MASAMI
菊池はミイラから離れると、部屋の隅のコンソールに向かった。ここから管理システムの『MASAMI』にアクセスできるはずだ。MASAMIはメインサーバーに接続されているので、多くの情報を引き出せるだろう。ウェット・スリープの管理をしているはずなので動作はしているはずだが、果たして端末が動くだろうか。
彼はMASAMIの端末を起動した。端末の青いLEDが点滅を始め、モニターがゆっくりと輝き始めた。
MASAMI: Multifunctional artificial suspended animation maintenance intelligence
という文字とロゴマークが画面に浮き上がってくる。MASAMIは低いうなり声を立てながら眠りから覚めた。
「致命的なエラーが発生しており、セーフティーモードで起動しています。オペレーターの指示をお願いします」
彼女は流暢な日本語で語り始めた。MASAMIの画面の左下には、
Safty mode
と出ている。そしてプロンプトが点滅していた。GUIは搭載されていないようだ。有機ELモニターはドット抜けが多く、画像が不安定だった。
「MASAMI、対話モード」
「分かりました。対話モードに変更します」
画面からプロンプトが消滅し、
conversation mode
と表示された。菊池が何かと話をしているのを見て、レイヨは眼を飛び出さんばかりに見開いて驚いていた。そして騒ぎそうになるのを、菊池は手で制止した。
「今日は何日だ?」
「残念ですが、そのご質問にはお答えできません」
「なぜだ?」
「メインサーバーとの接続が確立できませんのでメモリーを再構築しております。そのため、日付は初期設定されています。申し訳ありません」
MASMIは普通のAIよりもかなり人間臭い応答をすると思った。これも高橋の趣味かもしれない。奴は変人だった。
「僕は何故起こされたんだ?」
「貴方のお名前をお伺いしても宜しいですか?」
「あ、済まない」
菊池はコンピューターに軽く会釈をして答えた。
「キクチさんですね?済みません。通常でしたら、メインサーバーから貴方の音声情報も含めて検索できるのですが、残念ながら、今はできません。外部カメラも損傷しておりまして、貴方のお顔から判断することもできない状況なのです」
「いいよ、別に。ただ、質問には答えられるのかい?」
「はい。ですが、貴方のIDが認識できませんので、個人情報や研究内容に関してはお答え出来ません。最もメインサーバーに接続できませんから、そのような情報は持ち合わせてはおりませんが」
なんとなく、MASAMIが笑ったような気がした。
「所で、さっきの質問はどうだい?」
「外部から覚醒シーケンスが入力されました」
「いつの事だ?」
「個人情報にあたりますので、お答えできません」
「もう少しで死にそうだったけど?」
「いいえ。通常のプロトコール通りに進んでいました。途中で緊急プロトコールが命令されましたが、ポッドの生命維持に問題はありませんでした」
レイヨの話と異なるが、コンピューターが嘘を言うはずがない。彼女が見誤ったのだろう。それとも、MASAMIは狂っているのか?あるいは誰かの策略か?でも誰が?




