨ!お前も手伝えよ!」


「わかったわよ!それじゃ、タカヨシ、キネリを呼んできてよ。さすがにお祭りには出るでしょ?」


 と言いながら彼女は若者の方に駆け寄っていった。


 一人残された菊池は、トボトボとキネリの定宿まで歩いて行った。彼女は菊池の家のそばに住居を充てがわれていたので、御宮からはそれほど遠くない。だが歩みは重かった。彼は彼女が苦手だった。声をかけたってどうせ、


「興味ありません」


 とか言われて断られるだけだ。だがレイヨに頼まれたのだし、確かに誘うべきだ。


 キネリの宿は菊池の家よりはかなりこじんまりとした作りだった。家は静まりかえっていて、彼の来訪を拒む圧力を感じてしまう。菊池は意を決すると、戸を叩いて彼女を呼んでみた。


「キネリ、いるかい?」


 しかし返事はない。再度声をかけたがやはり返答はなかった。戸は鍵がかかっていなかったので、ゆっくりと開けて玄関に入った。


「おーい、いないのかー?」


 と廊下に向かって呼びかけたが、返事の代わりに微かに物音がしたように感じた。


「おーい、いるのか?少しお邪魔するよー」


 家に上がると、居間に向かった。


「キネリー。キネ・・・」


 彼女はそこにいた。眼鏡を外して仰向けに寝ていて、普段の彼女からは想像ができない無防備さだった。本を読んでいて寝てしまったのだろう。上着を脱いだ白のブラウス姿で、タイを緩めて第一ボタンを外していたので、胸の谷間が少し覗いていた。タイトスカートもやや乱れ、白いガーターベルトがわずかに表に出ていた。眼鏡をかけた姿しか見た事がなかったが、眼鏡を外した彼女がかなりの美形だったのに驚いた。菊池はやや躊躇したが、彼女に近寄ると声をかけた。


「キネリ、おい、起きろよ。祭りが・・・」


「とうさま・・・」


 彼女は悲しそうな顔でつぶやいた。今にも泣き出しそうな顔で。彼はそれ以上声をかけることができなくなってしまった。いつもの高飛車な態度からは想像できなかったが、彼女にも辛い思い出があるのだ。父親のことだろうか。父親に死に別れて、そして父の愛情を知らずに育ってきた。それであんなに他人に厳しく当たるのかもしれない。菊池の妄想はどんどん膨らんでいった。キネリの枕元で、彼女の過去をあーでもない、こーでもないとブツブツ呟きながら考えているうちに、当初の目的を忘れていた。


 キネリが、

『本当はある国の姫で、家臣の謀反で父親が目の前で殺され、房の国に逃げてきた』

 所で、彼女がいきなり眼を覚ました。


「誰だ!」


 キネリは目の前の菊池に驚くと、反射的に彼の顔に拳を叩き込んだ。


「むぐっ!」


 菊池の頬に彼女の右拳がめり込み、『キネリ姫』の妄想は四散した。彼はそのまま後ろに吹っ飛び、床の間の柱に頭をぶつけた。


「あ!菊池」


 彼女は急いで彼の元に駆け寄ると、身体を起こすのを手伝った。


「すまなかった。大丈夫か?」


 菊池は口角から血を流し、頭を抱えながら起き上がった。


「イテテ。大丈夫・・・。少し口の中を切っただけだよ・・・。そろそろ祭りが始まるから行かないかと思って」


 頭がズキズキした。触ると後頭部に大きなコブができていた。


「・・・いい。私は騒々しいのは苦手なんだ」


 キネリは下を向きながらボソボソと答えた。


「そんなことないよ。きっと楽しいからさ。行こうよ」


「いいから、放っておいてくれ」


 彼女は後ろを向いてしまった。彼はそんな彼女の後姿を見てため息をついた。面倒な奴だ。やっぱり予想通りじゃないか。だが、いきなり殴るか、普通?もう『キネリ姫』のことはスッカリ忘れてしまっていた。それよりも、いつも高飛車な彼女に仕返しをする好機と捉え始めていた。


「それはダメだよ。だって君は僕のことを殴ったんだよ。何もしてない僕を。痛かったなー。まだ頭がズキズキするよ。ほら、でっかいコブができてる。歯も少しグラグラする。そのお礼はさせてもらわないとな」


 彼は悪戯っぽく話した。


「・・・それじゃ、殴り返してくれていい」


 そういうと、彼女は顔をあげて歯を食いしばった。眼をつぶり、長い睫毛が細かく震えていて、彼女の緊張が伝わってきた。菊池は、可愛いな、と思い苦笑した。


「そんなことしないよ。そんな可愛い顔を殴るなんて、できるわけないだろ?」


「可愛い・・・私が?」


「ああ。それより罰として、一緒に祭りに行ってよ。それに君は僕の護衛だよね?黄持さんが言ってたよ。祭りなんて皆酔って、何してくるかわからないから、護衛は必要だよ」


「だが私は・・・」


 しかしキネリはそれ以上は反論することはできず、菊池に押し切られる形で祭りに参加することになった。

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