もう、感染ったよ
レイヨは自室のベッドの上で、枕に顔を埋めて一人で悶々と塞いでいた。幕多羅に着いてからというもの、彼女が会いに行っても、彼は体調が悪いと言って会うことを拒んでいた。
タカヨシは私を嫌いになったのだろうか?
恋人がいるような話をしていた。どんな女性なんだろう?きっと都に住んでいるような華やかな人なんだろう。タカヨシはとても頭がよく、指は細くて都会的な印象があるから。私みたいな田舎者はダメなのかな。
レイヨは菊池の冷たい態度に、心底落ち込んでいた。
もう行きたくない。自分が惨めになる。もう明日から行かない。行かない。
「ぜっっったい行かない!タカヨシの馬鹿野郎!」
彼女は枕を自室の扉に投げつけた。
翌日、レイヨは菊池の家の前にいた。どうしても彼のことが忘れられなかった。しかし入るかどうか迷っていた。
「これでまた会ってもらえなかったらどうしよう」
彼女は家の前を行ったり来たりしていたが、どうしても中に入る勇気が出なかった。
「今度嫌がられたら自殺もんだよ。ああ、どうしたらいいの。なんであいつは会ってくれないの?私が何をしたっていうの?こんなにこんなに会いたいのに!」
レイヨが再びターンしようとすると、目の前に菊池がいた。
「やあ」
彼はどうしたらいいのか戸惑ったような顔をして、手を振った。
「聞こえた?」
レイヨは恐る恐る聞いた。
「まあ。大きな声で呟いてたから」
彼は照れて頭をかいた。一瞬でレイヨの顔は真っ赤になり、走り出していた。
「待って!」
菊池は急いでレイヨの腕を掴んで引き寄せた。
「イヤイヤ!」
彼女は彼の腕を振りほどこうとしたが、彼は彼女の身体をしっかりと抱き寄せた。
「待って。話を聞いて欲しい」
彼女は彼の顔がかなり近くにあることに気づくと、赤面して俯いてしまった。そして菊池も慌てて彼女の体を離し、二人とも真っ赤な顔をしてその場で背を向けあった。
「ご、ごめん」
「こ、こちらこそ」
「す、少し話をさせてくれないか?」
「はい・・・」
二人は菊池の家に入ると、板の間に向かい合って座った。まだ俯いて恥ずかしそうにしているレイヨに、菊池が話し始めた。
「ごめん。君のことが嫌いになったわけじゃないんだ」
「じゃあ、なんで?なんで会ってくれないの?」
「・・・僕は知っての通り、病気なんだ。この病気は人に感染す可能性があるんだ。だから・・・僕は」
「そんなの!」
「いや、君が思っているような病気ではなくて、とても危険な・・・」
しかし、彼は全てを話すことはできなかった。いや、話す必要がなかったのだ。彼女は彼に飛びつくと唇を合わせてきた。勢い余って二人はもつれ合って倒れこんだ。二人は長く口づけをした後、上になっていたレイヨが唇を離した。
「もう、感染ったよ」




