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共生世界  作者: 舞平 旭
レイヨとの別れ
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テルネの不安

遥か先の方から、再び竹ボラの音が微かに聞こえた。

そして本隊から点呼のための虫呼が発せられた。彼女は問題のない由を『平文』で返信した。定時連絡だが、味方からの合図は孤独感を癒してくれた。

この深い森の中では、味方の位置を把握するのは容易ではない。虫呼や竹ボラも大切だが、最後は自分の感覚勝負となる。彼女は周囲から聞こえる様々な音に惑わされないように、感覚を研ぎ澄ませた。


個人差が大きいが、近距離ならば、渦動師はお互いを認知できる。渦動口を開いていれば、更に遠距離から探知できた。

探知能力の高い共生者集団である『探索組』とまではいかないが、彼女は探知能力に優れている方だった。そして、何故か墮人鬼もわかる、いや、わかる様な気がした。

『喰余り』に接した時の何とも言えない感覚・・・。

そして彼女は今までに感じたこのとない不安や嫌悪を感じていた。


その時に再びタテガミのことを思い出した。

タテガミは彼女の恋人だった渦動師である。

彼女は首飾りをまさぐった。ペンダントヘッドには青い光石が埋め込まれていた。彼からのプレゼントだ。

彼は幼馴染みで、3つ年下の彼女には兄のような存在だった。彼は背がかなり高く、どちらかといえば痩せ型で、彼の胸がテルネの特等席だった。

共生者は12歳になると『聖餐せいさんの儀』を受けなければならず、1~2年後に、上手くいけば修技館に入学する。

優秀な渦動師だったタテガミは、修技館の3年目で得心生になり、彼女に多くのことを教えてくれた。

ここ数年はお互いに任務地がバラバラとなり、殆ど会えなかったが、定期的な便りはあった。しかし半年程前に修行に出てしまってからは、便りすらなくなった。

多分、彼はテルネのために身を引いたのだ。


彼は元気だろうか・・・。

彼は私のことを覚えているのだろうか。


ダメだダメだ。

集中しなければ。

私はどうしてしまったのだろう?

何かがおかしい。

歯車か噛み合わない。

修行者の心配などいらぬことだ。

我々渦動師の間では、彼のように上から修行の命令が出ることはとても名誉なことなのだ。それに修行者が外部との連絡を断つのは当たり前だ。身を引くなど関係ない。


テルネの思考は迷走する。


しかしなぜコウラは墮人鬼が湖に向かうと確信しているのだ?

これだけ広い森だ。奴が向きを変えれば、見つけるのは苦労するだろう。

それとも、囮に必ず食いつくと信じているのか?

数時間前に子供1人平らげたばかりなのだ。いくら墮人鬼でも満腹ならば襲わないかもしれない。

大体、こんな穴だらけの作戦を何故行うのだ?

湖に向かうというなら、湖に網を張れば良いではないか。本隊が後背からというのも馬鹿げている。


何か考えてないと気が休まらないが、考えがまとまらない。タテガミのことを考えたり、命令に疑問を投げかけたり・・・。


愚かな作戦は、別に今回が初めてではない。それに軍の作戦は、概要のみで詳細が決められていない場合が案外多い。自由裁量の幅を増やし、命令違反のリスクを減らしているのだ。また個人の力量に委ねているという面もある。

往々に共生者は、とても論理的で打算的な行動をとる。ともすれば、それは利があれば敵に寝返ることも躊躇ちゅうちょしないことを意味し、集団行動に敵した人種とは言い難い。そのため軍では、命令違反には厳罰を課していた。自軍に与えた損害如何では極刑もありえる。しかし共生者達は、罰則を恐ると言うよりは、命令違反による不利益と、命令に従った場合の不利益とを天秤にかけて行動を決めている。もしどちらかに決めれば、極めて真面目に行動するのも彼らの特性ではあった。そのため、そのような状態に兵を追い込まないように作戦立案がなされる。

この作戦だって、獣に逃げられたら構わないと、敢えて穴が開けられているのかもしれない。それに、指揮官が前線に出ていて、指示も他の作戦よりは細かい。コウラはまだまともな方だった。


『喰余り』を見てからというもの、彼女は落ち着きがなかった。


少女の惨殺体が精神的ショックになっているのだろうか?


だが三期に至っている渦動師の自分に、そんな『心』があるとは思えなかった。もし仮にそうであるなら、歓迎すべきかもしれない。昔に感じていた、懐かしい感情は、無くしてから久しい。

それともこの森のせいなのかもしれない。この森には内部のモノを飲み込み、そして惑わすような雰囲気があった。

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