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共生世界  作者: 舞平 旭
祭り
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村巡り

 幕多羅は小さな村だが、街路や上下水道が設置され、かなり環境整備がなされていた。村の中心は小高い丘で、そこは広場になっており、木造だが立派な議事堂が隣接して建っていた。


「ここが議事堂。私のお父さんも議員なんだよ」


 レイヨは議事堂の門をくぐった。議事堂は二階建てで、全体に簡素ではあったが、柱などには飾り彫りが施された堂々たる造りだった。前庭には小さな噴水もあった。


「へえ、凄い建物だね」


「今度、中を見学させて貰おうよ」


 広場には東西南北に道が延びていて、東と南には林があり、南の奥には御宮が建っていた。御宮から林道を抜けると、道は二つに別れ、一つは例の広場へ、もう一つは多摩川へ続いていた。それ以外には町並みが道に沿って連なり、その先は、西は市場、北は広大な放牧場の丘となっていた。西は林が続き、しばらく進むと大きな、匙の国につながる街道に行き当たる。また北は扇のように連なる山々に続いており、遥か先には毛の国がある。東側は先程の議事堂があった。

 二人はそのまま広場を抜けて南の林の方に下って行った。議会から少し離れた所には、林に囲まれた御宮があった。すこぶる荘厳な造りで、議事堂と同様、この村には行き過ぎたきらいがある。御宮の周囲では祭の準備を沢山の人々が行なっていた。


「ここでお祭りをやるんだ。まだ準備してるから、もう少し後になったら来てみようね」


 祭りの準備に駆り出されていたのは、レイヨと似たような年代の若者達が多かった。最近気がついたが、幕多羅には高齢者が少なかった。賄いのお婆さんより高齢な人は余り見かけず、そう考えると塩土もかなり高齢のグループに入った。これは医療過疎地だからだろう。診療所はあったが、エクタは隣の村の回療師のため、週に2、3日も開院してはいなかった。もし自分が生き続けられるなら、ここにクリニックを開いてもいいな、と菊池は散策しながらのんびり考えていた。



 広場に戻ると、二人は西に向かった。そこには市場があり、この村の規模からは考えにくい数の店が軒を連ねていた。店の種類も豊富で、とても地産地消ができる規模ではなかった。


「市場、随分大きいね。外からも買いに来るのかい?」


「うん、沢山来るよ。幕多羅の市場は、この辺りで一番大きいんだよ」


「なんで?」


「さあ。知らない。みんな幕多羅が好きなんでしょ」


「それは、税が安いからですよ」


 後ろから声をかけられ、二人は振り向いた。そこには両手に荷物を持った青年が立っていた。


「あ、リツモ!」


 リツモと呼ばれた若者は、菊池を見ると軽く会釈をした。背はそれ程高くないが、筋骨はたくましい、温和な容貌の青年だった。年齢はレイヨぐらいだろうか。菊池にとって『外人』である彼らの年齢は判断しづらかった。


「今日は。菊池さんですよね。幕多羅はどうですか?活気があるでしょう?」


「確かに。やはり、祭りがあるからかい?」


「はい。村一番の行事ですから。でも市場はいつも混んでますよ」


 ニコニコと人懐っこい顔で笑っていた。目が細く、何処と無く黄持を思い出させた。


「何故ここの税が安いの?税は村が独自に決めてるってこと?」


「そんなことはありません。税は国が決め、我々はそれに従うのみです。幕多羅の税が安いのは、村長のお陰です」


 いわゆる『特区』というやつか、と菊池は考えた。塩土は食えない老人だったが、やり手なのだ。


「どうりで、この村は整備されていると思った。こんなに設備が整っていると、近隣の村から羨ましがられるんじゃないかな?」


 この言葉に、リツモの表情は硬化した。切れ長の目が引きつるのが見て取れた。


「幕多羅を?誰が?」


「い、いや・・・」


 菊池は彼の変貌にたじろんだ。


「そんなはずないでしょう?どこの誰が、こんな『放生ほうじょうの地』を羨ましがるんですか?」


「いや、何か気に触ったなら謝るよ。無神経な言葉だったみたいだね」


「あ、いえ・・・」


 リツモも直ぐに我に帰ると、自分の非礼を詫びながら、逃げる様に市場から離れていった。


「レイヨ、彼は何が気に障ったのかな?」


「いいから、行きましょ」


 彼女も答えようとはせず、さっさと先に行ってしまった。

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