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共生世界  作者: 舞平 旭
常世
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レストランでの事故

 常世は様々な人種の人々が生活していた。西暦世界で言う北米系からアジア系、アフリカ系まで雑多である。この人種の坩堝るつぼの状態は、明らかに幕多羅とは異なっていると菊池は思った。幕多羅の人々は全体に良く似ていた。肌が白く、体躯は背が高く足が長い。瞳はブルーが多く、髪の色はグレーから金髪など東欧系の人種のような特徴が多かった。当然、例外も少なくはないが、それでも偶然にしては共通項が多かった。幕多羅と常世では人口比だけでも500倍は下らない。言わば、農村と大都会の差があるのだから、民衆の人口構成に差があって然る可きだ。しかし人種だけでなく、幕多羅では村民個々が似ているように感じて仕方がなかった。これはおかしな感覚である。当初は自分が東洋人だから区別がつかないのかもしれないと思っていたが、常世で適応者を見た時、やはり勘違いではなかったと確信した。幕多羅とは縁も所縁もないだろう常世の適応者達も、どこか幕多羅の人達と似ていたのだ。しかしその待遇は、幕多羅とは天と地ほど違っていた。常世での適応者達は、都市の最下層の仕事をこなしていた。格好は薄汚れ、ひどく痩せ細った人も少なくなかった。



 4人は大通り沿いのこじんまりとした店に入った。予約してあったらしく、待つこともなく座ることができた。席は店の奥のやや囲まれた特別席である。店の主人が黄持に挨拶に来ると、すかさず前菜が運ばれてきた。食事はコースになっており、ゆっくりとした時間が過ぎていった。味はやや薄いが美味く、種類としては和食より洋食に近い。


「美味しい!これ、何?何て魚?」


 レイヨは夢中で頬張っていた。


「ははは。これはサギの焼き物です。常世の名物です。お代わりもありますから、慌てないでくださいね」


 一同は笑いあった。キネリ以外は。



 その時、店の前で大きな音と悲鳴が発せられた。


「キャー!」


 突然、何かが窓を突き破って店内に飛び込んできた。硝子片が辺りに飛散する。


「キャー!」


「うあー!」


 窓際のテーブルの客達は、驚いて席から飛び退いた。店の奥の席に座っていた菊池達は無事だったが、菊池は素早く立ち上がると、窓際のテーブルに駆け寄った。食事の置かれたテーブルの上に、若い女性が仰向けに倒れていた。顔は苦痛に歪み、頸部を大きく損傷していて、そこから血液が噴き出ていた。菊池はそばのナプキンを取ると、急いで創部を圧迫して止血を開始した。


「誰か、医者を!」


 ナプキンは見る見るうちに真っ赤に染まっていった。黄持とキネリは患者の腕に少し触ると、視線を合わせ、横に頭を降りあった。そして黄持は菊池に言った。


「菊池さん、残念ですが、彼女は助かりません。馬車に引かれたようですが、運が悪かった」


「何を言ってるんですか?脈拍が落ちてます。早く心臓マッサージを!」


 しかし黄持は菊池の肩を掴んで頭を横に振った。


「いいですか、菊池さん。彼女は共生者です。普通は交通事故なんかじゃ死にません。私が回術を行えば助かります。ですが、この傷は致命傷です。脳がやられてます。助かりはしません。『芽』も死は避けられないと感じています。それならば、彼女の死を悪戯に引き延ばしてはいけない」


 菊池はキネリを見たが、彼女も頷いていた。間も無く、女性の出血は嘘のように止まったが、その相貌は真っ青で、瞳孔は縮瞳し、視線は泳いでいた。


「大丈夫ですか?わかりますか?」


 菊池は頸から手を離すと女性に話しかけた。しかし話は通じていないようで、何の反応も示さず、ただ全身をビクつかせ、眼をわずかに動かすだけだった。口角はやや緩み、まるで夢でも見ているようだった。

 しばらく後、回療所から救急馬車がやってくると、女性を運び出していった。驚いたことに、彼女はまだ生きていたが、回術師達はまるで死体を運ぶかのようなぞんざいな様子で運んでいった。

 それを見ていた黄持は、笑いながら、


「それじゃ、料理が冷める前に食べましょう。さあ」


 と何事もなかったように席に促した。正にまるで何事も無かったようだった。キネリもまるで表情を変えることも無く席に着いて食事を再開した。菊池とレイヨは食欲が急激に減退したというのに。

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